cinema / 『ゾンビ [米国劇場公開版]』

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ゾンビ [米国劇場公開版]
原題:“Dawn of the Dead” / 監督・脚本・編集:ジョージ・A・ロメロ / 脚本監修:ダリオ・アルジェント / 製作:リチャード・P・ルービンスタイン、クラウディオ・アルジェント、アルフレッド・クォモ / 共同製作:ドナ・シーガル / 撮影:マイケル・ゴーニック / 舞台装飾:ジョシー・カルーソ、バーバラ・リフシャー / 衣装:ジョシー・カルーソ / 特殊メイク:トム・サヴィーニ / 音楽:ゴブリン、ダリオ・アルジェント / 出演:デヴィッド・エンゲ、ケン・フォーリー、スコット・H・ラインガー、ゲイラン・ロス、デヴィッド・クロフォード、デヴィッド・アーリー、リチャード・フランス、ハワード・スミス、トム・サヴィーニ / DVD発売:Happinet Pictures
1978年アメリカ・イタリア合作 / 上映時間:2時間7分 / 日本語字幕:不明
2004年07月23日DVD日本盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2005/09/01)

[粗筋]
 もう世界はそれによってあらかた侵蝕されていた。死者は蘇り、生者の肉を貪り、食われて死んだものはやがて甦ってそれらの仲間入りを果たし……連鎖によって生者は住むべき場所を追われつつあった。
 テレビ局職員のスティーブン(デヴィッド・エンゲ)は、生き残りのためになおもスタジオで情報を流しつづけているテレビ局に見切りをつけ、恋人のフラン(ゲイラン・ロス)に友人のロジャー(スコット・H・ラインガー)、そしてロジャーと共にSWATに勤めていたピーター(ケン・フォーリー)の三名を乗せてヘリを飛ばし、脱出した。
 森を埋め尽くす死者の群れ、それを狩るという屈折した娯楽に興じる生き残りの姿を見下ろしながら、やがて彼らは巨大なショッピングセンターを発見する。生きていた頃の習慣に従って動く死者達は既にセンターのあちこちに潜りこんでいたが、ピーターとロジャーとが中心となって死者を駆逐し、四人は少しずつ安心して過ごせる空間を広げていく。
 やがてピーター、ロジャーとスティーブンは、ショッピングセンターのなかだけでも彼らにとってのオアシスにしようと、出入り口を完全に封鎖し内部に残った連中を掃討する作戦に打って出る。
 ヘリと近場に放置されていたトラックを利用した計画はうまく運ぶかに見えた。だが、遂行途中でロジャーが連中に噛みつかれてしまう。無事封鎖には成功したが、ロジャーは目に見えて衰弱していった……

[感想]
 昨年公開された『ドーン・オブ・ザ・デッド』のオリジナルであり、ゾンビ映画の第一人者と言われるジョージ・A・ロメロ監督の代表作である。ダリオ・アルジェント監修のもの、冗談半分で製作したというディレクターズ・カット版、更に無数のカットを継ぎ足したファイナル・カット版なるものなど複数の別編集版が存在するが、リメイク版の公開から間もなくDVDが発売された米国劇場公開版で鑑賞した。現在、最も手に入りやすいヴァージョンでもある。
 リメイク版は基本を敷衍しながらハリウッド王道の物語をもなぞり、その上で更に珍しいタイプの結末へと着地させたという意味で価値のある作品だったが、こうして観るとテーマの深さ、心理描写の巧みさ、そしてその不気味さ・残酷さにおいてやはりオリジナルのほうが秀でている。
 物語が始まった時点で世界は既に混乱のさなかにあり、略奪や紛争、人間同士の諍いで死者達に利してしまうという悪循環を繰り返している。識者がテレビカメラの前で親しいものであっても死んだあとは化物に組み入れられると断じ、同時に生者同士の諍いで化物たちに利益を与えるような真似は止めよう、と訴えても、状況は悪い方へ悪い方へと転がっていく。そんななかで物語の中心となる四人はどうにか自分たちだけでも生き延びるための場所を築こうと試みるが、これもやがて生きている者によって蹂躙されるのである。
 生きている者の欲望と業の深さを描いた一連のシークエンスは、この時点で既に後続作品で描かれる要素をあらかた先取りしている。ゾンビそのものではないが間違いなくゾンビ映画であるアート系ホラーの傑作『28日後...』にしても、本編のテーマを掘り下げているに過ぎない、とさえ言える(あの作品は映像美と、掘り下げ方の巧さによってやはり一時代を画す傑作であることに違いないのだが)。
 説明臭さを廃し、時としてシュール極まる映像を挿入したユーモア感覚が独特だが、死角からの登場や大きな音による虚仮威しを用いず、迫り来る恐怖を演出した手管は並大抵ではない。そのうえ訪れるクライマックスのなんと絶妙なことか。カタルシスを演出しながらも、その向こうにまるで窺えない希望に、観客は慄然とする。
 頭から尻尾まで実の詰まった、原点にして既にほぼ完璧に近い傑作。日本でも先日公開されたばかりのジョージ・A・ロメロ最新作『ランド・オブ・ザ・デッド』の予習のつもりで鑑賞したのだが、これのあとじゃ霞まないかと却って不安になるぐらいだ。

(2005/09/01)


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