若おやじの戯れ(ゲーム批評)Volume2


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こみっくパーティー
発売元・Leaf
本体価格8800-
Windows95/98対応
総合評価・☆☆☆

 『雫』『痕』『To Heart』のビジュアルノベルシリーズでブレイクし、アダルトソフトメーカーの大御所にのし上がったLeafの1999年5月発売作品。『To Heart』などのヒットを契機に、従来の兵庫県伊丹の開発室とは別に東京に新たな開発室を設置、本編が東京開発室としての第一作になる。だが、ある程度アダルトゲームを見てきている向きには先刻承知のことだが、東京開発室の主要スタッフはかつて同業界の別の大手に在籍していた……匿名にしても仕方ないか……F&Cという会社に在籍しており、『Piaキャロットへようこそ』シリーズといった同社の代表作に関与した人々である。この辺りの事情は別段公にされていないが、すれた受け手は自明のことと捉え、この『こみパ』を「あのLeafの最新作」としてではなく、「Piaキャロスタッフの最新作」として受け止めている嫌いが強い。深川個人としてはLeafの前作に当たる『White Album』にも、スタッフの前作と見做される『Piaキャロ2』にも不平たらたらだったので、実は内心かなり不安を抱いていたのだが……

 以下、まずそれぞれの部品について考察し、最後に総論を述べる形で纏めてみる。

グラフィック
 最も不安がないのはここだろう。LeafはプラットフォームをWindowsに移してからというもの、多色塗り環境の構築により多くの労を割いて来た感があるし、新参入の原画担当者はまさしく『Piaキャロ』等に関与して来た人々であり、既に定評がある。実際水準は高いのだが、難を言えば通常画面が一本調子に過ぎる。キャラクターの絵はその時その時のシチュエーションに対応できるように幾通りか用意されているのだが、なまじポーズを決めすぎているためにしばしば違和感を齎す。これでも多く用意した方だ、と言うかも知れないが、生半可に演出するのであればしない方がまし、というパターンに近い。音声に合わせて口パクもするが、タイミングが全く噛み合わずこちらも余計に見える。第一通常画面で口パクを採用するなら、その殆どに音声が使われた特別イベントにおいても口パクをさせないと不自然の感を招くことには気付かなかったんだろうか? (注・この作品では一部イベントにのみ音声が使用されている)あとは、背景が全体にべったりしているのが気に懸かったが、この辺りは意図があってそうしているとも捉えられようか。
 但し、先にも記したとおり、グラフィック自体の水準は高い。単純に絵だけを眺めて遊ぶ分には(そんな奴がどれだけ居るかは謎だが)納得のいく作りだと断言しよう。

シナリオ
 ビジュアルノベルシリーズなどで培った技術がある所為か、一筋のお話と見る分には充分楽しめる。ただ、テーマやシステムとの絡みから考えると、それ程誉められた出来ではない。シナリオとシステムの絡みについては総論で触れるとして、ここではテーマを俎上に置く。
 本編では同人誌即売会というゲームとしては類のない(漫画書きのシミュレーションとしては先駆があるが、深川はプレイする機会を逸した)舞台を採用し、必然的に攻略対象となる女の子のキャラクターも、売れっ子同人に遠征派の同人、主催社のスタッフに印刷会社の娘と、同人誌業界に繋がりのある設定が基本に用いられている。それは当たり前として、問題は、そうした設定が充分に活かされていない面があることと、シナリオに期間に見合った厚みがない点だ。
 各キャラの設定だけを見ると、舞台に合わせて特化しているように見えるが、ヒロインは物語を通して変わっていく主人公に戸惑いを覚える幼なじみ、売れっ子同人作家は売り上げを崇めて天狗になった娘であり、印刷会社の娘は借金苦から家業の危機に直面しており、下手をすれば住み慣れた街を離れなければならぬ身の上である――何のことはない、設定から同人絡みの要素を除くと極めてありがちのキャラが並ぶだけになってしまうのだ。確かに個々のイベントには同人業界ならではのものは少なくないし、肉付けはしっかりしているのでキャラクターそれぞれの個性に拠ったエピソードはそれなりに楽しめるのだが、如何せん骨格がパターン化したものだから、展開が殆ど読めてしまうのである。
 読めることが全く悪い、とは言わない。 寧ろシミュレーションゲームを志向している点から考えれば、展開の煩雑さを避けたという意味で評価もできよう。ただ、その決着が殆どの場合においてプレイヤーの努力を無効化している――即ち、シミュレーションとしてプレイヤーが積み上げてきたものを、シナリオの大概が結末で否定してしまっている。この点が戴けないのだ。キャラクターによっては同人作家としてプレイヤーが積み上げたものを、プレイヤーに選択の余地さえ与えずに棄てさせるものもある。これはシミュレーションという作品の性格上、かなりの減点になるだろう。
 また、シナリオに厚みがないという所感は、ゲーム期間が一年と長く設けられているにも拘わらず、基本的にキャラ攻略に必要な展開のみが置かれ、作品に膨らみを与えるようなサブエピソードなどがあまり仕掛けられていないことに起因している。あれだけの時間があるのに、物語として悩みが一筋しかないのはやはり合点がいかない。ゲーム性を志向したが故の簡略化が施されたと捉えても、だ。
 ついでに云い募れば、個人的にある特定キャラの扱いが全くもって評価できない。この娘は隠しキャラなので、以下数行は背景と同化させる。既にプレイ済みであるか、ネタバレをしても困らないという人は、反転表示させて読んで下さい。総論には関連しないので、無理に読む必要はありません。
 
で、問題のキャラの名をあさひという。彼女はアイドル声優であり、発端ではプレイヤーキャラのグルーピーとして登場する。普段は異常な人見知りで、その悪癖を直したいが為に声優を目指した……云々といった事情は本編を参照していただくとして、深川が彼女の何を評価していないのかと言うと、彼女のストーリー上の扱いがどう見てもアイドル声優ではなく、単なるアイドルでしかない、という点だ。声優というキーはストーリー全般から見ても何ら役に立っておらず、それはつまり同人誌即売シミュレーション、というソフト本来の主旨から逸脱することを意味する。第一、この『こみパ』のスタッフにとってはアイドルというのは珍しい素材だったのかも知れないが、発売元のLeafとしては、他ならぬ前作でアイドルという設定を徹底的に利用しているのだ(利用の仕方には問題があったけれど――詳しくは別項参照)。そういう状況で、殆ど型どおりのアイドル像を描くことにシナリオ担当者は何の違和感も覚えなかったのだろうか?
 更に深川は、物語の決着についても不満を抱いている。結局の処主人公とあさひは、あさひに纏わる「将来性充分のアイドル」というレッテルが元で引き離されそうになり、最終的にあさひがアイドルという地位を棄て、主人公と手と手を取り合い出奔したところで物語は幕を下ろす。確かにただ読む分には感動的だしつまらない訳ではないが、冷静になると余りにいい加減な、という気がする。まず、これから売り出すアイドルに彼氏が居る程度のことが一大スキャンダルのように取り沙汰されることは昨今少ない。それどころか、近年は彼氏の存在を公言したり、早々と籍を入れてしまい、尚アイドルとしての活動を続けている例が幾らも見出せる――しかもそれは声優の話ではなく、一般のアイドルの話だ。最近のファンはある意味寛容と言おうか、アイドルの純白さを希求する輩ばかりではないのだ。そうした現実からすれば、たかが売り出し中のアイドル声優にパパラッチが張り付き、それが醜聞となって、すわ二人を引き離せ、となる一連の過程には全く説得力がない。それがアイドルとの恋愛というシチュエーションの王道を選択した故だとしても、ラストで安易に主人公達に将来を棄てさせたのは行き過ぎだろう。このゲームが同人シミュレーションであるのなら、ここでプレイヤーの成果を反映させるべきなのだ――主人公がまだ駆け出しのレベルを脱していないのなら、ああして一切を棄てて遠い街で新たな暮らしを築くという結末も悪くない、と思う。だが、エンディングの時点で主人公が同人作家としていっぱしの地位を築いていたらどうだろうか? その場合、彼の喪失を惜しむファンも、あさひほどではないにせよ、いる筈なのだ。また下世話な想像ではあるけれど、主人公のそうした地位を、あさひをプロデュースする人々が利用しないとも限らない。それはつまり、二人には逃げ出す以外の選択肢が残されているということだ。この事実を無視して、安易なたった一つの結末をプレイヤーに押しつけた彼女のシナリオを、私は断固認めるわけには行かない。以上が、深川があさひのシナリオを評価できない理由である。

 ――納得して戴けただろうか? このキャラに関する無見識もあって、深川は本編のシナリオを高くは評価できない、という結論に達した。

 ……なんか異様に長くなったので、ページを移して論を継続しようと思う。まだ飽きておられないのでしたら下をクリックして下さいませ。

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