仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第319話

 1938年(昭和12年)七月六日

 パリ 大統領府

 「仏蘭西は準戦時体制だが、関係国等には連絡は順調か?」

 「露西亜からは、現状、仏蘭西の対応にゆだねるとのことです」

 「露西亜の場合、海から攻められるとしたら極東以外にあるまいから楽だわな」

 「露西亜は海外領土が少なく、仏蘭西のように七つの海を駆けて英吉利と渡り合うようななことにならないからな」

 「伊太利からは、こちらからの連絡に対し、英吉利艦隊がジブラルタルに向かう可能性がなくなった地点で、こちらへの謝辞を述べられたのみです」

 「伊太利はそれでよい。対墺太利に専念してもらえばよい」

 「次に、準戦時体制に移行したことで、国内外に様々な連絡がいっています」

 「まず、国内についてきこう」

 「お役所関係では、徴兵年齢にある年齢の把握。武器弾薬の在庫確認の他、マスメディアの統制。国民への公示等、一通りのことをおこなっています」

 「よろしい。ではその他は?」

 「戦時物資の調達を戦時体制への試験段階と考え、二カ月分を戦時発注いたしました」

 「それは、一ヶ月後に納品されるように手配したのか。具体的には?」

 「戦闘機を亜米利加に、戦闘爆撃機をジャポンに戦時発注いたしました。現状、昼間生産のものを昼夜間体制にしてもらうことで応対してもらうつもりです」

 「よし、関係各国に今回はやり過ごしたとしても戦争の足音が近づいていることを理解してもらうのも重大な案件だ」

 「最後に、この機会にパリから遷都しマルセイユに首都を移すべしという意見があがっています」

 「これにつきましては、対案が出ております。パリとマルセイユの二択だから駄目なのだ。戦争に巻き込まれる確率が高いパリを遷都し、なおかつ地中海沿岸の安全地帯に引っ込むのではなく、国土の均等ある発展並びに安全地帯と戦争は九地域の中間点に位置するリヨンに遷都すべしという意見も上がっております」

 「パリ圏が一番なのは認めるが、遷都というものは、国土の均等ある発展が必要だというのが二番手並びに三番手のリヨン、マルセイユの主張です」

 「これには、仏蘭西中部圏がリヨンを、南部圏の意見としてはマルセイユを推されています」

 「一言でいえば、欧州大戦にかこつけて総論で遷都に賛成。各論でマルセイユを推せば北部圏と中部圏が反対。リヨンを推せば北部圏と南部圏が反対と三つ巴となっています」

 「外交関係に明るい国際派からは、同盟国露西亜を見習え。サンクトペテルブルクは独逸に近すぎるという理由でモスクワに遷都した前例があるといってききません」

 「いくつか却下した理由があったよな」

 「パリは仏蘭西という国ができる前から首都だったという事実ですね」

 「少なくともロンドンより首都としての歴史は古いよな」

 「ただし、ローマ帝国が西暦一世紀に建設した都市を首都とするのでしたらロンドンの勝ちですね」

 「それは首都ローマであり、最果ての地ロンドンというのが正しいだろ」

 「確かに、ローマ帝国は五世紀になればロンドンを放棄しているのであるから、少なくとも首都ロンドンはそれまで該当していないよな」

 「やはり、ロンドン周辺では、エドワード懺悔王が建立したウェストミンスター寺院の時代を起点とすべきでしょう」

 「その頃、十一世紀だよな」

 「というわけで、五世紀からの首都であるパリを歴史的に遷都するのは難しい」

 「さらに、首都圏人口が違う」

 「確かに、パリは一桁リヨン、マルセイユを引き離しています」

 「もっとわかりやすくいえば、リヨンとマルセイユの人口を足してもパリには及ばない」

 「それというのも、全ての道はローマにつながるという時代もあったが。仏蘭西は官僚国家の国、全ての道はパリの凱旋門に通じるように造られているといっても過言ではない」

 「芸術の都パリを遷都するのは、芸術家全員を敵に回すだろう」

 「世界中のからやってくる観光客も敵にまわるだろう」

 「それ以外、我々は対策を建てた。地中海沿岸に工場移転した場合、税金上の優遇、優先的行政との掛け合いをして、来るべき欧州大戦に備えている」

 「それだけではない。パリ―リヨン―マルセイユの基幹を最優先鉄道工事区間に指定し、同区間の速度向上、大量輸送化、電化を推し進めている」

 「欧州大戦が起これば、地中海沿岸地域で製造した武器弾薬を北上する手段をすでに準備している」

 「国防上、地中海沿岸が国土発展の大半を占めるように企業を誘導している」

 「だから、国防関係の企業はパリに残っていない」

 「重化学工業もしかり」

 「地中海沿岸に石油基地を建てるのは認めているが、大西洋沿岸には認めていない」

 「大学の新設も地中海沿岸部しか認めていない」

 「諸君、我々執行部にこれ以上何ができるというのだ」

 「できることがあるというのならばいってみてくれ」

 「あのう、三権分立ですよね。行政のトップをパリから動かせなにないのであれば、少なくとも裁判所の移転を検討していただけないでしょうか」

 「よく言ってくれた、その意見を待っていた」

 「そうそう、少なくとも世間の注目をその流れにもってゆく。それで時間稼ぎをしておこう」

 

 

 

 

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