cinema / 『カーズ』

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カーズ
原題:“Cars” / 監督・脚本:ジョン・ラセター / 共同監督・共同脚本:ジョー・ランフト / 製作:ダーラ・K.アンダーソン / 製作補:トム・ポーター / アニメーション監督:ジム・マーフィ、ボビー・ポテスタ / 音楽:ランディ・ニューマン / 声の出演:オーウェン・ウィルソン、ポール・ニューマン、ボニー・ハント、ラリー・ザ・ケーブル・ガイ、ジョージ・カーリン、ポール・ドゥーリィ、チーチ・マリン、ジェニファー・ルイス、トニー・シャローブ、キャサリン・ヘルモンド、グイド・カローニ、マイケル・ウォリス、リチャード・ベティ、マイケル・キートン、ジョン・ラッツェンバーガー / 声の出演(日本語吹替版):土田大、山口智充、戸田恵子、樋浦勉、浦山迅、パンツェッタ・ジローラモ、片岡富枝、麦人、池田勝、八奈見乗児、森ひろ子、立木文彦、内田直哉、岩崎ひろし、吉田仁美、赤坂泰彦、福澤朗 / ピクサー・アニメーション・フィルムズ製作 / ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ提供 / 配給:BUENA VISTA INTERNATIONAL(JAPAN)
2006年アメリカ作品 / 上映時間:2時間2分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里
2006年07月01日日本公開
公式サイト : http://www.disney.co.jp/movies/cars/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2006/07/08) ※日本語吹替版

[粗筋] ※(英語版吹替/日本語版吹替)
 ライトニング・マックイーン(オーウェン・ウィルソン/土田大)はこの日、歴史的な快挙を成し遂げようとしていた。由緒あるピストン・カップにて生きる伝説キング(リチャード・ペティ/岩崎ひろし)、実力はあるが万年2位に甘んじているチック・ヒックス(マイケル・キートン/内田直哉)と拮抗する成績を上げ、この最終戦にてトップでチェッカーフラッグを潜れば優勝というところまで漕ぎつけたのだ。
 だがこの才能に優れた新人は正確に問題を抱えており、我が儘な言動でたびたびピット・クルーと言い争いをし、チーフ不在のままレースに臨み、タイヤ交換の助言を拒んで、試合中にすべてのクルーと袂を分かつ羽目になる。更にこの判断がもとで、自らピンチを招いてしまう。どうにかギリギリでゴールしたものの、結果は史上初の三台同着。そのため一週間後、カリフォルニアで三台による優勝決定戦が開催されることになった。
 誰よりも早く現地入りすれば調整の時間がたっぷり確保できるし、大手のスポンサーにも好印象が与えられる――チック・ヒックスのそんな言葉に唆されて、マックイーンは唯一根気よく彼に付き合ってくれているトラックのマック(ジョン・ラッツェンバーガー/立木文彦)に徹夜でカリフォルニアへの道を急がせる。
 だがその道中、ひょんなことからマックのトラックは気づかぬうちにマックイーンを外に放り出してしまう。眠っていたマックイーンは寝ぼけたまま道を辿った結果、まったく見知らぬ場所へ迷い込んでしまった。スピードを出して走る彼を見咎めたシェリフ(マイケル・ウォリス/池田勝)の追跡を振り切ろうとしたマックイーンは、寂れた街のアスファルトを大破させた挙句に、結局は捕まってしまう。
 翌朝、裁判にかけられたマックイーンは、この街――ラジエーター・スプリングの古株であり裁判官を務めるドック(ポール・ニューマン/浦山迅)に追放を命じられるが、弁護士として登場したサリー(ボニー・ハント/戸田恵子)の提案によって、街のアスファルト補修をする罰を受ける羽目なる。
 先を急ぎたいマックイーンは適当に補修を済ませてしまうが、あまりの酷さにやり直しを命じられる。自分はレースカーでアスファルトの補修は専門外なんだ、と主張するマックイーンに、何とドックは「それなら自分と勝負しよう。勝ったらそのまま町を出て行って構わない」と言い出した。余裕綽々で勝負に臨んだマックイーンだったが、走り慣れないダートの急カーブにあっさりとコースアウトしてしまった。
 負けず嫌いのマックイーンは腹を括り、道路補修を再開した。同時に、丁寧に仕事をする彼にやたらと親しげに話しかけてくるクレーン車のメーター(ラリー・ザ・ケーブル・ガイ/山口智充)やタイヤ店の経営者でフェラーリ信者のルイジ(トニー・シャローブ/パンツェッタ・ジローラモ)らとの触れ合いを通して、生意気盛りのマックイーンも少しずつこの寂しくも心温まるラジエーター・スプリングという街に馴染んでいく――

[感想]
ファインディング・ニモ』『Mr.インクレディブル』の2年連続アカデミー賞長篇アニメーション部門賞獲得によって名実共に3Dアニメーションの第一人者としての地位を確立したピクサー・アニメーション・スタジオの最新作である。個人的に近年のディズニー・アニメーションはどうにも性に合わないところが多く、避けて通っていたのだが、2年半ほど前にたまたまきっかけがあって鑑賞した『ファインディング・ニモ』が予想していたよりも遥かに良心的で端整な出来だったため、ピクサー作品については偏見を失くして鑑賞するつもりでいた――が、ふたたび栄冠に輝いた『Mr.インクレディブル』はタイミングが合わずに劇場で観ることが出来ず、一作置いた本編でどうにか悔しさを払った気分である。
 既に完成型に辿り着いたという印象を与えている3DCGアニメーションだが、製作者たちにとってはまだまだ発展の余地があるのだろう、ざっと眺めた印象だけでも、『ファインディング・ニモ』以上にその映像の質は向上している。自然な背景のうえで、メタリックな登場人物(?)たちが柔軟に、しかし個性的に動き回るさまは、もはや3DCGではなく、ごく繊細に作られたストップモーション・アニメのような趣を感じさせる。そうとでも捉えなければ、あの自然な光沢の具合や滑らかな動きが再現できるとは素人目にはもはや信じられないレベルに達しているのである。
 描画の質の高さは光沢のみならず、アスファルトの質感や、錆だらけの車の生々しさにも如実だ。マックイーンのスポンサーである錆取りワックスのメーカーで開催したイベントに訪れるファンたちやメーターの錆具合は、なまじの光沢などより表現は難しいはずだが、それを違和感をいっさい齎すことなく描いているのが見事である。
 物語のほうは、実に解り易い。才能はあるがそれに溺れて独善に陥り仲間のいない主人公に開催まで間のない優勝決定戦、そんな彼が迷い込む、地図からも抹消された寂れた街――そうした設定の予備知識だけですれっからしであればひととおりの流れが予測でき、ほぼその通りに展開すると言っていい。ちょっと捻ってもいいのでは、とも思う一方で、この話の解り易さが、すべての乗物が意識を持って個人として暮らし、他方で虫まで車で表現される特異な世界観とその描写を虚心に楽しめる環境を作っている点では評価されて然るべきだと感じる。
 本編の魅力は、車の特性をちゃんと反映させたキャラクター性と、その活かし方にある。オンボロレッカー車のメーターは何処かピントがずれた言動が目立つ一方で牽引車として重宝されているし、出身がイタリアであるルイジやグイドはフェラーリ信者であるという設定が笑いを誘う。ほか、弁護士でありモーテル経営者でもあるサリーや、裁判官である一方医師でもある(つまり整備担当と言うべきか)ドックについても、それぞれの特徴に合わせた設定や物語が用意されており、その馴染みぶりが素晴らしい。物語に直接関わらない部分でも、飛行船の操縦室部分が口を利いたり、逆に廃墟に蝟集する蠅などまでが車になっているあたりの拘りが楽しい。頑是無い子供にも優しい物語作りを心懸けながら、他方で終始大人の遊び心を擽る仕掛けも多数用意しているのだ。
 結末も解り易く善良だが、それだけに留める余韻も快い。まさに子供でも大人でも楽しめる、良質のアニメーションである。

(2006/07/09)


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