仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第321話
1938年(昭和12年)七月四日午前中
亜米利加 アパラチアラジオ放送局
仮想戦争を中継中
「諸君、我々大英帝国第二艦隊は、ここパナマ運河海域直前まで作戦任務を知らされずにきた」
「イエッサー、提督。提督自体も知らなかったのですか?」
「そうだ。ただ一つ、我々の第二艦隊に命じられた指令はパナマ運河海域直前で諜報部隊と落ち合えと」
「では、何が起こるか、誰も知らないのですね」
「では、前置きはここまでにしよう。諜報部隊のトップ、トーマスに話をつけてもらおう」
「紹介いただきましたトーマスです。皆さんは、ここに艦隊がやってきた理由は知らないのでしょうが、これより説明に入らせていただきます」
「よろしくお願いします」
「まずは信じられないでしょうが、昨年の十二月に北海上空でUFOが確認されました」
「それは、一般の兵に知らされていませんが軍事機密だったのでしょうか?」
「正確にいえば、目視されていません。しかし、我々は十二月三十日午後三時八分に北海上空一万メートルをカリブ海方面に進むUFOを確認いたしました」
「目視されていないUFOならば、なぜそれを断定できたのでしょうか」
「原理を言いますと、蝙蝠は超音波を前方に発声してその跳ね返り音で前方の障害物を探知できます。これの原理を用い、大気中を飛行する物体に応用することが最近できつつあります。最も大気圏に放出する波長は、二十五センチです。電波で探知できたというわけです」
「UFOは、我々の目を欺いたものの機械の目を欺けなかったということでしょうか?」
「正確にいえば、目視は波長四百ナノメートルから八百ナノメートルの区間にある光を反射する物質を目でとらえているわけです。ですから、UFOは、その区間の光を透過することができる装置を積んでいると予想されます」
「二十五センチの電波は、透過することができなかったということでしょうか?」
「あえていえば、大英帝国の科学力を軽視していたというべきでしょう」
「その根拠を申し上げることはできますか?」
「太陽光を三角プリズムで分光しますと、赤色波長の光は屈折が小さくなります。逆に青色波長の光は屈折角度が大きくなります。赤色波長は長く、青色波長は短い波長です。端的にいいますと波長が長いほど障害物にぶつかっても直進しやすく、波長が短いほど直進性が劣ることになります。よって、本来ならば波長五十センチの電波より、可視光線を透過する方が技術的に難しいのです」
「ということは、大英帝国の科学力をなめているということですか?」
「それは否定できませんが、可視光線域の光を透過させる物質と並行して電波を透過させる物質は、一つの外壁でできようがありません。大気圏突入を図った宇宙船に必要以上の物資を積み込むことはできません。人間の目を欺けばそれでいいと判断するのは合理的判断であると考察いたします」
「では、UFOの出港地はどこなのですか?」
「火星である可能性が一番高いと申し上げていきます」
「我々の敵は火星人なのですか?」
「我々諜報チームは、カリブ海に派遣された後、半年間にわたって敵の基地を探索しました。その結果、パナマ運河のあるガトゥン閘門付近に擬態しているのを確認できました。これがその内部写真です」
「どれどれ。おや、本当に八本の脚に蛸の頭のようだ」
「これ、中央の一まわり大きな火星人は?」
「どうやら、敵の大将のようです」
「この大将を倒す方法は?」
「艦隊による要塞攻撃の形式をとっていただきたくあります」
「つまり包囲して一斉射撃か」
「敵の所在地は、ガトゥン閘門そのものと言うところです」
「攻撃手段はわかったが、あれは亜米利加の所属となるもの。亜米利加に攻撃させるのが筋ではないか?」
「残念ながら、時間がない。今日の攻撃機会を逃せば、よくて所在転移。悪くすれば、擬態完了と共に火星人からの先制攻撃がやってくる」
「つまり、この場で攻撃する以外の選択肢はないと」
「その通りだ」
「亜米利加に対する説明はどうするのですか」
「最悪の場合、亜米利加との戦争を覚悟されているようだが、我々の知らない未知のパーツがわんさかと出るだろう」
「その一つを亜米利加に渡せば問題ない」
「ガトゥンガ閘門が破壊された場合はどうする」
「亜米利加に責任を負わす。火星人の地球侵略された責任を果たしていないものとして糾弾。もしくは、火星人に責任を転嫁する。たまたま、パナマ運河付近で火星人による先制攻撃を受けやむなくは反撃に出たものとする」
「では、我々大英帝国艦隊は、命令にしたがってガトゥンガ閘門に潜在する火星人を包囲完了の後、一斉攻撃をおこなう」
「諸君、なるべく自然な成り行きで包囲陣形に移行したまえ」
「「「いえっさー」」」
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