cinema / 『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』

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キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
原題:“catch me if you can” / 監督:スティーヴン・スピルバーグ / 原作:フランク・W・アバグネイル with スタン・レディング『世界をだました男』(新潮文庫・刊) / 脚本:ジェフ・ネイサンソン / 製作:スティーヴン・スピルバーグ、ウォルター・F・パークス / 製作総指揮:バリー・ケンプ、ローリー・マクドナルド、ミシェル・シェーン、トニー・ロマーノ / 共同製作総指揮:ダニエル・ルピ / 撮影:ヤヌス・カミンスキー、ASC / プロダクション・デザイナー:ジャニーニ・オッペウォール / 編集:マイケル・カーン、A.C.E. / 衣装:メアリー・ゾフレス / 音楽:ジョン・ウィリアムス / 出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、クリストファー・ウォーケン、マーティン・シーン、ナタリー・バイ、エイミー・アダムス / 配給:UIP Japan
2002年アメリカ作品 / 上映時間:2時間21分 / 字幕:戸田奈津子
2003年03月21日日本公開
公式サイト : http://www.uipjapan.com/catchthem/
日劇PLEX1にて初見(2003/04/21)

[粗筋]
 彼、フランク・アバグネイルJr.(レオナルド・ディカプリオ)は生まれつきの悪党ではなかった。軍隊で功績を挙げたのち、文房具店を興してニューヨークの名士となったフランク(クリストファー・ウォーケン)の二世として何不自由なく育ち、母ポーラ(ナタリー・バイ)にも愛されていたのだから、寧ろアメリカでは幸福な部類に属するだろう。
 だがフランクの不運は16歳の誕生日を目前に突如訪れた。父の事業が脱税の疑惑を受け、事業の大半を畳み家財も没収、大きな一軒家からアパート暮らしに環境が激変した。生活の変化から鬱屈を溜めていったのか、フランクは転校先でいきなり問題を起こした。代理教師のふりをして、フランス語の講義を一週間に亘って受け持ったのだ。元々彼は父親が折節披露するハッタリを見て育っており、この時その資質が初めて開花したのかも知れない。
 間もなくフランクの両親は離婚した。傷心のあまり彼は家を飛び出し、マンハッタン行きの電車に飛び乗り独り暮らしを始めている。だが定職もない16歳の少年が楽に暮らせるはずもなく、誕生日に父から貰った小切手は限度額を超えて不渡りを出すようになってしまった。自分の若さが信用されない原因だと気づいたフランクは小切手や免許証の生年月日に手を加えて10年サバを読むことを覚えたが、決して充分ではない。
 そんなある日、フランクは町中で通りすがりの子供にサインをねだられるパイロットの姿を目撃した。凛々しく誰からも憧れられるその姿に惹かれた彼は、その日から工作を開始する。学生新聞の徹底取材と称してひとりのパイロットに取り入り、その日常業務や生活ぶりについて微に入り細を穿つように話を聞き、一方パンナム航空の制服も入手すると、様々なフライトに同乗して各地を飛び回り、またパイロットとしての権益を存分に行使し、遠隔地取引のメカニズムを利用した巧みな偽造小切手で多額の現金を引き出し続けた。
 やがてこの大規模な小切手詐欺はFBIの知るところとなり、銀行詐欺専門の私カール・ハンラティ(トム・ハンクス)を筆頭とする専従捜査官がつけられることとなった。私は小切手の発行された場所を辿り、ハリウッドにあるモーテルにたどり着いた。それは偽造小切手を預かるだけの、捜査過程の一端に過ぎない仕事のはずだったが、カウンターの人間が「当人がまだ泊まっている」と告げたために、私達は急遽現場への突入を試みる。
 だが、現場に踏み込んだ際、その場にいたフランクは機転を利かせ、秘密検察局の捜査官バリー・アレンを名乗った。同じく彼を追っていた別組織を装い、証拠品を押収すると弁解して機材の一部を抱えて走り去った――私が彼から預かった財布には身分証明書はおろか現金、カードの類も一切残っていないと気づいて窓から外を見たときには、フランクは車に乗って逃走している真っ最中だった……
 この屈辱が私の闘志に火を点けた。これ以上赤っ恥をかくようなマネは避けろ、と上司に諭されながらも、私はフランクの起こした詐欺事件に執心する。こうして、以後数年間に亘る私と彼の「追いかけっこ」は幕を開けた。

[感想]
 あまりに気持ちのいい話だったので、思わず遊んでみました。
 元になっている実話そのものが古いせいもあって、偽造をはじめとする詐欺や騙しの手口に新味はない。また、主人公フランクもそれを追う捜査官カールも、人物像は類型的で突出した印象を残さず、いまいちインパクトに欠けるきらいがある。人物という点では、駄目親父を憎めない演技で表現しきったクリストファー・ウォーケンがひとり際立っていた。
 が、変に凝りまくった詐欺や事件を盛り込まなかった分、心理の変遷は明確になっているし話もすっきりしている。何より、全体に明るく装飾的な雰囲気なのに、行動や事件には(現実に基づいて創作したにしても)リアリティがきっちりと加味されているのだ。また、フランクの本質的な子供っぽさを、初期の小切手偽造に模型のロゴを用いたり、偽名としてコミックのヒーローの名前を採用したり、クリスマス・イヴに孤独に苛まれてカールの元に電話をかけるといった形で表現してみせる一方で、カールの私生活は極力伏せて描いているあたりの匙加減は非常に巧い。ドライにもウエットにもならない段階で押し留め、単純な実話のドラマ化というイメージに収まらず、コメディチックな雰囲気を盛り上げているのだ。
 宣伝文句のような「コメディ」として成功しているかどうかは甚だ疑問だが、血を見せることなく誰も必要以上に傷付かないような描き方を選ぶように心懸け、犯罪を扱った映画としてはかなり特異な余韻を残す作品に仕上げている。ビッグネームが多数関わり、ロケ地や映像への拘りなど贅沢さを見せつけながらも、トータルでは小劇場にかかる佳品を思わせる、何とも不思議な一本。二時間半の尺がちょっと微妙だが、暇の折りに見るには最適でしょう。60年代アメリカのオールドファッションな雰囲気を堪能して快い気分に浸るのもまた良し。
 ちなみに本編のモデルとなったフランク・W・アバグネイルは、今も健在だそうだ。一番笑えるのは、テロップのみで語られるその後の成り行きかも知れない。

 ……ところで、本編には『デアデビル』のエレクトラ役で気を吐いたジェニファー・ガーナーが出演している、と予め聞いていた。あちらのプログラムには随分と大きな扱いをされていたような書き方がされていたし、本編のプログラムでもプロフィールと写真入りで紹介されていたので、どんだけ活躍するのかと期待していたら。
 フランクに騙される高級娼婦役でワンシーン出ているだけでやんの。しかもそこだけで以後出番なし。フランクの子供っぽさをさりげなく表現している点で意義のあるシーンではあるのだが、普通の感覚だとカットの一番候補とゆー気がしたのでありました。

(2003/04/21)


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