仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第323話
1938年(昭和12年)七月四日午前中
亜米利加 アパラチアラジオ放送局
仮想戦争を中継中
「解説者さん、ありがとうございました。即興で一つの戦話を創作していただきまして」
「いえいえ、世界は不安定な方向に進んでいるせいですよ」
「その通りです。このラジオ放送局にも亜米利加にお別れを告げる葉書が多数届いています」
「え、この住みやすい亜米利加を去るというのですか」
「欧州の雲行きが怪しいせいです」
「亜米利加を旅立つ人々は、欧州で軍に入隊するのですね」
「ええ、前回の欧州大戦が停戦で終結したことを受けて、今度の戦争で敵国に祖国を蹂躙されないようにするためですか」
「愛する家族を残したり、恋人と生き別れになる覚悟を決めたりと」
「戦争のない亜米利加でよかった」
「ところで解説者さん、お話の中にありましたが火星人が地球人に化けるとしたら可視光線吸収膜を使って黒っぽくなるんでしょうか」
「費用でみるとそれが楽なんですよ。絵具でいえば、黒色の作り方は?」
「確か、緑と青色と赤色を混ぜるとできるのでしたっけ」
「それは最小限色ですから、最適解と言うべきです。が、適当に色を混ぜていけば黒色になるのです」
「なるほど、黒というのは全ての色を混ぜたものと表現できるわけですね」
「対して、白色は他の色が絵具として混ざると二度と作りだせない色ですから、火星人が最も苦手な人種といってもあながち間違いではありません」
「だとしたら、白人はやはり選ばれた人種なのですね」
「そうだとしても、亜米利加は白人国家、八割方の人が該当しますので、どうでしょうか」
午後
とある白人至上主義団体会合
「皆さん、白人は選ばれた人種です。それは神に選ばれたと同義です」
「そうです。黒人と白人の混血は許されざる冒涜です」
「黒人団体は、婦人参政権に続けとばかり、黒人参政権を望んでいますが、これは神に対する冒涜です」
「「「その通り。白人に対する冒涜です」」」
「亜米利加の独立は、白人がなしたものです」
「ボストン紅茶騒動しかり、紅茶は白人のための飲み物です」
「黒人は、水でいい」
「独立記念日を祝うのは、白人だけでいいんだ」
「黒人はもう一回奴隷にすればいい」
「その第一歩として、熟練技能職は白人に限定だ」
「白人国家南アフリカを見習え(アパルトヘイトの完成は1940年代のため、ここでは使いません)」
「黒人の仕事を白人が奪っても合法化しろ」
「移民は、白人に限定しろ」
「豪州にできて亜米利加にできないのはおかしい」
「亜米利加横断鉄道が完成したんだから、中国人もいらない」
「そのためには戦争も辞さない」
「宇宙人が攻めてきても黒人は役に立たない」
「それどころか、宇宙戦争になったら宇宙人は亜米利加人をだますために黒人に化けるって話だ」
「そうだ、黒人は宇宙人の味方だ」
「普段の趣旨返しで、俺たち御衆人に刃むかうのが黒人の定めだ」
「だから、宇宙人と戦争になったら黒人は優先して殺さなければならない」
「今からでも、黒人に対する銃器の販売を規制しよう」
「いっそのこと、ジムクロウ法を強化しろ」
「黒人差別を北部にまで広げろ」
「全米に広げろ」
「黒人に対し投票税を引き上げろ」
「黒人の定義を末代にまで広げろ。黒人の血が入ったら即その仲間入りだ」
「黒人の税金を引き上げよう」
「黒人はバスに乗るのも違法だ」
「黒人は街から出ないのだから切符も買えないようにしろ」
「メキシコ国境に壁を建てろ」
「それでも乗り越えてきたら即射殺しろ」
「南北戦争は、停戦で終わったことにして、それを学校で教えるんだ」
「黒人教師はいらない」
「黒人宣教師もいらない」
「黒人にキリスト教徒はいらない」
「黒人は日曜礼拝に参加してはならない」
「いっそのこと、黒人から教育を取り上げろ」
「「「おおっ」」」
アパラチアラジオ局 午後八時
「臨時ニュースです。火星人が攻めてきました。これより、宇宙戦争の幕開けです。火星をご覧ください。火星の再接近と共に火星人が攻めてきました」
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