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不確定世界の探偵紳士 Rebirth!
Abel SOFTWARE / 2004年05月28日発売 / Windows98・2000・Me・XP対応ゲーム / 
18禁 [amazon購入ページ]

[ゲーム概要]
『エクソダスギルティー オルタナティブ』『カード・オブ・デスティニー オルタナティブ』など、独創的なシステムと圧倒的ヴォリュームのシナリオで知られる作品を多く上梓するAbel SOFTWAREが、digiANIMEにて発売されていた『不確定世界の探偵紳士』を、CGは総入れ替え、ヴォイスをふんだんに採り入れたうえ、システムや一部のシナリオを調整のうえ復活させた作品。続編にあたる最新作『ミステリート〜不可逆世界の探偵紳士〜』と同時に発売された。
 世界的な探偵組織アイドラーの評価で、世界に30人ほどしか存在しないというクラスAを戴く悪行双麻は、何もしなくても事件のほうから彼のもとに転がり込んでくる脅威の悪運の持ち主でもあった。そんな彼のもとには今日も、不可解な事件の調査依頼が舞い込んでくる。それらはいつしか、彼を巨大な陰謀の渦の中へと導いていくのだった……

[感想]
 いちばん最初の、音声なしのヴァージョンをやっていた身には、主人公はじめすべての主要キャラクターに音声が吹き込まれていて、しかもけっこうベテランや大物揃いである、というだけでちょっとした感動がある。
 が……久々にこのシナリオに触れてみて改めて思うのは、割と柔軟な展開を許したシステムのようでいて、本質は虱潰しタイプのAVGとあまり変わっていない、ということだ。
 作中では幾つかの事件が発生し、それぞれが主人公である悪行双麻のもとに持ち込まれるのは、冒頭の「ゴースト殺人事件」を除けば、どんなイベントをどんな順番で見てきたか、によって異なる。解決の順序が変わったり、イベントの発生が前後すると微妙に登場人物たちの反応が変わる、という趣向なのだが――実際に繰り返し遊んでみると、この変化は(恐らく製作者の企図したほどには)あまり大きくない。確かに順番は色々と変えられるように見えるが、せいぜい三種類ほどが相前後するだけで、重要な事件の齎される時期はまったく動いていない。確かに、事件それぞれの出来事が重複しているため、こちらを優先するとこちらが遅れてしまう、というゲーム的な興味は高まっているのだが、その進行が少々恣意的で、証拠や推理から具体的な行動を起こす、という場面が少ないため、どうすれば話が進むのかが見えにくく、また解決した場合のカタルシスにも乏しいのが勿体ない。
 結局のところ、最後で語られる事件ですべてが一本に纏まってしまうために、余計にわざわざ事件が別に齎される、という構成の意義を感じられなくなってしまうのだ。せめてあと三本か四本、短めでもまったくラインの異なる事件を盛り込み、それで本筋の展開が微妙に変わる、といった工夫が欲しかった。そのくらいでなければ、『不確定世界』という看板にそぐわない。
 但し、メインの事件に関する趣向とどんでん返し、そしてラストの感動の醸成は巧い。なかなか臭い台詞が相次いだり、超人的すぎる行動が続くので、人によってはちょっと興醒めな気分に陥るかも知れないが、この込み入ったプロットそのものには敬意を覚えるはずだ。
 ――が、それで手放しで褒められないのは、折角の18禁というレーティングを敷いていながら、それらしさが殆どないこと。エッチシーンはあるのに、具体的な描写は殆どと言っていいほど、ない。いちばん最初のヴァージョンにもあった問題点であり、確かそれを受けて、コンシューマー版のあとに『〜Hardcore』というヴァージョンをパソコン版で上梓し、その手のシーンを強化した、という風に謳っていた記憶がある。それを踏まえてのリニューアルだと思っていたのだが、あまり内容が変わっていない――寧ろ、記憶にあるよりもインパクトに欠くのはどうしてだろう? まだ重要なキャラクターであるミントについて、その手のシーンがすべて回収できていない様子があるが、この調子では大した内容ではないのでは、と思えてくる。
 加えて、数少ないまともな描写が、極めて不自然な状況で行われているのがまずい。まるで説得力はないし、このソフトハウスが看板にしているはずの感動を演出するための手法として採り入れたような雰囲気だが、その中では最も不愉快なやり方だと言わざるを得ない――しかも、CGがそのときの状態を実際と異なるかたちで描いているために、余計納得がいかないのだ。
 本ヴァージョンと同時発売された続編『ミステリート〜不可逆世界の探偵紳士〜』に繋げるための描写がボーナスとして追加されていたり、それなりの楽しみがあったのは事実なのだが……かなり作り替えた作品でありながら、ルーティン・ワークのように感じられたのは、上記のようにシナリオそのものは殆ど改訂が加えられておらず、それを乗り越えた見返りが得られなかったためだ。作中、この作品のセーブデータがあることで続編(ミステリートを踏まえての発言かは解らない)に何らかの影響があるようなことを告げているが、もしそれがないようであれば――旧作を遊んだ人間にとっては、懐古的な気分を満たす以上の作品にはなり得ない。
 翻って、これが初めてのプレイという方なら、入り組んだシナリオと、ちょっとオールドファッションな雰囲気のAVGを堪能できるはず。但し、18禁ゲームならではのサービスにはあんまし期待しないようにね、という注意は必要だが。

 シナリオばかりに注意が向いてしまったので、以下でシステムとCGにも言及しておく。
 本編は最近のAVGに多い文章による選択肢ではなく、すべての行動をアイコンと画面上のカーソルを動かすことで決定する、という体裁になっている。アイコンの種類を覚えるまではまごつくが、もともとそんなに多くないし視覚的に解り易いデザインなのでさほど問題はなかった。
 が、困ったのは移動である。移動のアイコンをクリックすると、背景画面に四角い枠が現れ、それを枠の右上にあるボタンか十字キーで移動させて、次に向かう場所を選択する、というものなのだが、それぞれの枠が何処に向かっているのかが解らない。そもそも、マウスの移動に対応しておらず、枠を動かすためにいちいちマウスをクリックしなければならない、という手法は従来の選択肢方式と比べて明らかに煩雑だし、枠が表示されるとともに移動する場所が表示されるならまだしも、何のガイダンスもないので、間違った場所に移動することが多くなる。時間にシビアな組み立てになっていて、何処に移動するにしても一律三十分かかる(そもそもそれがかかりすぎだ、という気はする)という設定なのに、些細な移動にまで厳しい制約を加える意味はあったのか。また、この形だと、新たに訪れる場所が何処にあるのかを直感的に理解するのも難しくなり、他のコマンドで移動を示唆されても、選択にまごつくことが多くなる。この移動システムは、今回のヴァージョンで行われた最大の改悪だった、と思う。
 ほか、ウインドウ表示とフルスクリーンの切り替えがキーボードのみの対応だったり、ロードがオープニング画面からしか出来なかったり、音声のトーンが全体に小さめで他のアプリケーションと切り替えるといきなり騒々しくなる、といった、かなり基本的な問題点がある。動作性が良好なだけに、設計がいかにも大雑把なのが惜しまれてならない。
 CGの塗りは及第点という印象だった、が、構図が全般に稚拙と感じた。あとで別キャラクターのヴィジュアルが挿入されるわけでもないのに妙な空間が残っていたり、臨場感も迫力も感じない構図が多い。また、テキストにおける性描写の淡泊さに合わせて、その類のシーンが実に素っ気ない。雰囲気はあるのだが、それを充分に活かしきっていない様子だった。
 ……とまあ、なんか並べてみたら不満だらけになってしまった。腐したところ以外はシナリオ、システム、CGいずれも安定しており、基本的には楽しめるのだけど、ここまで出来るならもっと完成度を上げられたのでは、という嫌味が出て来てしまう。
 翻れば、それだけ根っこは良くできた作品だということなので、前述の通り初めての方であれば概ね文句なく遊べることだろう……とにかくサービスは期待しないでね、という但し書き付きで。

(2004/05/31)

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