仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第322話

  1938年(昭和12年)七月四日午前中

  亜米利加 アパラチアラジオ放送局

  仮想戦争を中継中

 

  ガトゥン閘門に擬態中の宇宙船艦内

 「女王様、地球上に適応できるように船体の改造終了まで十二時間となっております」

 「ふむ。地球上に着陸することで計算外なことが起こったからな」

 「はい。火星の大気は、二酸化炭素がほとんど。残り五パーセントを窒素とアルゴンが占めます」

 「ここまで挙げられた大気成分は、不活性なものばかり」

 「アルゴンは、希ガス。窒素は摂氏百度未満の世界ではほぼ反応性なし」

 「二酸化炭素は、酸化反応の最終形態ゆえ、酸化作用が皆無」

 「火星上の酸素は、地球上の二酸化炭素濃度といい勝負。無視しても問題ないレベルなんだが」

 「さらに、火星上では氷点下四十度。二酸化炭素の活性がかなり小さい他、酸素の酸化作用がことのほか小さくなります」

 「だが。宇宙船で地球上に着陸してみれば、宇宙船表面が錆を噴く非常事態に」

 「単純なこと。火星上では金属単体で保存できる」

 「しかし、地球上では摂氏三十度の世界。金属単体は、鉄にとどまらず銅まで酸化。もはや、地球環境に適応させるためのフィールドに対し生成エネルギーを九十九パーセントまでまわすことで対処」

 「で、銅が酸化する原因が分かったか?」

 「はい。典型的なのは火山が産出する二酸化硫黄のせいですね。二酸化硫黄から酸化により三酸化硫黄」

 「これが大気中の水分と反応して硫酸になります」

 「硫酸とならば、緑青ができてしまうだろ」

 「ちっ、いちいち、癪な大気だね。おかげで擬態に回すエネルギー以外全く足りない」

 「はい、しかしおかげで面白い金属に出会えました」

 「ほう、チタンというものかい」

 「ええ、地殻構成成分で、九番目の量を擁します」

 「この金属で宇宙船の表面をコーティングすることで酸化還元反応と無縁になることができました」

 「女王様、われわれ護衛といたしましては、宇宙船に張り巡らした可視光線透過膜なぞ、不要の一言だと思いますが」

 「それに対し異議あり。科学者としては看破できません。他に策があるというので?」

 「可視光線を吸収する幕を張れば済んだことでしょう。費用も一ケタ少なくなります」

 「我々は、地球に大気圏突入いたしました。さて、地球の夜間時間はいかほどでしょう?」

 「地球時間で十二時間前後」

 「夜間に可視光線吸収膜をみられるのはまあ問題ないでしょう。単に黒い点ですみます。けれど、昼間はいけません」

 「どう問題なんだ?」

 「可視光線を吸収するというのは、一度膜にあたった光を外部に逃がさないというのはわかりますか?」

 「もちろん。黒色というのは全ての可視光を吸収する色と思ったらいいんだろ」

 「そこまで理解しているのなら話は早いですね。昼間に可視光線吸収膜を張った宇宙船が上空を飛んでいた場合、視界はどうなるでしょう?」

 「宇宙船が黒い黒点のように見える。あっ」

 「おわかりいただけたでしょう。可視光線を吸収するというのは、天空が夜、もしくは宇宙空間ならば発見されません」

 「しかし、地球上ではその部分だけが黒い点となって、周囲の色である、ま、大概は青ですが一般人にも発見されてしまうのです」

 「すまなんだ。こちらの知識不足だった」

 「いえ、こちらこそ、説明不足でした」

 「では、両者とも納得してくれたか」

 「はい。交流不足でした」

 「よろしい。両者ともこれからは仲良くな」

 「「はい」」

 「緊急事態、緊急事態、我々は地球の海洋艦隊に包囲されつつあり。敵主砲、こちらを目標にしています」

 「えーい。あわてるな。敵の攻撃手段は?」

 「光学兵器ではないことを確認」

 「ちっ、光学兵器による攻撃ならば、跳ね返したものを」

 「爆発物でないことを確認」

 「ちっ、ミサイルなら撃ち落としてやるものを」

 「敵照準、こちらに固定。どうやら敵の攻撃手段は大砲による金属砲の発射と確認」

 「つまりなんだ。鉄の塊をぶつける石器時代の攻撃手段だというのか」

 「その通りです」

 「なんと、擬態中の宇宙船と最も相性の悪い攻撃手段だ」

 「逃走は出来ないのですか?」

 「無理だ。使えるエネルギーはわずか一パーセントだ」

 「「「「バッコン」」」」

 

 「敵、未確認物体に対し、砲弾多数命中。内部からの誘爆を確認できました。敵生存者の確認は出来ません」

 

 

 

 

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