第06話 『流 浪』
対アグローブ王国戦。
対ネピロス公国戦。
対ザクト公国戦。
フィリア王国建国で最大の功績を上げたギレンス将軍の反乱。
フィリア王国は、ギレンス将軍に奪われてしまう。
王族のガイオス王子が逃亡したいま、ギレンス将軍以外にフィリア王国の新王はありえない。
少なくともギレンス将軍が王であれば、他の王国はフィリア侵攻を躊躇する。
奪われたフィリア王国にガイオス王子の居場所のない。
そして、フレア、シラクスと、なんとなく三人旅。
野宿ばかりで満足に町にも入れない。
ガイオスは茂みの影で涙ぐみながら眠り。
フレアは、無表情に見詰める。
「フレア。君の気持ちは、どこにあるんだろうな?」
「眠るわ」
「やれやれ」
シラクスは、子供たちが眠ると、
その場から姿を消す。
月明かり、二人の男が木を背にして立つ。
「シラクス。問題は?」
「今のところ、問題は、棚上げかな」
「コルレアと情報をやり取りしているが、やはり、ギレンス将軍は国を売ったらしい」
「取引の内容は?」
「旧ネピロス域の専売権」
「ひぇ〜 やっぱり、姉を殺された恨みかな」
「動機は、わかりやすいね」
「サリオス王がネピロスを攻撃しなければ姉は殺されなかった」
「ケレス。今後の指示は?」
「何が指示だ。コルレアは大慌てだぜ、勝手に動きやがって」
「あはは、手駒になる可能性はあるさ。少なくとも今やっている仕事より現実的だ」
「とりあえず。このまま、泳がせて欲しいそうだ」
「コルレアは、この件で直接介入していない」
「しかし、国益になるように誘導して欲しい」
「デセート行きは?」
「構わない。というより。好都合だな」
「力不足の王子様を囲ったのがデセートと思わせられればコルレアは安泰だ」
「デセートとドラクーンとフィリアの緊張が高まればコルレアの利益も上がる」
「ふ こっちの思惑通りの展開だな」
「あの娘は?」
「とりあえず。一緒に行動したいのであれば行動させるさ、ネピロスの公女なら高値で売れる」
「ネピロス旧残党とコンタクトが取れたらしい」
「しかし、本格的に動けるか微妙だよ」
「動くさ、ドラクーンに旧ネピロスの専売を叩き売ったんだ。十分な動機になるよ」
「とりあえず。フィリアがドラクーンに取り込まれるのは面白くない」
「確かにな」
「と、言うわけで、今回の行動は、暫定的に承認だな」
「それは助かる、ギレンス将軍の追撃は?」
「スピルリナの部隊が動いている」
「フィリア特殊部隊か」
「正確には旧アグローブの猛者たちだよ」
「不正腐敗で滅ぶ前にフィリアに王国を売り渡し」
「今度は、売り渡した王国を滅ぼして、か。ロクな連中じゃないな」
「良くある話しだよ」
「やれやれ、今度はフィリア族が日陰者か」
「元々、アグローブ族、ネピロス族の人口が多い国だ」
「3番手のフィリア族が旧アグローブの全てを支配するのは無理があった」
「どんなに行政が良くてもな」
「行政が良かったから、これまで持ったのさ」
「だな、確かに悪くなかった」
「ああ・・・じゃ そろそろ。行くよ」
「ああ」
ガイオス王子が書いた借用書が毎日の様に増えていく。
実に単純なことだが自分自身で動けば借用書を書かずに済む。
王族のガイオスは安全保障以外でも自分で、やりたくないことが多い。
しかし、それも長くは続かない。
このままだと奴隷になり兼ねない勢いで借金が膨らむ。
これが狙いでシラクスが動いているとしたら大金持ち間違い無しだ。
それとも空手形だろうか。
フレアも借用書を書いていた。
もっとも彼女の借用書も自分持ちになる可能性は高い。
忌々しいことだが一応、直接的に命の恩人。
「ねぇ〜 シラクスは、どうしてフィリア王国にいたのさ」
「商売」
「他に調べ物とかあったんじゃ・・・」
「まぁ・・・雑用だね。アルバイトだよ」
「アルバイトって?」
「つまらない秘密のアルバイトさ」
なんとなく、スパイの仕事を知りたくなる。
「借用書書こうか?」
「あはは・・・そうだな。金貨20枚」
「いいよ」
「・・・1000年前、雲の向こう側から、飛び込んできた飛行機械があるはずなんだ」
「それがどこにあるのか探している」
「そんな話し聞いたことないよ」
「それ、童謡?」 フレア
「そう、当たり・・」
「かごめ、かごめ、いつ、いつ、飛び込んだ」
「夜明けの晩に、鶴と亀が、滑った。後ろの正面だあれ」
「・・・・・・・」 フレア
「そ、それ、信憑性、なさそう」
「だから、つまらない秘密のアルバイトだと言っただろう」
「ううう、借用書返せ」
「おいおい、探しているのは本当だぞ。信憑性は低いけどな」
「詐欺に遭った気分だよ」
「まさか。つまらないと言った警告を無視したガイオス王子が悪い」
「・・・・・・・」 ため息
デセート王国との国境は、急流を隔てた川向こう、天然の防壁になっていた。
王国でありながら君主制議会主義。
民主主義を意識しているガイオスが、もっとも興味を持つ国。
国境警備にばれないため渡河するしかなかった。
それも深夜の方が見つかりにくい。
逃避行も板についてくると危機管理や勘が鋭敏になって働いてくる、
フレアが “夜、良く眠れない” と言った気持ちも実感する。
物音一つで目が覚める。
良いというべきか疲れると言うべきか。
ガイオスは夜になると対岸の断崖に向けて投げ縄を投げる。
シラクスは他人事で眠り、
フレアも愉快犯で眠っている。
130回目。やけくそに投げた輪っかが岩に引っ掛かる頃。
夜が白み始めていた。
それでも木を重ねて流せば、自然の法則で対岸まで着いてしまう。
「・・・いや・・・実にスリリングな、冒険だな」 とシラクス。
「シラクスなら国境越えも問題ないはず。付き合わなくても良かったのに・・・・」 フレア
ガイオスは、朦朧。
「・・・債権者だからね。これでも時間もあるし・・・」
「あ・・・そう・・・」
一晩中、投げ縄で遊んだガイオスが眠る。
「・・・シラクス。なぜ、ガイオス王子に付き合っているの?」
「・・・大人の事情だよ」
「そう」
「フレアは?」
「・・・子供の事情よ」
「そう」
山岳の国デセート
街道を進むと目立ち。
山道を進むとこれも違和感があって目立つ。
見知らぬ人間が獣道を行けば、もちろん、密猟者、犯罪者、スパイ扱い。
比較的、無難に思える間道を進む。
その選択をしたのもガイオスだった。
大人のシラクスは、状況を楽しんでいるだけ。
子供のフレアは、ガイオスの苦しんでいる姿を楽しんでいるだけ。
ガイオスも少しずつフレアの気持ちが読めてくる。
フレアは命の恩人のニーナ女王への義理で、直接、手を掛けるのを止めているだけ。
しかし、親の仇の子供が苦しんでいるのを見るのは快感なのだろう。
ガイオスは、さっさと離れて自分の幸せを考えた方が良いと思ったり。
簒奪者ギレンス将軍に対する復讐心が次第に高まっている。
“復讐”
ガイオス王子は、この単語に魅惑的な響きと喜びを感じるようになると夢にも思わなかった。
フレアが自分に向けて矢を放った時の気持ちが痛いほどわかる。
仇の息子が苦しむ姿を見て微笑む気持ちも、良くわかる。
帝王学に関連して、むかし少しだけ読んだ宗教の本が思い出される。
“わたしはあなたの行いを知っている。あたなは、冷たくも熱くもない”
“むしろ、冷たいか熱いか、どちらかであってほしい”
“熱くも冷たくもなく、なまぬるいので、わたしは、あなたを口から吐き出す”
復讐を望む者は意味が変わってくる。
信仰が、あるか、ないか、の話しではない。
熱い者なら、他者に対する愛情から復讐を放棄し許して、和解する。
冷たい者なら親の復讐などせず。利益のため仇とも組む。
極と極でありながら、気持ちは、まったく違うのに同じ行動を取ってしまう。
そして、なまぬるい者が復讐に生き甲斐を見出す。
あいにく、ガイオスは、熱くもなく。冷たくもない。
簒奪王ギレンスへの復讐を考え、そこに人生の喜びを見出していく。
山間の段々畑が細々と作られていた。
「段々畑を何で広げないんだろう」
「林業もしているから、あんなものだろう、雨が降っても水を溜められなくなるからだろうな」
「・・・・」
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