月夜裏 野々香 小説の部屋

   

ファンタジー小説 『夜明けの晩に』

  

第07話 『デセート王国』

 山岳の国デセート王国

 ガイオス王子が他国を訪れるのは初めてのことだった。

 奪われた森と湖の国フィリア王国を未練がましく見つめる。

 ガイオスの不幸を見るフレアは嬉しそうに微笑む。

 親の仇の息子が不幸だと嬉しいのだろう。

 同じ仇を持つ者は、手に取るように気持ちがわかる。

 自分が死ぬのをハゲタカのように見ていたいのだろう。

 もっともフレアの様に仇の片割れ(母ニーナ)に命を救われた経験はない。

 二律背反。

 それが彼女の苦悩と思えた。

 フレアは、フィリア城のゴタゴタで手に入れた剣を腰に下げている。

 自分に殺意を向けて行動を起こしたら、どうするだろうか。

 その機会は常にある。

 その気になれば、簡単にやれるかもしれない。

 少なくともガイオス自身にって、フレアは、命の恩人であり、

 抵抗するとしてもフレアの命をどうこうする気になれない。

 適度な緊張感を保ちながらガイオス王子とフレアは適当な距離を取る。

 デセート王国に来たのは追撃者から逃亡する緊急避難といえた。

 ここで何をするか考えて来たわけではない。

 デセート王国に身を寄せても助かるか、わからない。

 山岳の谷間で少しばかり休憩できる場所。

 フレアが剣を抜くと型の練習を始める。

 様になって剣先も鋭い。

 しかし、基本的な直線技だけしか習得していないのがわかる。

 まともに斬り合えば勝てるだろう。それとも技を隠しているのだろうか。

 なんとなく、ホッとする。

 もっとも、相手を殺さずに。というわけではない。

 そこまで剣技の差は、開いていない。

 元々、子供の剣術であり、訓練していても相手が大人だと負ける。

 もっとも剣で斬り合うつもりはなかった。

 身に着けている魔法石を使う。

 こいつを使えば、ムーゼス先生から教わった通り。

 針の束を使って相手を戦闘不能にできた。

 そして、もう一つの石。

 自分専用なのかもしれない。

 これで、魔法石の回復も早くできる。

 「これからどうするね? ガイオス王子」 シラクス

 「シラクス。何か、金を作る方法はないかな」

 「おっ! 借金返済かい?」

 「まぁね」

 守銭奴がニヤニヤしている。

 「んん・・・手ごろなのは安全な林業か、少し危険だが高収入の魔物退治かな」

 「雲に近い外周部は、よく出てくるからね」

 雲の向こうから遠征してくる魔物で外周の国は大きな被害を受けていた。

 当然、そういう商売も成り立つ、

 もっとも、子供のやることではない。

 しかし、魔法石があれば何とかなるレベルでもある。

 「じゃ・・・魔物退治でいこう」

 「それなら需要はあるな」

 「シラクス・・・仕事は良いのかい」

 「まぁ〜 この辺で長期休暇もいいだろう。命の洗濯だよ。デセートは温泉がでるんだ」

 「なるほど・・・」

 「デセート王国に身を寄せないのか。ガイオス王子」

 「んん・・・コルレア王国が何をたくらんでいるのか教えてくれたら、理由を丁寧に説明するけど・・・」

 「・・・・とりあえず。付き合うよ。ガイオス王子」 にや〜

 「・・・・・」

 「ところで、ガイオス。彼女は、どうするんだい?」

 「フレアに殺されそうになったけど、命の恩人でもあるし・・・」

 「僕は、どうする気もないよ」

 「ギレンス将軍への復讐は?」

 「力不足だから。すぐは無理。デセート王国が、どういうところか調べないと」

 この国の国情がムーゼスから学んだ通りか、確認すべきだろう。

 随分、用心深くなったものだ。

 シラクスは、肯定も、否定もしない。

 どうやら、こっちの意思に任せて行動するらしい。

 それが悪意によるものか、善意によるものか。

 少なくともコルレア王国の国益に反しない限り傍観するのだろう。

 その辺の見極めも必要だ。

 いずれ利用する気でいるはず。

 しかし、利用されるばかりでは癪に障る。

 というわけで、シラクスに借りている借金を返すのが上策。

 少なくともフィリアの王城でザンジバル先生やムーゼス先生に扱かれるより自由で、ありがたい。

 実入りを考え、魔物退治している方がマシといえた。

  

  

 デセートの山間の村々は、交通の便が悪いのか、フィリアより少し貧しくみえた。

 しかし、温泉が出ていて、歩いている人間は身奇麗な気もする。

 泊まれる場所も多く、カオス世界中から温泉客が集まる。

 シラクスの顔の広いことに呆れる。

 小さな村で手頃な民家を見つけてくれる。

 フレアは手に職があるのか、刺繍の材料を買い揃える、

 そして、いくつか、小売の店を回って収入を確保してしまう。

 刺繍のセンスも良く。観光客に需要があるらしい。

  

 深夜の森で・・・・

 二人の男が木を背に立っていた。

 「・・・・・・・・」 シラクス

 「・・・・・・・・」 ケレス

 「あの刺繍・・・・・」

 「ああ・・・まいった・・・サイファだ」 ケレス

 「本当にサイファなのか。連中は政治ごとには手を出さないはずだ。暗殺など聞いた事がない」

 「彼女を育てた農家。もう、一度、洗う必要があるな」 ケレス

 「・・・しかし、何を考えているのか、まったくわからない組織だ」

 「潜入は、したんだろう」

 「哲学的な集団というだけ、実体は掴めなかったよ」 シラクス

 「哲学ねぇ・・・」

 「哲学というのは宗教と違ってエネルギーを欠けている」

 「つまり、知に対する自己満足的な欲求をかなえるだけで終わる・・・」

 「伝播性は小さく、集会もなく、統一性もない」

 「ただ、少人数の師弟関係がカオス全体に分派して、広がっているだけだ」

 「暗殺は、彼女の独断と考えて良いのだろうか」 ケレス

 「動機は十分にある。サイファの秘密にも触れていないと見るべきだろう」

 「しかし、ネピロス公国とサイファのつながりは確認されている」

 「年齢的には、どうだろうな」 シラクス

 「仮にサイファのネットワークがあるとしても、それほど強力なものではないだろう」

 「諜報部では、確認されていないはずだ」

 「しばらく様子を見るか」

 「そうだな・・・・・ガイオス王子は?」 ケレス

 「デセート王国には頼らないらしい。用心深いな」

 「デセートが味方に付くかは、賭けだからな」

 「可能性は?」 シラクス

 「少なくとも攻撃的な国ではないよ。山岳地帯で守りやすい国であることに変わりないがね」

 「ガイオス王子が力をつけるには打って付けの場所ということか」

 「たぶんね」

 「追跡は?」

 「・・・・スピルリナ追跡部隊がデセート王国に入った。数は30人ほどだ」

 「6人単位、5隊に分かれている」 ケレス

 「ドラクーンに動きは?」

 「今のところ、ネピロスの専売権で満足しているようだ」

 「接触するかもしれないな」

 「試練だな。持っている魔法石は、それぞれの隊に小さいのが一つぐらいだ」

 「それなら、何とかなるだろうな」

 「あまく見るな。剣の腕は、上級者だ」

 「ああ」

  

  

 村の歩哨

 魔物退治は、初めての経験だった。

 雲の向こうから遠征してくる魔物は、人間にして、人間にあらず。

 人間より強い物もいれば、弱い物もいる。

 単純に数で勝っていれば、勝つ、ともいえるが魔物次第ともいえる。

 強い魔物は、やはり強い。

 部隊が全滅させられたり。

 村一つが壊滅することもある。

 通常は4人から5人でグループを作り歩哨する。

 ガイオスは子供だったが魔法石を持っているため、特別に参加できた。

 アステート、ランスハ、ケリエット、ナルキスの自警団グループに加わる。

 歩哨は前衛部隊で、後方に本格的な部隊が待ち構えている。

 「・・・ほう、今日は、魔法使いと組めるのか、心強いというべきか、心細いというべきか」

 「ま、俺たちの後ろにいればいいさ。魔法がどの程度使えるか、わからんがな」

 なんとなく戦力と見られていないのがわかる。

 何かの足しになる。死んだら魔法石が手に入る。といった程度の認識。

 「魔法使いの戦いを教えてやるよ。おじさんたち」

 面白がる四人。

 場をゆっくりと広げていく。

 感覚的には意識を飛ばすというのに近く、レーダーのように広がる。

 そして、ゾッ! とする感触。

 大物だ・・・・

 「・・・来た。2時方向。一つ・・・・距離200m・・・」

 4人が剣と弓を構える。

 突然、感触が近付いたり離れたり。

 どうやら、向こうもこっちの念に合わせて、場を広げ、距離を乱している。

 「ど、どこだ。小僧!」

 「場を乱している。向こうも大物だよ」

 不安が広がっていく。

 突然、何かが場を破ってくる。

 すぐに力を逸らす。

 カツッ、カッツ、カッツと針のようなものが辺りに刺さる。

 ゾッとする。

 同じ手を使う相手だ。

 針を持つ手が汗でにじむ。

 「・・・なんだ、やつは針を投げているのか」

 「いま、逸らしている。離れるな!」

 「じ、冗談じゃない」

 ケリエットが走って逃げ出すと悲鳴が上がり、針が背中に当たって倒れる

 「いてぇ! た、助けてくれ!」

 「動くな!」

 ここで、バラバラになったら、守れなくなる。

 ケリエットが泣き言を言う。

 「くそぉ! どこにいる?」

 こっちは、少し開けた場所にいる。

 どう考えても不利だった。

 魔物は、木陰に隠れて、こっちを見ていた。

 相手の攻撃をギリギリまで近づけて、逸らせる。

 最小のエネルギーで、最大の効果を上げる。

 あとは、どっちのエネルギー量が大きいかで結果が変わってくる。

 迫ってくる針を切っ先で逸らせる。

 敵の魔力と総量は互いに掴んでいない。

 前哨戦であり場の張り合いでもある。

 相手が強めれば強め、弱めれば弱める。

 単純な、力技でなく、無駄な力を使わない。

 最小限の力で、最大の効果を発揮する。

 「こっちだ!」

 「こ、小僧、大丈夫なのか?」

 「ああ、俺が押さえるから斬り付けろ」

 いつの間にか、正面に立ち。

 アステート、ランスハ、ナルキスが続く。

 針を紙一重で逸らせていく。

 魔法の力も距離に比例する。

 近付けば、向こうの力も強まってくる。

 互いの魔法エネルギーが飛躍的に強まり。

 魔物の投げつける針が折れ、爆発して散っていく。

 こうなると、魔法の消費量は飛躍的に増大し、

 それこそ、精神力や命を削る勢いになっていく。

 そして、頃合いを見て矢を射させる。

 今度は、こっちの場が相手の場を破り、二本の矢を逸らせないように支える。

 そして、矢が粉砕。

 しかし、それまでだった。

 アステートが剣で魔物を一刀両断。

 初陣の相手としたら最悪といえる強さ。

 魔法石のエネルギーの7割を使い切っていた。

 こんなことを続けていたら割損だろうか。

 しかし、魔物の体から取り出した黒妖石の大きさは相当なものだった。

 ガイオスの取り分は、相場通り。半分が認められる。

 しばらくは、生活できそうだ。

 「・・・ありがとう。ハイネス(ガイオス)。命の恩人だよ」 ケリエット

 当然、偽名を使っていた。

 「じゃ・・・・」

 金を貰えば、次の仕事まで休むことになる。

 1対1で、勝てたかどうか。

 魔法石が足りない状態で戦えるほど甘くないという事が身にしみる。

 回復石が頼りとも言える。

  

  

 子供は夜、眠るもの。

 そういう常識は、魔物退治で通用しない。

 魔物も夜が有利と知って、夜に動く。

 当然、歩哨の仕事をすれば、昼夜が逆になって昼に眠る。

 フレアは何をしているかといえば、椅子に座って、丸一日、刺繍。

 命のやり取りをしない割には、実入りがいい。

 手に職があるのは、羨ましいものだ。

   

 

 ・・・・・・これでも、魔法使い。

 寝ている間、フレアが何をしているか、だいたいわかる。

 剣を自分に向けて振り上げている。

 ガイオスも魔法石溜めた力を放出する準備をする。

 殺気はない。

 振り下ろす気はないようだが、それでも自己満足に浸っているのがわかる。

 フレアに殺されないことを祈るばかりだ。

 ったく。殺すなら殺せと、開き直りたいところ、

 とはいえ、こっちも、敵討ちがしたい。

 妙な関係といえる。

 小さい頃の記憶を思い出す。

 カブトムシを捕まえて、逃げるフレアを追い掛け回したっけ・・・・・

 あの事がなければ、こんな関係にはならなかっただろう。

 ムーゼスに学んでいた頃。

 復讐など非生産的だと頭でわかっていた。

 しかし、復讐する側になると、まったく違う。

 ギレンスを殺したくてしょうがないのだ。

 少なくともギレンスに命を助けられない限り、この気持ちは変わらないだろう。

 そして、ギレンスにだけは、命を助けられたくないものだ。

 フレアの様に二律背反で苦しむことになる。

   

 

 デセートの温泉は、すこぶる気分が良くなる。

 硫黄の臭いに慣れてしまうと落ち着いてしまう。

 そして、魔法石の回復も早い。

 ガイオスとシクラスは温泉に浸かる

 「ガイオス王子。魔物退治は慣れたかい」

 「借金がなければ転職するよ」

 「あははは、出世払いでも、いいんだよ」

 「コルレアは、傭兵部隊を雇うだけの金を出してくれそうなのかい?」

 「・・・君が望むならね」

 「ふっ もう少し、大きくなってからの方が良さそうだ」

 「・・・王子次第だね」

 コルレアは、ガイオス王子が凱旋帰還でなくても良いと思っている事がわかる。

 コルレアは、商人の国。

 どんな状況でも金に変えてしまう錬金術師でもある。

 フィリア王国が二分すれば、それで利益を上げようとするのだろう。

 賭けの元締めでもする気だろうか。

 両勢力の掛け金を釣り上げさせ、勝つ側にかける。

 情報も知っている。

 コルレア王国が損をすることはない。

 まったく。世の中は荒んでいる。

 復讐劇すらも金に換えてしまう。

 そして、その金を使わなければ復讐自体叶えられるかどうか・・・・・

 「・・・・・シラクス」

 「・・・・・」

 『・・・母上は?』

 怖くて聞きたくないこともある。

 聞いても、どうしようもないこともある。

 例え、母が生きていたからといって助けにいけるわけではない。

 「・・・・・・・」 シラクス

 「・・・なんでもない」

   

 

  

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 日本語は難しいです。

 二背反律と思い込んで意味を確認しようとしたら見つからず。

 二律背反で見つかりました。

 とんでもない時間をかけて、やれやれです。

 読者には、そういった時間配分など気にならないでしょうが、

 書く側になると、ちょっと歪な現象です。

 スラスラ書けたり。

 どうでもいいようなところで止まったり。

 バイオリズムと関係があるのか、ないのか。

 作者同士でしか、わかりにくいことも多いかもです。

 創作に専念できれば楽でしょうが、

 サイト運営で創作が削がれたり。

 技術的なCSSも、最近、なんとか、わかるようになっただけ。

 一人三役というのは、意欲が分散されてしまいます。

 試行錯誤で、もうすぐ一年。

 草創期から練熟期というところです。

 

 

 

 

NEWVEL ランキング

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第06話 『流 浪』

第07話 『デセート王国』

第08話 『二律背反』

登場人物 諸王国