仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第318話

 1938年(昭和12年)七月四日

 ブレスト 仏蘭西海軍大西洋艦隊司令部

 「英吉利から出航した艦隊のゆくえは?」

 「現在、ジブラルタル海峡には入らず、アフリカ沿いに大西洋を南下中」

 「同艦隊は、ギニア湾沖を東進中とのことです」

 「同地域までは、北アフリカにある仏蘭西空軍基地より偵察飛行で追えましたが、これ以降、空からの偵察飛行はほぼ無理かと」

 「では、改めて艦隊の兵力を報告せよ」

 「はい、戦艦四、重巡洋艦四、その他二十。戦艦を先頭に二列縦隊で進行中」

 「そうすると、ジブラルタルに配備され、同海峡の火力増強ではないと」

 「はい、要塞砲の火力不足を戦艦で補いつつ、仏蘭西と短期決戦を目指す短期型の戦略ではないといえます」

 「では、次に同艦隊の目標となりえる重要地点を述べよ」

 「サハラ以南にあるアフリカ南部は、英吉利領ですがそこに大艦隊を配備しても利がありません」

 「仮にケープタウンに現在南下中の艦隊を停泊させた場合、その港を中心として襲撃する敵国がありません」

 「さらに、ケープサイズの船舶を襲うとなった場合、商船は荷を積み直してスエズ運河経由もしくは、シベリア鉄道経由で運輸できますから、通商破壊行為も効果がありません」

 「そういった理由で、アフリカで攻撃目標となる海域は、スエズ運河の入り口である紅海までありません」

 「ふむ、ではそのことを踏まえ、偵察機をソマリアに重点配備すれば問題ないか」

 「はい。たとえ、東アフリカ近海を北上せず、英吉利領となっている印度を直接向かう場合でも、ソマリアからの偵察で同様の効果が得られます」

 「よし、第一種戦闘配置を解く。偵察部隊以外通常勤務でよい」

 「「「了解」」」

 「ふー。へたれの英吉利やろう。戦争をするんならさっさとしろよ」

 「いい迷惑だわ。軍事機密だろうが、もっと短時間に情報を入手できなかったのか」

 

 

 パリ 大統領府

 「大統領、目下問題となっています英吉利艦隊の大移動ですが、アフリカギニア湾沿いを東進中。印度洋に姿を現わせるまで第一種戦闘配備を解除とのことです」

 「そうか。次に情報を得られるまで猶予は?」

 「五日間は問題ありません」

 「そうか。だが、少し情報収集が甘くなかったか」

 「空軍経由で入ってくる情報は速報性に優れていましたが、海軍経由の情報は空軍情報より二日遅れとなる場合が多かったです」

 「理由は?」

 「ただいま調査中です」

 「期限は、五日以内だ」

 「海軍経由の情報は、伝書鳩を利用したものでした」

 「空軍は?」

 「空軍は発足して日が浅く、ジャポンの乾電池を利用した無線機を使用しているとのことです」

 「無線機使用の有無が情報二日の差か?」

 「よく仏蘭西軍は、先の欧州戦争に引き分けれたものだ。伝書鳩連絡なぞ、ナポレオン時代より進歩していないぞ」

 「はい、それが陸軍に言わせれば先の大戦は塹壕線であり、情報伝達の速報性は問題なかったと」

 「つまり、その言葉で陸軍と海軍の情報伝達は伝書鳩だと認めているようなものだ」

 「おかげで、空軍がもたらす情報の確実性が阻害された」

 「とりあえず、情報伝達手段を空軍に準拠させよ」

 「で、これを取り入れた将校は誰だ?」

 「空軍の士官候補は空軍士官学校で履修しているとのことです」

 「よし、開戦が回避されそうなところで空軍には褒賞を、陸海軍には懲罰を」

 「それは必然の信賞必罰ですね。政治家としての首が先に飛ぶところだったわ」

 「で、空軍の発案者は誰だ?」

 「はい、空軍士官学校長のアンナ大佐です」

 「女は発想が柔軟でいいね。このまま、開戦となった場合、仏蘭西は独逸の無線連絡網に蹂躙されていたかもしれない」

 「今回の信賞により一階級昇進だわ」

 「そうだな。俺たちの首がつながったことを考えると安い褒賞だ」

 「それと、陸海軍の情報将校に対する必罰は?」

 「空軍士官学校への出向だ」

 「当然、士官候補生扱いで十分」

 「さてどうやったら、原隊に復帰できるようにするかな」

 「当然、無線通信を使いこなせるまででしょう」

 「どのくらいの期間が必要だろうか?」

 「三カ月ほどかかるかと」

 「ま、給料が一兵卒扱いになるわけだから必死にやってもらいましょう」

 

 

 

 

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