仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第311話
1937年(昭和11年)一月十二日
仏蘭西 リヨン 空軍養成所
「ま、駄目もとだったんだが」
「世界一の自動車大国亜米利加、生産規格はもう仏蘭西のお手本といってもいいね」
「砂っぽい華北、湿っぽい江南、零下二十度の匈奴、経験値だけ詰めましたか?仏蘭西機」
「それが、どんな悪条件でも飛ぶ亜米利加機、ちょっとでも西岸海洋性気候から外れるものなら飛行することさえままならん仏蘭西機、勝負以前の問題でした」
「ということは、仏蘭西機であってもMS406は、不遇を囲わないといけないと」
「はあ、国内軍需産業界から悲鳴があがりそうだな」
「いや、あまりにも高いハードルを越えることができなかったという教訓としてもらおうじゃないか」
「ジャポンみたいに九気筒エンジンだったら、二位の地位はとれたか?」
「それがだな。仏蘭西からMS406を中国にもっていったせいで、新人練習用の機体は木戦で、これがすこぶる評判がいい」
「単に操縦しやすいってだけだろ」
「それがだな、軽い機体というのはある意味、正義だわ。簡単に宙返り飛行を新人がやってみせるわけで、教官の印象もあれ、MS406ってどこから戻ってきたのよ。いつ落ちるかわからん機体には少なくとも養成所ではいらないの一択」
「つまり、いつの間にか、MS406の用途がなくなっているというわけですか」
「それだけではなく、ジャポンから中国で木戦をとばせなかったことへの小言が、はい、これ」
「わが日本は、同盟国仏蘭西のために木戦の二人乗り機である木蓮の開発に成功いたしました。これは、仏蘭西空軍の主力爆撃機として採用するに値する機体であると自負しています。もちろん、そのためには仏蘭西にお披露目をしなければなりません。よって、同機体を仏蘭西本国並びに植民地で試験飛行をおこないたくあります。大国仏蘭西におかれましては、同飛行の許可をお願いいたします」
「ジャポンは、あわよくば戦闘爆撃機に続いて爆撃機に採用を働きかけてきましたか」
「仏蘭西の軍需産業に後ろめたい所があるところを狙ってくるとは、断りにくいですね」
「仏蘭西軍関係者がその飛行している姿を観察するには当然義務である。そんなわけで、許可してよいか」
「対して、断る理由はあるか?」
「同盟国といえど、国土を勝手に飛行してもらっては困るとか」
「軍事機密を除くと言われたらどうする」
「うっ、だったら戦争が近いので準戦時体制で不許可とか」
「戦争準備のために飛行させろと言われますよ」
「だいたい、我が国に使える爆撃機はあるのですか」
「はい、正直にいいますとありません」
「では、ジャポンの売り込みに対し、我が国は間に合ってますと言えないですね」
「そのあたりの呼吸をつかんで木戦が戦闘爆撃機として採用されたのです。木戦以上にジャポンが爆撃機として使えるというのなら、ためしにとばさせてください」
「はいーー。しぶしぶですが、許可を出します」
パリ 日本大使館
「おーい。木蓮改の試験飛行が許可されたぞ」
「えーと、もう少し難癖をつけられるかと思ってましたが案外素直に許可が下りましたね」
「先に仏蘭西は、我が国に断りもなく中国でp36とドンぱちしてくれましたからね」
「だったら、日本が仏蘭西領を有効利用してやる」
「まずは、ジブラルタルとカレー海峡の探査です」
「この日のために、磁性探査機を二人乗り爆撃機に押し込んだんだぞ」
「作戦名、潜水艦ホイホイのために下調べだ」
「両海域で鉄鉱石が多数ある海域を最初に調査しよう」
「一定以上の磁性数値が出たら、海底から鉄鉱石を回収できないか調査」
「それができなかった場合でも、海底で磁性反応を低減する方法がないか検討」
「それが終わったら、海底の地底図を大まかに作ってみる」
「磁性探査は、海底深くに潜られた時、反応が弱いですからね」
「その海底の最大深度がわかれば、戦争時の探査に有利」
「あのう、判定できるのは潜水艦だけですか」
「それは、鉄製の船だったら何でも反応しますから、海面上を戦艦が進行している時が一番強い数値を出しますよ」
「え、だったら、雲の中からでも戦艦を観測できるんですね」
「おまけだけどね」
「でも敵は驚きませんか」
「驚くかもしれないな。でも雲の切れ間からみえたと思うだろうな」
「そんなこと考えているよりも、これは骨の折れる仕事だぞ」
「それはもちろんですよ。ジブラルタルが終わったらカレー海峡、その後は、サンクトベルグ沖でしたっけ」
「それが終わったら、紅海出口」
「その後がイスタンブールですか」
「仏蘭西を襲う潜水艦は、英吉利と独逸以外に墺太利がある」
「墺太利だったらドックから出てこないでしょう」
「だからこそ、潜水艦の封じ込めが大事、黒海を露西亜の箱庭にできると大きいからね」
「ふう、日本近海はなかなか順番がまわってきませんね」
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