仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』

著者 文音

 

 第35話

 1869年(明治三年)四月五日

 源氏物語『花宴』『葵』を浮世絵化

 「正妻は浮かばれないんだよな。いい男の宿命か?」

 「世間が納得せねばならないせいだろ」

 「全てがうまくいっていれば、浮名を流すはずもないか」

 

 

 七月十五日

 江戸城 雁間

 世界一周をして江戸に帰ってきた使節団の心境は、上位者ほど安堵感が増し、下位の者ほどあきらめの心境であった

 「それで、欧米を巡回している最中に朝鮮との戦争準備のため、売上税を二割にする告知をした。ところが、三都から企業が逃げ出そうとし始めたので、売上税の税率は来年度以降も一割を継続する告知をあわてて出したが、本社の登記は三都から逃げ出すことは止められなかった」

 「つまり、来年以降戦争を始めようとしたが戦争をするための幕府歳入が一割減ったと」

 「軍艦十隻分の購入をもくろんだが聖域である知行米に手をつけるわけにもいかず、歳入が減ったとことで軍艦にまわす予算は凍結された」

 「で、誰が責任をとるつもりで」

 「将軍の名でおこなったことにしませんか」

 「将軍の名前は使えるときに使うようだな。ただし、六歳の将軍だな」

 「‥‥‥」

 

 

 十月十日

 大奥

 「お菊様、欧米の強国に留学生を送りだした効果が出ました」

 「うむ、亜米利加から著作権を得た若草物語は浮世絵で成功するとともに、八王子劇場で異例の大入り満員を記録しております」

 「うむ、先見の目があったとうれしいことだが、この先幕府が大奥に落とす金は減りそうです。我らも第二第三の若草物語を発掘いたさねば」

 「どうでしょう、一般公募して良き脚本があればそれに賞金を出して舞台化させるのは」

 「よろしい、では告知してやってみましょう」

 

 告示

 八王子劇場で上演する脚本を募集する。優秀な作品には、同劇場で上演をいたすのでその脚本に対し、著作権料を支払うものとする

  八王子劇場

 

 

 十二月一日

 水道橋駅

 「今年の売上税が来年の一月に水戸藩に入金されます。金額は今年度比の四倍増しを予定しております。つ、ついに我が藩も自由に使える金ができました」

 「我が藩は、二十八万石しかないのに御三家格として三十五万石を称し、藩主は江戸住まいのため、支出が止まりませんでした。しかし、売上税が急増いたしましたことは良いのですが長年の質素堅実を旨とする藩政が続きましており何に歳入を使うか検討もつきませぬ。どうか良い使い道があれば教授願えないであろうか」

 「藩士には十分知行がいきわたっておりますかな」

 「それは、東海道鉄道株式会社の配当でお釣りがきます。何かございませんでしょうか、慶喜殿」

 「渋沢、この時期にこの話が来たのだ。線路の話を水戸藩にふってもよいかえ」

 「時期としては問題いないかと、ただし、立地場所で少しもめるかと」

 「何でござろう。我が藩で房総半島に線路を延ばす話でござろうか」

 「それがのう。線路は鉄でできておる」

 「南部鉄瓶や刀にいるのとおなじものですよね」

 「わが社が路線延長をする際、線路の確保から考えねばならぬ。つまり土砂災害で線路が不通となった折など、路線延長を一時中断し、工事中の線路を被災場所にまわさねばならぬ時もあった」

 「とまあ、国産化できればどれほど路線延長に貢献するか」

 「あのう、日本一稼いでいる東海道鉄道で高炉を製造しないのはなぜでござろう」

 「しばし、取締役会の議題にあがっておる。しかし、幕府には山陽道鉄道株式会社との線路埋設競争。八王子製糸工場からは八高線に中央線の埋設要求等、オテルにとわが社に対する要望は減ることはござらぬ」

 「で、あるから軌条(レール)の国産化の優先順位をあげることができず、十年近くがたっておる」

 「仮に水戸藩が高炉を製造するとなって、問題点はござろうか」

 「まず、立地の問題がある。大量の水と良好の港が必要となる。水戸藩地で適切な場所はござろうか」

 「港なら日立港があるが、そこに水はござらぬ」

 「我々がこの話を水戸藩にふらなかったのもそのせいでござる。で、水戸近郊ならば北浦と鹿島灘に挟まれた鹿島が好立地と選定作業がすんでおる。北浦の水で足りぬならば利根川の水をひけばよいのでな」

 「あのう、鹿島神社の地であり水戸藩外であるのでこの話がしにくいのはわかりますが、鹿島灘は砂浜ですので、港ができぬのではないでしょうか」

 「それは問題ない。砂を掘り、コンクリで固めれば良港となる」

 「もし、鹿島で高炉を設置いたしますと線路延長はされるんでしょうか」

 「むろん、水戸から鹿島経由で銚子まで、さらには上総国まで延長するのもやぶさかではござらぬ」

 「それでは、他に問題点はござるであろうか」

 「高炉を設置するにあたり、必要なものは鉄鉱石に石炭。石炭は国内各地で産出する。鉄鉱石は釜石で産出する。原料についてはめどがついている。しかし、問題は銑鉄を製造した後のことじゃ。国内で必要な鉄と言えば、釘に日本刀、南部鉄瓶ぐらいなものでできた銑鉄を引き取ってくれるものといえば、軌条ぐらいしか浮かばぬ。まあ、後は軍艦も鉄できておるがな」

 「つまり、うまく銑鉄ができたところで売れぬといわれるので」

 「五年前ならば難問であったが、開国したのであれば国内で売れ残りを輸出すれば問題なかろう。欧米各国が清に進出しているので、その際、各国に使用してもらえばよいであろう」

 「思わぬ難問が立ち上がりましたが、藩に帰り上役にはかってもらいます」

 「よろしく頼む」

 

 

 十二月三日

 水戸藩江戸屋敷

 「本日、この場に集まりいただいた皆さま方に議題をふらせていただきます。東海道鉄道株式会社等、今年、水戸に本社を移転する企業が相次ぎ、我が藩に多量の歳入をもたらしました。つきましては、三十五万石に過分の金の使い道をお尋ねいたします」

 「御三家のうち、我が藩の御城は質素です。築百年を過ぎた水戸城を改築いたすべきです」

 「今こそ、百姓の物納から金銭納に切り替える好機です。その資金に」

 「尾張藩には、藩が運営する鉄道会社があるとききます。我が藩でも水戸駅から鉄道を新延させるべきです」

 「それとなく、東海道鉄道株式会社に問いあわせたところ、水戸駅から銚子まで路線延長をする計画があるとききだしました。ただし、条件があるとのことです」

 「その条件とは?」

 「線路の軌条に使う銑鉄を製造する高炉を鹿島に水戸藩として建造することだそうです」

 「なぜ、藩外の鹿島に?」

 「高炉に使う水が北浦から調達できるほか、鹿島を良港にして鉄鉱石と石炭の搬入に適しているとのことです」

 「東海道鉄道は銑鉄ができるのであれば、水戸駅から銚子まで鉄道をひいてもよいと?」

 「はい、軌条の国産化は同社の長年の悲願とのことです」

 「話がうますぎないか?相手は日本一の金持ち企業だぞ?」

 「同社が高炉に手を出さなかったのは、開国前に製造した銑鉄の買い手が見つからないためだったのことです。これは、清に輸出すれば問題ないとの見通しです。近年、同社に寄せられる要望をこなすために銑鉄の製造は取締役会の議題にあがりこそすれ優先順位は低いままだそうです」

 「ちなみに高炉にかかる費用は?」

 「百万円との見積もりを仏蘭西政府から出してもらっているそうです」

 「百万円といえば増収分の売上税二年分か」

 「了承すれば水戸駅が将来的に仙台、日本橋、銚子までいける連絡駅となれる。それは大きい」

 「しかし、高炉でこけたら財政が傾く」

 「しかも、工場は鹿島であり、藩内ではない」

 「経済の活性化か博打か」

 「よし、鹿島鉄鋼会社を立ち上げるものとする。仏蘭西に建設を依頼せよ。元々、此度の余剰資金は天から降った恵みのようなものだ。それを藩内を縦断する鉄道を建設してくれるのなら、藩内すべてのものに納得できることであろう。さらに銑鉄の国産化は我が国初のことであり、お国のためにもなろう。皆、励め」

 「「「ははっ」」」

 鹿島鉄工会社が仏蘭西に高炉の発注をおこなう

 

 

 1870年一月三日

 彦根駅

 「やっと東海道と別れることができたのう」

 「四条河原町駅から鴨川上で路線を曲げつつ南下し、山科を越え大津に入るのに難儀いたしましたな」

 「わが社初のトンネルは、山科でこれが難工事でしたな」

 「幸い、東海道鉄道株式会社が掘った連中がいましたのでそいつらに頼みこんで何とかうまくいきはりました」

 「一時は東海道そのものの三条峠を越えることも考えましたやろ」

 「勾配がな。1/16ですねん。蒸気機関車には厳しいおまっせ」

 「これで、和歌山と彦根が一つの線路でつながりましたな」

 「次の誘惑は、米原ですやねん。米原から北陸方面に線路を延ばせば、日本海と結ばれる敦賀に出れるねん」

 「うはっ。その誘惑はでっかいねん」

 「もし、敦賀に出れるんなら下関を回る船を一掃できるねん。大坂と日本海を結ぶのは大きいでっせ」

 「それがな。これも三条峠ほどではあらへんけど勾配がきついねん。トンネルを掘りつつ勾配のきつい線路を作るのなら、岐阜にたどり着く方がましやねん」

 「ま、敦賀への浮気は難攻不落のおなごを口説くようなものですねん。やけどをおってしまいますやろ」

 

 

 一月二十六日

 日本橋と神奈川間で電信が始まる

 「これで丘蒸気よりも連絡速度の速い通信手段ができましたな」

 「そうでなくては困る。臨時列車の発車、列車の遅延情報が次の駅に届かなくては列車の手配にも支障が出ていた」

 「これは、線路のある区間にはまたたたく間に広がりますよ」

 「もちろん、線路予定地でも広がるな。通信手段があれば、情報を制することができますから」

 

 

 三月一日

 水道橋駅

 「昨年度の収支に関する数字を発表させていただきます。前年の開通区間は、土浦と水戸駅間、板戸と熊谷駅間、兵庫と明石駅間でした。百円の収入を得るために必要な経費は三十三円でした。なお、わが社は、七月より登記上の本社を水戸に移しました」

 「水戸藩が鹿島に高炉を建設することを表明いたしました」

 「「「おおっ」」」

 「わが社といたしましては念願の軌条の国産化のめどがつきました。これに対する支援として水戸鹿島間に速やかに鉄道をひくべきと思われます」

 「異議なし」

 「では、来年の開通予定区間は三か所。八高線の全通、明石と姫路駅間、水戸と鹿島駅間を予定しております」

 「俺から農場を甲斐に立ち上げた研修生に謝っておく。すまんが、中央線の優先順位が落ちた。ぶどう酒を作らせているのに鉄を優先してしまったと」

 「以上をもちまして決算報告を終えます」

 

 

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