cinema / 『デスペラード』

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デスペラード
原題:“Desperado” / 監督・脚本・撮影・編集:ロバート・ロドリゲス / 製作:ビル・ボーデン、ロバート・ロドリゲス / 製作補:エリザベス・アベラン、カルロス・ガラルド / 撮影:ギレルモ・ナヴァロ / 美術:フェリペ・フェルナンデス・デル・パソ / 衣装デザイン:グラシエラ・マゾン / プロダクション・デザイン:セシリア・モンティール / 音楽:ロス・ロボス / 出演:アントニオ・バンデラス、サルマ・ハエック、ホアキン・デ・アルメイダ、チーチ・マリン、スティーヴ・ブシェミ、カルロス・ゴメス、クエンティン・タランティーノ / 配給:コロンビア トライスター映画 / DVD発売元:Sony Pictures
1995年アメリカ作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本版字幕:菊地浩司
1997年05月21日DVD版日本発売(2004/02/25最新版) [amazon]
DVDにて初見(2004/03/04)

[粗筋]
 バーに現れた男(スティーヴ・ブシェミ)は、店に集まったごろつきどもにある男の話を聞かせた。別のとある店に忽然と現れたその男は、恋人のようにギターケースを隣の座席に置くと、バーテンに何者かの所在を訊ね、色めき立った店の用心棒たちをたったひとりで一掃してしまった、という。話を聞いていたバーテン(チーチ・マリン)たちは、特に気にも留めなかったが、やがてその店にギターを提げたマリアッチ(アントニオ・バンデラス)が訪れた。
 ただの流しの歌手だ、と言いつくろうマリアッチだが、バーテンたちは信用せずにギターケースを開けた。そのなかには、大量の銃器。バーを舞台に壮絶な銃撃戦が始まった。乗り気でないまま戦いに応じたマリアッチはけっきょく店内の人間を一掃してしまい、目的を果たせない苛立ちをメモに残して立ち去る。だが、店の奥でただひとり生き残っていた男がゆっくりと彼の背後から忍び寄り、拳銃を向けた。ちょうど向かいから歩いてきた女性の表情でその気配を察知し、すんでのところで返り討ちにするが、右腕に銃弾を受けたマリアッチはその場で昏倒する。
 目醒めたとき、マリアッチはその女性――カロリーナ(サルマ・ハエック)の経営する書店のカウンターに寝かされて、手当を受けていた。マリアッチは一部で伝説視されているガンマンであり、彼がこの町を訪れた目的が麻薬を売りさばき町を牛耳るギャングのボス・ブチョ(ホアキン・デ・アルメイダ)を始末することにあると気づいていたカロリーナだったが、危険なところを助けてくれた彼に手当を施し、教会に向かうというマリアッチの荷物を預かることを承諾した。
 教会の告解室で、あのバーでメキシコ人の暴虐を語った男――実はマリアッチの友人であるブシェミと落ち合い、ブチョ殺害への協力を求めるマリアッチだったが、もうこれ以上の流血沙汰は懲り懲りだ、と断られる。なおもマリアッチが懇願していると、その背後から飛んできたナイフがブシェミの息の根を止めた。ブチョの顧客が寄越した刺客が、いつの間にかマリアッチに迫っていたのである……

[感想]
 用意していた撮影用の銃弾8000発が、撮影終了時には無くなっていた、という事実が如実に本編の性格を示している。
 必然性があるのかとか、社会的道義的にどうなのか、という問題などまるっきり無視して、ひたすらに銃弾が乱れ飛ぶ。冒頭、芸名同様にブシェミと名乗る男が回想の形で語るバーでの殺戮に、直後本物のマリアッチが現れての銃撃戦、完全防弾仕様のリムジンを軸にした戦い――などなど、挙げていくだけでも眩暈がしそうなほどアクション・シーンずくめだ。
 これらの戦闘シーンには、その他のアクション映画にはない独特の味わいがある。銃弾が乱れ飛びながらあまり当たっていないのはアクション・ヒーローものの常套だが、特徴的なのはその随所にカートリッジを取り替える場面がちゃんと挿入されていること。撃ち続ければちゃんと弾切れになる、という当たり前のことを描くと共に、時として単調な戦闘シーンに緩急を齎し、また戦闘シーン以外のところに緊迫感を与える要素としても活用している。足の力だけで敵を高く跳ね飛ばしたり、後ろ向きでビルからビルに飛び移りつつ背後に迫る敵に銃弾を浴びせたり、クライマックスにて用いられる銃器仕込みのギターケースから薬莢が排出されていたり――とどこか漫画チックなから詩的な美しささえ感じさせる構成といい、この監督独自の感性が光る一連のアクション・シーンこそ本編の魅力と言えよう。
 同時に、『エル・マリアッチ』で見せた、観客の予測の裏から裏へとくぐり抜けていくストーリー展開も健在だ。もっと重要な働きをしても良さそうなスティーヴ・ブシェミやクエンティン・タランティーノをあっさりと殺してしまうあたりとか、ロマンスや新しい展開のきっかけを実にさりげないところに伏線として用意しているあたり、そしてクライマックスで登場するマリアッチの仲間たちのあまりに意表を衝いた設定と、その顛末。ガン・アクションもののみならず、ハリウッド映画の常套そのものを嘲笑してなおかつ楽しませる展開の巧さは、ウェスタン映画の模倣という位置づけから本編を大幅に突出させている。
 どこかでバカバカしい、と感じても、そのバカバカしさだけでも存分に楽しめてしまう。デビュー作『エル・マリアッチ』の精神の延長上にあって、その意図を心ゆくまで膨らませた、ただただ楽しい映画。本編製作中から既に盟友タランティーノ監督から示唆されていたという続編『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』も非常に楽しみになってきました。

 ちなみに、初代マリアッチことカルロス・ガラルドは製作補のついでにマリアッチの友人カンパとしてちゃんとスクリーンに登場してました。冒頭、アントニオ・バンデラスのバックでギターをかき鳴らし歌っていたかと思えば……ま、あとは観てのお楽しみ。最新作『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』では同じく本編の製作補を手がけ、私生活ではロドリゲス監督の妻でもあるエリザベス・アベラン共々製作に昇進してます。ロドリゲス監督自身も、本編同様の脚本・製作・撮影から更には音楽・美術ほかまで手がけてしまう活躍ぶり――これは本当にハリウッド映画なのか。身内中心にひたすら楽しんで作ろうとしている雰囲気がありありで、だからこそ余計に期待が高まります。

(2004/03/05)


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