仮想戦記 『東海道鉄道株式会社』
著者 文音
第62話
1878年(明治十二年)九月三十日
高雄駅
「高雄発淡水行き一番列車発車いたします」
「なんとか、台湾縦貫道の完成だ」
「しかし、幕府は金にならないところばかり幕営とするなあ」
「確かに、本州が一番もうかるが、幕営でできる路線は人口過疎地の台湾に樺太だからな」
「そもそも、民間で営業が成り立つ地域は民間でというすみ分けが成り立っているのであろう。幕営は、現地に住む日本人を鼓舞するために埋設するという意図が隠されている」
「なるほど、鉄道があればここは日本人が開発したと主張するために建設したと」
「鉄道を建設する目的は、大まかに二つ。人口稠密地に鉄道を走らせて経済を活性化させるものと、これから開発する未開地に鉄道を走らせ、産業基盤を誘致するもの」
「日本国内だと鹿島にある鉄鋼所付近を走る鉄道がそれにあたるな。鉄道開設に合わせて製鉄所を誘致したものだ」
「これから台湾の開発か。気の長い話になりそうだ。とりあえず、有望なものはあるか」
「サトウキビを植えさせて、製糖といきたいね。琉球よりは有利だろ」
「米は二期作でいこう。外国から輸入するのではなく輸出する体制に持ってゆきたい」
「寺子屋も開設しようぜ。字が読めないではつまらない苦労も多い。寺子屋の目録をもっていれば賃金が高くなることにしよう」
「文字通り産業基盤の根底からの仕事になるなあ」
台北 福建省台湾出張所
「所長、台湾に日本の鉄道が走るようになりましたが本土に連絡はしないので」
「しないアル。してもいいことアルカ」
「職務怠慢と言われませんか」
「台湾に鉄道をひきこむ原因は清の対外政策アル。台湾原住民は清の治外法権といわれたアルから、鉄道が走っている土地は原住民の住む土地であり、行政が関与する土地でないアル」
「わかりました。では、見て見ぬふりをします」
「では、鉄道に乗らないアルカ」
「乗る機会があれば乗ってみたいのですが」
「ここに一等列車の切符を百枚手に入れた。半分を皆で分けていいアル」
「所長、話がわかるアル」
「ふむ、黙っていた方がもうかるアル」
十月一日
日本橋 料亭梶
「世間で必死になってかき集めているのが牛乳か」
「とにかく生産量が確保できれば、生産者の言い値で引き取る者が多いとか」
「西洋料理人は、牛乳の加工品であるバターやチーズが確保できづらくなったといって嘆いているなあ」
「それは、功罪半々だな。牛乳を飲みに行こうと思ったら、西洋料理を食べに行くのが普通だ。そうすると、とりあえず一度西洋料理を食べに行こうという動機になる。バターやチーズの確保がしづらいというのは、それだけ西洋料理を食べに通っている人が多くなったわけ。バターが手に入りにくいが客も増えたという仕入れにかかる金はふえたが総収入も増えたというわけで、企業なら増収したものの今期は増益ならずというところかな」
「きっかり、冷凍みかんの次の流行を浮世絵が発信した。国内で牛乳の消費量を押し上げたね」
「というより、牛乳は世間に認知されたのがこの年といえるのではないか。今年まで牛乳ってそれ何?というフインキだったが、牛乳をしらずして世間話についていけなくなるまでに押し上げた功績は大したものだよ」
「二匹目のドジョウが牛乳だったわけで、また大奥に我が藩の特産品を紙面に登場させてくださいという贈り物が増えそうだな」
「今回は別の側面もあるぞ、次に大当たりしそうな浮世絵の作品が掲載されたら一気にその流通を確保しなければ大儲けはできない。浮世絵で流行の最先端を探す商人が増えるだろう」
「漫画を読んでいて、これは仕事です。次にあたる商品を探しているのですといわれると開発部に所属する上司は、その部下の管理が難しくなるのかね。遊んでいるがそれこそ仕事よといいきってしまわれるか」
十二月二十日
ベルギー ホーボケン村
「領主の風車小屋はどこですか、と今日も訊かれたな」
「領主の風車小屋が『フランダースの犬』に登場する舞台だからなあ」
「しかし、原作の存在をここらあたりにいる人間は今年まで知らなかったなあ」
「原作の発表が六年前の七十二年で、英語で発表されていたそうらしいなあ」
「そんな知識は、今年の秋になって観光客がここに来るようになって初めて知ったことばかりだからなあ」
「いっそのこと、観光客相手の商売を始めるか」
「観光ガイドをするにしても観光客を風車小屋に案内してハイ終わりでは、金はとれんぞ」
「いっそのこと、パトラッシュと同じ格好をした犬を風車小屋に飼うか」
「それは一匹か?それとも複数か」
「最初は一匹でいいだろ。それにミルク運搬業をさせる。観光客は、ネロになった気分で村のまわりを一周してもらう。どうだ、金になりそうか」
「おれは、近所に住む絵描きに樵のミッシェルを画かせてみたら売れるんじゃないかとおもうんだが」
「いいな、アントワープの大聖堂も描かせようぜ」
「いや、そっちは豪華でなければなあ。浮世絵で豪華絢爛にいこう」
「とりあえず、ネルの命日が数日先に迫っている。今年は、風車小屋に温州みかんをお供えに来る読者が多数現れそうだな。ふむ、クリスマスまでに体裁を整えねばならん」
「クリスマス休暇で人が集まらないのが難点だな」
「何をいっている。フランダースの犬の読者を口説け、うまくいけば二つ返事で手伝ってくれるかもしれないぞ」
「よし、片っ端からあたってみるか」
1979年(明治十三年)三月一日
水道橋駅
「昨年度の収支に関する数字を発表させていただきます。昨年度の開通区間は、鹿児島線の全通、中央線の全通、高山線の全通、仙台と新田駅間でした。百円の収入を得るために必要な経費は、三十八円でした。今年の伸延区間ですが、まずは盛岡までの路線ですが、途中の中間は、水沢駅が適当かと」
「異議はない。東北線の伸延は、新田から水沢とする」
「続きまして、国内の硫黄鉱山ですが有望なものは、摩周湖と屈斜路湖の中間にある跡佐登ですが、この鉱山は交通の便がよろしくなく採算性は危ぶまれております。現にこの鉱山は明治初期からの採掘ですが鉱山主がわが社に硫黄の確保を命じられた時、わが社に売り込むにきたくらいで」
「つまり、現在採掘はおこなわれているが硫黄の価格が下落した場合、採算が合わなくなり閉山もあり得ると」
「それと北海道の路線の採算性ですが炭田もしくは鉱山と結びついていない路線を埋設したところで、営業係数の百を割り込むのはかなり難しいとの予測がたっております」
「つまり、北海道の線路は埋設しても民間企業としては不適当な赤字路線となると」
「単純にいえばそうなります」
「これは難しい土地ですなあ。欲しい石炭はすでに樺太で確保しておりますし」
「後、北海道で採れ、江戸のものが欲しがるものといえば何がある。線路を埋設できないというのはできればしたくないのだが」
「跡佐登で採れる硫黄だが出荷先はどうやっている」
「道らしい道がございませんが鉱山から釧路港まで馬にひかせて二日かかっております。その港から本州に向けて船で出荷されています」
「では釧路港を発展させていこうではないか。釧路周辺が発展すれば跡佐登までの道の途中までは道らしい道ができるであろうから」
「そうですなあ、釧路を発展させていけば、その周辺で採れる硫黄や石炭も釧路港に集まってくるでしょう」
「では、釧路を発展させるのはいいがどこを目指す。線路は接続先があって初めて成り立つが」
「その前に、釧路港と仙台港を連絡船で結びたくあります。わが社は東北線が延長してゆけば、青函に連絡船を走らせる予定でしたのでその運行のために木更津港で江戸湾を横切る航海で運行させていた船乗りがいます。その者に先の航路をまかせたくあります」
「ふむ、これで釧路も本州とつながるわけだ。で、どこを目指す」
「北海道を横切ることを目標としてもいいのですが釧路湿原そのものを収益源といたしたい」
「湿原は工事費がかさむばかりで収益を見込める産物もない気がするが」
「確かに湿原には多量の土砂を埋め込まなければ陸橋をつくるのも難しいですが、その湿原こそ目下、我が国に不足している牛乳を生産するに必要な牧草地として最適であるといいたい」
「では、釧路を牛乳の生産地といたすので」
「釧路は消費地から遠距離すぎます。現在、牛乳の加工品を生産している土地では牛乳に生産を割り振り、釧路はバターとチーズに生産を集中すべきです」
「ふむ、では食料供給先として重視すべきなら、富良野とつなげるべきか。富良野ならば内陸と海岸を結ぶ路線で相互に必要なものがそろうであろう」
「では、今年の埋設距離は他に予定がなければ百キロでどうであろう。池田までではいかがか」
「来年は、北海道での路線埋設のために本州等で収益を稼がねばならぬ。本州で収益が結べる路線を埋設すべきであろう。新規路線と東北線並びに根室線の三本立てでいこうではないか」
「続きまして、北海道に路線が埋設される運びとなりましたので、藤枝杯を全国大会としたくあります」
「それには反対意見もないであろうが、全国八十州余りからの代表が集まると試合期間が少なすぎぬか」
「現在、州代表を決定した後、本戦となっていますが、この仕組みを三段階とし、州代表、道代表、本戦としたくあります」
「では、畿内、東海道、北陸道、東山道、山陰道、山陽道、南海道、西海道、北海道、樺太の代表が本選に集まるのか」
「はい、本戦に集まる代表は十組となります」
「各地でフットボール場を建設しなければならぬな」
「以上をもちまして、昨年度の決算報告を終えます」
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