第一回MYSCON合宿レポート

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2000年3月11日(土)午後3時半〜3月12日(日)午前8時半

 注意:深川には一度会っただけでは顔と名前が一致しないボケていると自分が誰と話しているか認識しないというおばかな一面があります。そのためこのレポートに於いても随所で人違い・誤解をしている可能性が、取り分け徹夜の大イベントという性格上、大いにあり得ます。錯覚や誤りに気づかれましたら、下の送信フォーム、メールなどで是非ともご指摘下さい。

午後3時半〜 前哨戦

 MYSCONに参加されるためわざわざ広島から新幹線で出てこられる政宗九さんを迎撃する、ということで、深川の家から近い某駅にて、別のオフ会に行く前のゆきりん、かなぞうと待ち合わせる。が、最初に逢えたのは政宗さんで、東京にいるはずの残り二人がなかなか来ない。まずゆきりんの携帯電話にかけてみるが留守電サービス。次いでかなぞうにかけてみると……すぐ脇にいた。あちらは柴田さんの新刊に目を走らせていて、こちらは伏せた顔に気づかないままずーっと目と鼻の先に突っ立っていたらしい。ではゆきりんは、とかなぞうが電話してみると、来る途中で忘れ物に気づき一旦戻ってしまったらしい。五分後、四時を回って漸く登場、行きつけのうどん屋へ向かう。鳴子温泉郷のイベントが開催されているらしく結構な人手の中を掻き分けるように歩いた。三人は私が以前から薦めていたかき揚げ天ぷらうどんとカレーうどんを食し、私はたまには別のを、ということで卵とじを注文する。喜んで貰えたようなので紹介したこちらも嬉しい。他に客がいないのをいいことにマスター相手にちょっとミステリとホラーの差違なんかを論じてしまったりする。この辺りの詳細はここここにあると思います(と言って手を抜く)。
 オフ会の会場に向かうためまた駅に戻るゆきりん、かなぞうと別れ、政宗さんとともに二十分ほど坂の多い道をMYSCON会場まで歩いていった。普段は自転車かバイクを足にしているため、歩くのは結構しんどい。
 東大周辺は普段から立ち寄ることのない土地のため(政宗さんには申し訳なかったのだけど)迷うことも心配していたのだが、簡単に辿り着いた。案内のために路地の出口に立っていた松本楽志さんに挨拶していると、鉄人・Kashibaさんがタクシーで登場。キャスターに段ボール二箱に及ぶ荷物を載せていた。そうこうしている間にも会場に向かう参加者が陸続と道をやって来る。数名の方と一塊りになって、会場である鳳明館森川別館の門を潜った。起伏の多い地形を利用した、独特の和風建築である。幾つか用意された荷物部屋のうち「爬虫館」と名付けられた部屋に荷物を降ろし、一服してから最初のイベントがある階下の大広間へ向かった。

午後6時〜 開会・井上夢人講演

 開会式。この人あってのMYSCONであるフクさんがちょっと説明を挟んだあと、大森望さんがインタビュアーを務め、ゲストである井上夢人さんのお話に全員で耳を傾ける。主にe-NOVELSへの意気込み、出版界の展望が俎上に乗せられた。以下、その講演内容を私のメモからざっと再現してみる。メモに書き留めたキーワードから講演内容を私の言葉で噛み砕いて記述しており、井上氏の真意とは一部乖離している可能性があることを一応お断りしておく。

 e-NOVELSというと井上氏、という具合にイメージがついているが一番熱心なのは笠井潔氏らしい。現在八方に勧誘の手を拡げているようで、山田正紀氏などを招聘している模様。山田氏は長篇『神獣戦線』(字、違ってません?)や評論での参加を予定しているとか。一方で井上氏も勧誘活動は行っており、まず皆川博子氏の『あの紫は』の掲載に西澤保彦氏の参加、また現在週一回のペースでエッセイを連載している我孫子武丸氏の長篇連載もあるという(「エッセイが週一なんだから、長篇連載は毎日更新させようかと」仰言っていた)。また、週刊アスキーとの連動企画も開始されるそうで、既にその口火を切る我孫子氏の作品が四回分入稿されているらしい――そのあとはよく解らない、とも仰言ったが。この週アスでの連載は以後加納朋子→笠井潔→宮部みゆき(!!)という具合に、各人三ヶ月ぐらいで行われる予定だという。他ならぬ井上氏の連載もあるらしい。
 ここでちょっと会場に井上さんから「e-NOVELSで小説を買ったか」という質問が出たが、MYSCONだけあって見に行った人間が多いのに反して、購入者は全体の3%程度だった。井上氏大森氏共に苦笑しつつ、井上氏は今後i-modeにも対応させようかと思っていると本気とも冗談ともつかぬ口調で仰言っていた。ショートショート中心にしてとか。
 次いで、何故e-NOVELSでPDFフォーマットを採用したかについて言及する。大森氏はtxt派と明言されたが、井上氏はこれに同意していない。txt方式は音声出力のほうで対応しているという利点が存在するが、反面如何様にも改変が可能でデータにセキュリティが施せない、という悩みがある。対してPDFはフォントの埋め込みが可能である(Ver4.0以降で対応)ため、現在PCでは外字としてしか表示が出来ない文字――「掴」とか「草なぎ」とか――の変換が不要になるという利点がある。また、井上氏は京極夏彦氏を例に挙げて「字詰・サイズの改変調整が出来るままでは商品としてまずい」という説を主張し、その意味でもe-NOVELSではPDFを採用するに至ったのだという。
 だが、井上氏は同時に、本心ではボイジャーで配布しているT-Timeのほうが好きだとも語る。というのも、T-Timeはしおりの機能が備わっており、文章を途中で読むのを止めても、次にソフトを再起動した際、止めたところから表示してくれるという便宜が図られている。こちらを採用しなかったのは、ひとえに先述のフォント埋め込み機能がなく外字表示が困難な点にあったらしい。井上氏はこの点の改善をボイジャーの方に要請されたそうだ。頒布に使用するフォーマットは極力作り手の意図が反映されるように務め、今後PDFからの移行もあり得るという。配布されているデータサイズの大きさにはスタッフも苦慮されているらしいが、結局サイズが大きくなってしまう点は勘弁して欲しい、というコメントもあった。この点で問題になるのはやはり画像で、最近e-NOVELSに掲載された岡嶋二人の長篇『そして扉が閉ざされた』と、カラー写真を取り込んだパリ・ダカールレース参戦記『熱い砂』の連載一回分がほぼ同じ2MB程度になってしまう、という事実がある。画像さえなければ、今のサイズが妥当というところなのだろうか? また、井上氏はWin版とMac版のデータが別商品である、という認識も明らかにし、e-NOVELSでは商品購入時ダウンロードに失敗しても一週間以内であれば何回でも再挑戦が出来るのだが、別途Mac版をダウンロードしようとするとまた料金を支払わなければなくなる。e-NOVELS的には一向に構わないのだけど、とも仰言っていたが。
 話題は、オンライン決済の方法に及ぶ。現在e-NOVELSではWeb Moneyを採用しているが、これは中田英寿のホームページで採用されてから急激に普及したとか(中田に興味があまりないので深川は関知せず)。従って、「e-NOVELSは中田を応援している」という結論になるらしい。Web Moneyの難点は、その都度固有のIDを入力しないと使えず、これが存外に面倒臭いことにある。大森氏は一度に大量購入することがないため、「うぇぶまねー」と入力すると(ローマ字入力かも知れんが)勝手にナンバーに変換されるよう予めIMEに登録しているとか。今後はクレジット決済も行えるよう準備中で、首尾よく進めばこの一ヶ月後には可能になるそうだ。ソネットとの交渉も行われ、ソネットとの契約がある方は煩瑣な手続抜きで購入できるようになるかも、と、現在様々な配慮が実施されつつあるらしい。こうしたオンライン出版は日本国内以上に海外の需要が高い(あちらでは書籍類が高価で購入できる場所も限られているという事情がある)とか、購入する場所が近隣にない方のためにWeb Moneyをオンラインで販売するという些か転倒した挿話も披露された。
 現在、企業によるオンライン出版は「電子書店パピレス」「光文社電子書店」「E Books」などが存在するが、これらとe-NOVELSの異なる点は、井上氏の表現する「産直」であるところにある。現在の流通は最近発売されたものほど入手が容易であり、古いものは困難になる傾向にある。また、書店で売れることを見込んで20冊注文したものが蓋を開けると5冊しか届かない、という事態も生じている。ネット界で好評を博し結構売れている筈の『オルファクトグラム』も、未だに重版がかかっていないのが現実らしい。その為に、新聞・雑誌などで書評に採り上げられ、話題となっている時期に肝心の本が書店に流れず、重版分が配本された頃には話題になっていない、という結果を招いている。作家の当然の欲求として作品は成る可く沢山の人に読んで貰いたいものであり、そうした望みもe-NOVELSには託されているようだ。
 井上氏は現在の出版業界を、映画『タイタニック』で沈む直前の船上で楽器を奏で続ける人々に例えている。しかも大出版社ほどその傾向が強いと。彼等は豊富なバックリストを財産として捉えておらず、同時に文庫・新書類が定期刊行の雑誌と同等に扱われており、一時期大量に出回ってはすぐに消えてしまう、という状況が続いている。この状況は、例えば歴史小説を強く扱っていたりミステリのみを拘って売り続けるようなジャンル専門書店が存在していれば回避できる問題なのだが、実際には存在せず、その面からも専門的な扱いが可能な電子出版は着目されている。だが、こうした事実に対する危機意識は若手ほど希薄であり、反対に「誰かがやるだろう」という他力本願な意識が罷り通っているのが現実らしい。一部の企業では少しずつ電子出版に参入しつつあるが、その意図は絶版対策――豊富に存在するバックリストの独占であり、飼い殺しとも形容できる扱いが主流となってしまっている。それは即ち、電子出版を活字出版より劣るものとして認識させる温床にもなりかねず、井上氏は作家による直販がその対策としても有効であることを述べていた。
 e-NOVELSが現時点で作家の寄り合い組織のようなスタイルとなっている理由にも言及があった。個人で直販を行うと、販売方式、フォーマットなど、ノウハウの多寡で優劣がついてしまう。また、オンライン決済の手続はWeb Moneyにせよクレジットにせよ個人では非常に困難だという現実がある。だが、寄り合いで実施すれば、寄り合った作家の数が多いだけ集客力が増し、現在は未だ決して点数は多くないけれども、今後作品が多く集まればそこから読むべき作品を探しに来る人も増えるだろうし、またこれから書こうとする人々の指針ともなり得る。いわば互助会団体としての活動も視野に入れているという話なのだ。同様のスタイルを取る電子出版もあるが、その将来については井上氏、ちょっと首を傾げていた。ストレートに名前を挙げられていたが敢えて秘密としておこう。
 最後に、e-NOVELSの今後の展開について井上氏の考えが述べられた。現在の体制は井上氏の知識と技術が注ぎ込まれており、その所為で他ならぬ井上氏自身の小説が書けない、という悪循環を生じている。ために、井上氏には今後どなたかにノウハウを委譲し継続して貰う意志があるという。また、来客は多くとも購入者が少ない、選べないという状況を打破するために、立ち読みに代わるものを模索している段階とか。御自身の仕事を犠牲にしながら井上氏がこの計画に執着されているのは、読者が読みたいものを求め、作者が書きたいものを書きそれを望む人に届けるという健全な状況を作りたいという願望、そして世の中にはこういう読み方もあるのだと知って欲しい、という切実な思いがあるようだった。
 といったところでかなり時間も経過し、そろそろ次の企画にかからねばならない、という時間になってしまった。だが折角の機会ということで、大森氏が会場に質問を求めた。先ず森英俊氏から極めてらしい質問「e-NOVELSで翻訳作品の出版は行わないのか」というものが。井上氏は全く考えていないとしながらも、版権の切れた作品から掲載してみたいとか、また既に掲載された作品の英訳もあり得るという展望を垣間見せる。だが、今の処は地盤固めで精一杯であり、翻訳作品の出版は余裕が出来てから、と仰言った。次に挙手されたのは浅暮三文氏、内容は「嗅覚の話を書くきっかけは?」――会場が沸いた。念のためにご説明しておくと、浅暮氏は『オルファクトグラム』とほぼ同時期に『カニスの血を嗣ぐ』という同じく嗅覚を題材にした長篇を執筆・上梓しておられるのである。井上氏は、かつて小説すばる誌上に掲載され、のちに単行本に纏められた連作『あくむ』の名前を挙げられた。この連作は五感を題材に用いていたのだが、最終的に嗅覚のみが書けなかった――井上氏は「匂いに関する言葉が自分の中になかった」という具合に表現された――ため、最後の一編に於いて第六感に逃げてしまい、氏の中で宿題として嗅覚が残っていたのだと語る。いつかその借りを返そうと、花の本にアロマテラピー、果ては「嗅覚とは何か」といった本を読み漁ったのだそうな。また、氏は自身の先立つ長篇『パワーオフ』も例に挙げ、『パワーオフ』が進化論に取材したフランケンシュタイン譚であると言い、取材の過程で「コウモリがいわば超音波でもって外界を見ている」という事実に興味を抱き、それを嗅覚に置き換えてみてはどうか、といった具合に着想されたらしい。そうした取材と試行錯誤の結実が最新作『オルファクトグラム』ということらしい。ついでに、実際にはあんなふーには見えません、と断っておられたが。最後に浅暮氏から「嗅覚以外の五感で長篇を書かれる予定は?」という駄目押しの質問があり、井上氏は笑いつつ「今の処考えていません」と返されていた。

 その後、INOさん雪樹さんの司会で以後のイベントタイムテーブルについて説明が行われ、更にワセダミステリクラブ数年ぶりの会誌の宣伝に、関東のミステリ連合有志が主宰するセミナーの告知も一緒に行われた。

午後7時半〜 全体企画

 軽い休憩を挟み、準備ののちお薦め本の交換会に突入。私が持ち込んだお薦め本は岡嶋二人『チョコレートゲーム』(講談社文庫)。他にも候補はあったが井上夢人氏が見えていることもあり連想的にこれに落ち着いたのである。交換の際は名簿及び名札によって予め為されたグループ分けの中で行われる。グループ名はMYSCONらしく各々探偵の名前で統一されていた(でもなら何故ルパンがいる)のだが、私の名札には『法月綸太郎』とあり、好きな作家でもあるので結構喜んだのだが、実は『法水麟太郎』(※小栗虫太郎『黒死館殺人事件』などに登場する探偵)だったというオチがついた。
 基本的に仲良しが集まらないようにする、という方針があったそうで、私が加わったグループも、スタッフとして仕切りに廻ったGAKUさん以外は殆どの方が初対面だった――尤も、喜国雅彦さんをはじめ某所で結構馴染みのある名前が固まっていたのだけれど。喜国さんには『芦辺倶楽部』絡みで認識していただいていたらしい。因みに交換会では私の『チョコレートゲーム』はSF・ファンタジー方面がご専門という藤元直樹さんの処に行き、私はスタッフでもある七沢透子さんがお持ちになった杜野亜希『ヒロインを探せ−神林&キリカシリーズ(1)−』(白泉社・花とゆめコミックス)を頂く。……しかし、これは続きを読むべきか否かという選択を迫らされる点で結構凶悪なセレクトのような気がするんだが……。前から興味を抱きつつ読んでいなかった作家でもありいい機会だと思いつつ困惑気味。
 続いてクイズ大会。どんなクイズが出るのかと思いきや、フクさんが伝聞という形で謎を提示し、それに対する答をグループ毎に考案するという仕組み。肝心の謎は次のようなもの。
『ある人物が、古書店店先のワゴン(均一棚)にある文庫本を二十冊無作為に持っていった人物を目撃した。だがその人物は奇妙にも翌日もまた翌日も同じく二十冊の本を持ちだし続け、それを一週間続けた。その人物は一体何のためにそんなことをしたのだろうか?』
 題して『古本二十冊の謎』。ミステリファンにとっていわずもがなである。取り敢えず参加者の誰かというオチは駄目、という約束や質問を介して幾つかの条件が付帯され、その枠内での推理合戦をする、という主旨である。我が『法水麟太郎』グループは、喜国雅彦さんの独壇場となった。「店の奥にある本を(店の親父は価値を知らないだろうから)均一棚に出させるため、毎日大量に買い続けた。二千円であるのはその人物がサラリーマンで日割りの小遣いが二千円だったから。親父に要求すると足許を見られる怖れがあり、だが毎日二千円を投資しても惜しくない価値のある本なのだ」「その人物が買っていたのは講談社文庫で、カバー折り返しにある応募券を集めて庫之助を沢山入手したかった」「実は本ではなく大量に買ったときにつけて貰える紙袋が目的だった。絵柄がラムちゃんだった」という完成度の高いネタを三本も弾き出し、そのまま採用となる。他のグループからも「西村京太郎だった」「赤川次郎だった」という一発ネタを含め、結構受け狙いの解答が続いた。ルパンのグループではおがわさんが代表となって芸を披露していたが、芸のインパクトが強すぎて肝心の内容がよく解らなかった。解答は司会であるフクさん、INOさん、雪樹さんの三方によって審議され、閉会式で発表される。

午後9時半頃〜 小休止

 休憩時間。政宗さんと買い出しに行き、荷物部屋で軽い食事を取りながら政宗さん、執事さん近田鳶迩さんチャッピーさんらと雑談。ミステリ絡みの話題ではなく、気の赴くままにあれこれ話していたという感じ。結構皆さんこのサイトを御覧になって下さっているようで驚いた。有り難う御座います。

午後10時半〜 若ミス鼎談

 若手ミステリ者五人集によるミステリ紹介企画が行われる部屋へ。予定の10時半を過ぎても主役たちが集まらないので、また執事さんや鳶迩さんと話す。執事さんが買い出しの時に買ってきた冷やしたまま飲めるオニオンスープが素晴らしい不味さだった。喉元に何か得体の知れないものがこびりついている感覚。
 やがて主役五名――楽志さんにGAKUさん、春都さんおーかわさん内藤さんがようよう集い、やや遅れ気味で企画が始まった。今邑彩、若竹七海、真保裕一、柴田よしき、中町信らの作品を採り上げて思い思いに意見を語る。真保については観客側にいたShakaさんが別の方(確認できなかった)と熱く語り、柴田さんの著作については青木みやさん、雪樹さんらが熱弁を振るう。時間配分が拙かったが、観客側に波及する議論もあった点で前回の遺恨はひとまず晴らせたという印象。楽志さんはこの辺りから既に切れつつあった。紹介本は聴衆の希望者に有料で(無論古本親切価格だ)配布される。私は時間の関係で紹介こそされなかったが内藤さんが強く薦めているというロス・トーマスの『黄昏にマックの店で』を頂戴した。
 終幕後、確かこの頃に放浪しているときに井上夢人さんと遭遇、他の方数人がサインしていただいているのに便乗して私も『オルファクトグラム』を差し出したりして。今回最初のサイン本入手と相成る。

午前11時半頃〜 ミステリ大喜利 ※この辺りからいつ何をしたかの記憶が曖昧になった

 小休止を挟み、次はGAKUさん司会、松本楽志さん、INOさん、おがわさんの三人が回答者となってのミステリ大喜利と、たかはしさん@謎宮会らが主宰し小林文庫オーナーさん、藤原義也さん、森英俊さんらが海外ミステリを紹介する企画が行われることになっており、私は何処へ行くか迷い暫し彷徨う。鳶迩さんは先のオニオンスープ片手にあちこち巡って犠牲者を増やしているらしかった。
 ゆらゆら歩き回った挙句、さっきと同じ部屋で行われる『大喜利』を覗いた。「こんなダイイング・メッセージはいやだ」「お笑いノックスの十戒」「怪盗の失敗」という三つのテーマの元に、三人がひたすらネタを飛ばし続ける。「こんなダイイング・メッセージはいやだ」はまだ余裕があったと見えて快調だったが、縛りのきつい「十戒」で雲行きが怪しくなった。詰まらないとかそういうのではなく、ネタが出てこないのが生々しく解る。「怪盗の失敗」はネタよりもおがわさんの素に近いボケと楽志さんのイラストが好評となってしまった。後者は特に女性陣に。成る程ねー、と密かに頷く。

午前1時頃〜 彷徨

 この辺から居所を定めずあちこちを放浪する。オークションは冒頭だけちょっと手を挙げたが、あまり執着はなかったためいずれも適当に諦め、落札は一冊もなし。Kashibaさんの名調子を暫し堪能したあと、階下の大広間へ。一時半から東野圭吾『秘密』に纏わるネタバレ談義が行われると言う話だったが何処でどういう形で行われるか今ひとつ解らず、その為に暫し彷徨を続けた。結局何処で行われているのかよく解らないままで、『秘密』談義には参加できず仕舞。折角予め読んでいたというのに。

午前2時頃〜 喫煙室にて

「人狼城」と名付けられた喫煙室に混ざり、気づくと岡嶋一人さんを若手七人ぐらいで追い込み続けるという状況になっている。最初はチャッピーさん、FOOLさん、執事さん、春都さん、私という面々ぐらいだったのが、松本楽志さん、市川尚吾さんひろさん、近田鳶迩さんなどが入れ替わり立ち替わり対岡嶋一人論陣に加わる。時として、喫煙に見えただけの倉阪鬼一郎さんなどもちょっと巻き込みつつ、岡嶋一人さんの孤軍奮闘が続く。
 議論の契機は、その前に岡嶋一人さんが井上夢人さんらと「図面などを用いなくては説明が出来ない本格ミステリは小説と言えるのか」といった議論を交わしていたことだったらしい。私が居場所なくふと喫煙部屋に立ち寄った頃、俄に岡嶋一人さんがそこにいた執事さんらと同様の議論をはじめ、多くが若手で本格に対して柔軟な考えを抱いていた同席者は気づくと全員が岡嶋一人さんと対峙する格好になっている。そこへ更に、何となく立ち寄った松本楽志さんや市川尚吾さんといったメンバーが加わり、チャッピーさんやFOOLさんが睡眠欲に屈して脱落しつつも大体五人から七人程度が常岡嶋一人さんを包囲し続ける状況が続いた。話題は本格ミステリに留まらず、気づけば日米の文化許容の違い、キャラ萌え系が理解できるか、そして書き手はそちらに擦り寄る必要があるのか、などなど発展というか脱線を繰り返し、時々軌道を修正してはまた混ぜっ返しというのが続き、非常に濃い議論となった。少なくとも岡嶋一人さんとは意見を異にする、という点で凶悪な一致をしつつも、それぞれに存在するスタンスの違いも透き見え、有意義な一幕であった。あまりにも話題が多岐に渉ったため、ここで詳述できるほど細部を記憶していないのが残念。

午前4時頃〜 朝市・歓談

 また放浪モード。オークション部屋の前で葉山 響さんと立ち話をする。中島みゆきとか結構極秘な話とか。私が最近書評を書いていないことも突かれた。ぼちぼち書きます気長にお待ち下さい。またあっちこっちうろついたあと、オークション終盤のやりとりを傍観し――ここでも喜国雅彦さんが奮闘されてました。オーラスの昭和七年江戸川乱歩訳(名義貸)『女怪』をこの日の最高額で落札されたらしい――、そのあと大広間を軽く片付けて開催された朝市を眺める。バーゲンのような人集りが出来てしまったため、私は一旦距離を置き、その隙に脇で浅暮三文さんや楽志さんらと歓談されていた倉阪さんにお願いして、持ってきていた『赤い額縁』にサインしていただく。プレMYSCONでもお話しする機会がなく、今回もここまでお願いしそびれていたのであった。倉阪さんとはまた別の場所でお会いできそうなのだが、……やっぱり私の金銭的な事情が……。主立ったものが売れ、人集りが少なくなった頃合いに改めて朝市に参加し、全部で三冊ほど購入。読みたかった佐々木丸美と早見裕司氏の未読長篇、それに坂田靖子の単行本(文庫化されたものを持ってはいるのだが)。
 そのあと、上階で眠っている者を除いたほぼ九割の面々が大広間のあちこちに固まって歓談。私はぼちぼち眠気が蓄積してきたのと疲れが出てきたので一人片隅に呆然と座り込んでいる。この時18禁ソフトなどについてある方とちょっとお話ししたのだが、朦朧としていたため相手の名札を確認し損なうというポカをしてしまう。多分無謀松さんだったと思うのだが本当に曖昧。申し訳ないです。
 また一人ぼーっとしていると松本楽志さんに呼ばれて、集まった某MLメンバーであれこれ話す。周辺で様々な会話が交わされて喧噪が立ちこめていて声が聞き取りにくく、眠気もあってまともに話が出来たわけではなかったが。かなり前からの顔見知りである楽志さん、GAKUさん、春都さんらの会話にだらだら頷きながら時を過ごす。

午前7時半〜 閉会式

 片付けが始まる。上で眠っている者を叩き起こし、各々荷物を携えて再び大広間に集まって閉会式へ。その前に私は例によって他の方に便乗する形で貫井徳郎さんに『妖奇切断譜』にサインを書いていただく。これでその為に持ち込んだ本全てにサインしていただいたこととなった。他にもお願いしようと思っていた方もいたのだが、本があっちこっちに分散していて用意できなかったのである。しかしこの短期間に三方に戴けただけでも満足。政宗さんは往路の電車内で読んでいたという『リサイクルビン』を挟んで米田淳一さんと懇談されていた。
 そして閉会式。まず、全体企画で行われたクイズの優勝者発表。喜国さん発案の解答のクオリティから、法水麟太郎グループが優勝となった。賞品は冒頭の対談で井上夢人さんが提供されたe-NOVELSロゴ入のWeb Money500円分が二枚、『あくむ』販促のテレフォンカード二枚、そして大森望さん訳書新刊の見本版が一冊にスタッフが仕入れてきた小物一セット。最後がはずれっぽいが。代表のGAKUさんが受け取り、最後にMYSCONの顔であるフクさんの言葉、スタッフの紹介があって漸く散会。雨模様の中、これから帰りの新幹線までまだ数時間待たねばならない政宗さんにお付き合いしようかとも思ったのだが、気力が尽きて旅館前でお暇させていただく。
 消耗も激しかったが(何せ最後の一、二時間はひたすらだらだら話すだけでしたし)、有意義な一夜でした。皆様お疲れ様。スタッフの皆様、このような場を用意していただいたことに改めて感謝します。あまりに人が多すぎて、おーかわさんとかしょーじさんとからじさんとかお話ししてみたかった方々に声をお掛けするタイミングが掴めなかったのが残念でしたが、まあ次回の楽しみにとっときます。一点だけ、これだけは気になったという不満を言わせて貰えるならば、やっぱり最後は一本締めをして欲しかったということ。きっちり括っていただきたかったな、という気持ちがあったもので。それ以外はひたすら楽しませていただきました。満悦。

 ……あ、賞品のお裾分けして貰うの忘れてた。

(2000/3/14記す)

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