18禁ソフトとしては記録的な大ヒットを飛ばした前作『臭作』以来、凡そ一年と九ヶ月ぶりとなるelfの最新作。ブランクにはかつての名作『同級生』や『Words Worth』をWindows95以降対応にリニューアルしていた。既にシステム的に古びた作品までも旧態のまま移植してみせる状況に、一部では危機も囁かれたelfであるが、さて、そんな大御所が遂に手を伸ばした昨今流行のノベル形式AVGである最新作、その出来の程は如何なものか――
作品の舞台は風光ばかりが売りの、人気もなく寂れた海辺の町。主人公・松永が七年前に訪れ、今なお癒えない悲恋の傷を負った海岸である。松永はそこにある寮を訪れる学生達の添乗員として、あれ以来初めてその海岸にやって来たのだ。当時と微塵も変わらない深い碧を湛えた海の向こうに失った恋人の面影を感じながら、そこに集った人々と交流を続けるうちに、松永の中で何かが変わり始める――
シナリオ
便宜上、粗筋をさながら一本道のシナリオとして記したが、一応はじめのうちはマルチシナリオ・マルチエンディングの体裁を取っている、ように見える。見える、というのは、一応キャラクター攻略型の恋愛もののスタイルを踏襲しているのに、最初のプレイからすべてのキャラクターと出会うことが不可能になっている為、実際には一回りごとのプレイにおける選択肢は狭く、また全キャラクターを制覇してみると、何のことはない、結局はただの一本道に限りなく近い話であることに気付かされる為だ。無論何処にもマルチシナリオとは銘打っていないし、一本道でもその結末が展開のひとつひとつを呑み込んでちゃんと昇華させてくれれば言うことはないのだ、が。
問題は、各キャラクターに設けられたエンディングに、恐らく一番提示したかったであろう本当のエンディングが勝っていない、という点である。本当のエンディングと銘打っていても、その結論は各キャラクターのエピソード中で幾度も反復されたものであり、別に驚くことも感化されることもない。それでも過程がしっかりと描かれている、或いはゲームとして楽しめるレベルならば納得できるのだが、描写は冗長だし、何よりその間で描かれる主人公の結論が、キャラクター毎のシナリオで綴られる懊悩や諦念、決意などと較べてあまり差違がなく、なまじ大風呂敷を広げているだけに一層色褪せて見えるのである。終盤はそれ以前のシナリオをも呑み込んだ幻想絵巻的な展開になるのだが、他のシナリオとの絡ませ方が恣意的で違和感ばかり際立っているし、先述の通りその結論が迫力に欠けるためラストシーンの感動も散漫なものとなっている。そこに加えて、本当のエンディングに至るまでのシナリオが全編通して最も冗長で、ましてそこまでのシナリオをちゃんと考えながら読んできた人間にはあとで示される結末が簡単に予想できるだけに、ひたすら退屈なのである。退屈な上に結末が近づくほど選択肢が少なく「流されている」感が強まり、ラストシーンに到達する頃にははっきりと醒めていた。
また、こういったノベル形式のゲーム作品では『文章力』が強く問われるのは論を待たない筈なのだが、無思慮な台詞繋ぎや陳腐な決まり文句、あまりに持って回った叙述が多く、或いはこちらが普段から小説を読むことに慣れている所為も却ってあるのかも知れないが、屡々集中を妨げられてプレイ中に不快を催すことがままあった。そうした表現面の不手際が反映されたのか、日常のイベントも時として冗漫になりがちだった。そして何より、殆どのキャラクターはそのエピソード展開が予測できてしまうという辺りが、シナリオ重視のソフトとしては致命的かも知れない――尤も、展開を予測してしまうのは一応の作り手志願としての習い性のようなものだし、余計な思索を交えず虚心に物語に没頭できる方なら(ただ、だからこそ文章力が問題だと言ったのだが……)まあ、そこそこには楽しめるだろう。
全体に、着想は悪くなかったと思う。主軸となる仕掛けのひとつは私自身何かに使えないかと腹案にしていたものだし(ただ、これほどの大風呂敷に使おうなどとは許より考えもしなかったが)、上手くシナリオ同士の繋がりを計算してやっていればもう少し感動的なエピローグになった筈なのだが。結局問題の所在は、クリエイターの思慮不足か致命的な力量不足だと言えるだろう。
音楽
elfとしては初めてのCD-DA音源(音楽CDで利用される一般的なフォーマット)を利用している。確かにこの方式は再生面での信頼性が高く、現状では安定性・再現性共に屈指の音声フォーマットなのだが、その割に収録された演奏は通り一遍な電子音で行われており、CD-DAを活用するほどの価値は見出せなかった。折角の高音質なのだから、もう少し手の込んだ編曲にするなり生音を活用するなりした方が良かったのではなかろうか。曲の出来も、あまり良いとは思えなかった。テーマソングの歌詞は……まあ、最近はあまり期待しないようにしているのだけれど。
CG
『下級生』以来の門井亜矢が原画を受け持っている――内心、門井亜矢という人の絵には独特のカラーが濃厚であり、かなり作風を選んでしまう、或いは限定してしまうだろうな、と思っていたが、案の定全体的に『下級生』の印象が拭いきれない。また、人によって好き嫌いの分かれる型のイラストでもあり、その意味では些かマイナスになっているようだ。
本編では全般に旧作と較べて作品の組み立て方が変わっている、という印象が強かったが、着色の上でも若干ながらポリシーの変化らしきものが窺える。流行のアニメ絵路線をより強く踏襲し始めたのかな、と感じたのだ。クオリティ自体は悪くない。が、クライマックスなどで使用した3DCGは問題多すぎ。エンディング直前、森の上を飛び越えていく鳥の姿が3DCGを駆使したムービーで描かれているのだが、ポリゴンのギザギザがあからさまに見えてしまい違和感が強烈にある。どうも労力を惜しんだような出来に見え、怖ろしく損をしているように思えたのだが……。最近のゲームソフト全般に言えることだが、安易な3DCGの導入は作品の出来に決して寄与しない。要は技術と表現力の問題なのだから、どちらも中途半端だと自覚しているなら使わない方が遥かにましだと思うのだけど。
システム
流石に古参ブランドだけのことはあって、システム面で文句を付けるところはなかった……と言っても、ノベル形式のゲームはLeafの一連のシリーズを契機に普及し、既にシステムとしては枯れたものとなっているのだから、普通であれば不出来になる筈もないのけれど……。惜しむらくは、もう少しセーブエリアを用意していれば、というぐらいか。
総合評価
総合評価は便宜上星三つとしたが、本心としては星二つでも仕方ないかな、という出来である。何故評価を甘くしたかというと、本心通りの点を付けてしまうと18禁のソフトの大半が下のレベルに落ちぶれてしまうからだ。消極的且つ不本意な理由ではある。
ただ、キャラクター個々のシナリオを単独で見る限り、ゲームとしてまるっきり不出来な訳ではない。放置されたままの伏線であるとか描き込み不足であるとか、反対に説明不足だったり行動と行動の因果関係が弱かったりと、弱点も論えばきりはないのだけれど、まあ目こぼししてもいいかな、という程度である。ただ、それらを纏めるシナリオが個々のエピソードを束ねるには小粒すぎた。換言すると、キャラクター攻略のゲームとしてみればそれなりのレベルにあるということ。但し、期待しすぎてはいけないけれど。
なんにせよ、以前のelfのような、業界の標準値を引き上げるような目覚ましい完成度とはお世辞にも言えない。このまま進めば、何れelfも凡百のソフトハウスの仲間入りをしてしまうだろう――周囲の水準が上がる、という形ではなく、elfの方がそちらにずり落ちていくのである。その辺りが往年のファンとしては寂しく、厳しく一喝したい。この程度で安住されては困るのだ。
(2000/1/8)
※1999/11/27・28日記中の記述を元に文章を推敲・再構成しました。
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