cinema / 『ドーン・オブ・ザ・デッド』

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ドーン・オブ・ザ・デッド
原題:“Dawn of the Dead” / 原作:ジョージ・A・ロメロ / 監督:ザック・スナイダー / 脚本:ジェイムズ・ガン / 製作:リチャード・P・ルビンスタイン、マーク・エイブラハム、エリック・ニューマン / 製作総指揮:トーマス・A・ブリス / 撮影監督:マシュー・F・レオネッティ,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:アンドリュー・ネスコロムニー / 編集:ニーヴン・ハウィー / 共同製作:マイケル・メッシーナ / 音楽スーパーバイザー:G,マーク・ロズウェル / 音楽:タイラー・ベイツ / 特殊メイク:デヴィッド・リロイ・アンダーソン / 衣装:デニーズ・クローネンバーグ / 出演:サラ・ポーリー、ヴィング・レイムス、ジェイク・ウェバー、メキー・ファイファー、タイ・バレール、ケヴィン・ゼガーズ、マイケル・ケリー、マイケル・バリー、リンディ・ブース、ジェイン・イーストウッド、ボイド・バンクス、インナ・コロブキナ、R.D.リード、キム・ポワリエ、マット・フレワー、ジャスティン・ルイス、ハンナ・ロックナー、ブルース・ボーン、ブル / ストライク・エンターテイメント&ニュー・アムステルダム・エンターテイメント製作 / 配給:東宝東和
2004年作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:岡田壯平
2004年05月15日日本公開
公式サイト : http://dotd.eigafan.com/
池袋HUMAXシネマズ4にて初見(2004/06/12)

[粗筋]
 兆候は確かに彼女の前に現れていた。患部とは関係のない頭部のレントゲンを撮るよう指示された患者、立て続けに運び込まれる急患……それでも夜勤明けに超過勤務を課せられていた看護師のアナ(サラ・ポーリー)は、ラジオから流れる不穏な報道を気に留めることなく家に帰り、夫のルイス(ジャスティン・ルイス)と甘いひとときを過ごす。
 翌朝早朝、突然悪夢は始まった。隣に住む少女ヴィヴィアン(ハンナ・ロックナー)が傷だらけの姿で寝室に現れたかと思うと、ルイスの喉元に噛みつく。出血多量で死んだはずの彼だったが、アナの目の前ですぐさま蘇ると、彼女に襲いかかった。命からがら脱出したアナだったが、そこで更に衝撃的なものを目の当たりにする。昨日まで平穏だった街は、車が暴走し不気味な光を目に宿した人々が疾走し、住人同士が殺し合う地獄に変容していた。
 車で脱出し、安全な場所を目指すアナだったが、行けども行けども遭遇するのは獣と化した人々が泣き叫ぶ人々を襲う凄惨な光景ばかり。アナは車を横取りしようとした人物から逃れようとして運転を誤り、崖下に転落して意識を失う。
 目醒めて、大破した車から脱出した彼女は、ライフルを手にした警察官・ケネス(ヴィング・レイムス)と出会った。避難場所に指定されたというパスター基地を目指して移動しているというケネスに同行すると、間もなくもう一組の生存者と遭遇する。マイケル(ジェイク・ウェバー)にアンドレ(メキー・ファイファー)と妊娠中のルダ(インナ・コロブキナ)夫婦もまたパスター基地を目指していたが、途中“奴ら”が大挙している場所があったために引き返してきたのだといい、アナたちも彼らと同道して、ショッピングモールに向かった。
 内部に残っていた“奴ら”をどうにか倒し、二階へ逃れたアナたちだったが、エレベーターが開いた彼女たちを迎えたのは、三つの銃口だった。警備員のCJ(マイケル・ケリー)は外部からやって来たアナたちを信用せず、そのまま追い出そうとする。アナの必死の説得でどうにか滞在は許されたが、拳銃を奪われテナントのひとつに閉じこめられ、著しく行動を制約されてしまった。
 テレビでは狂乱に陥った各地の状況を報じ、無事な人間はパスター基地に集まるよう訴え続けている。ときおり聞こえてくるヘリの音に、アナは屋上に助けを求めるサインを記してはどうか、と提案し、CJらも渋々ながら同意を示した。だが、間もなくやって来た軍用機はサインを無視して立ち去ってしまう。代わりにモールの外には、生ける屍と化した人々が次々に集まりつつあった。
 ある日、モールの付近に一台のトラックが出没する。ゾンビたちを跳ね飛ばし、拳銃で必死に応戦する彼らを見ても、CJは助けようとしない。アナたちは反発し、新米警備員テリー(ケヴィン・ゼガーズ)の寝返りもあって遂に形勢は逆転、アナたちはトラックで避難してきた人々を受け入れる。重傷者含め八人の新たな仲間たちは、だが同時に最悪の報せをも携えていた。パスター基地はとうに壊滅したというのである……

[感想]
バイオハザード』と『28日後...』を足して二で割りました、みたいな。否定的な意味合いではなく、いい形で融合している。
 物語は予兆をことこまかに描くような真似はせず、ヒロインであるアナの日常生活をほんの少し描写すると、ある朝から突如世界が裏返ったかのように阿鼻叫喚の光景が眼前に繰り広げられ、事態を十全に把握できぬまま逃走を始めねばならなくなる。以後、“生ける屍”とのほとんど息をつかせぬ戦いが繰り広げられ、その緊張感と恐怖感はただごとではない。
 序盤の行動心理の描き方に異存はないのだが、後半、ショッピングモールからの脱出とそれにまつわるドラマが焦点となるあたりからの描写には色々と疑問の余地があったように思う。こと、前半では身勝手な行動で反感を買っていたある登場人物が、終盤ゾンビの大群との戦闘になるとにわかに勇敢な戦士のように変貌してしまう。変節に至る経緯がもう少し描かれていれば兎も角、あまりにいきなりキャラクターが変わっているように見えて、違和感を禁じ得なかった。
 もうひとつ、恐怖や脅かしの演出が少々ありきたりで、主人公たちが(登場人物が多いにも拘わらず)きっちり描写されている故に、アクション場面では感情移入から生じる恐怖感があるものの、次第次第にアクションの派手さが目立ち、怪奇現象やそれに対する恐れそのものは薄らいでしまったのが残念だった。前述の『28日後...』はそこで無事な人々のなかに生じる確執や愛憎を主軸にすることで回避しながらテーマ性を深めているが、本編は素直に人間対ゾンビの構図に囚われてしまったがため、ドラマ部分がかなり軽くなってしまった印象は否めない。
 しかし、目につく極端な欠点はその程度で、全体は実に良く計算され、中盤に息抜きの場面を入れたり憎まれ役を随所に配置したりという娯楽映画の常道を踏まえながらも、決して安易にめでたしめでたしとしない気概もある。如何にもCM出身らしいキャッチーな画面構成や編集手法を鏤めながら、それが過剰な主張をせず物語に溶け込んでいる点にも好感を持った。
 ホラーの歴史を変える傑作、とまでは言わないが、旧作を敷衍しながら自らの映像哲学もきちんと形にし、ハリウッドの常套をなぞりつつも微妙に異なったスタンスも示した本編、確かに存在意義がある。

 本編を観ていて感じたのは、先に公開された『テキサス・チェーンソー』との共通点の多さ。いずれも往年の名作ホラーのリメイクで、しかも両方とも原作は低予算で作られている。リメイクにあたって起用された監督はいずれもCM業界での活躍が認められて、当該作で長篇映画デビューを飾っている。そのために、ヴィジュアルセンスは非常に洗練されているが、人間描写に欠点がある……更には、上映時間までほぼ同じ。
 その理由についてよくよく検証してみると、結果的にアメリカの映画界が抱える人材の硬直化とテーマの払底、という問題が如実に反映されているように感じる。ホラー者としては、リメイク熱がそのまま新作登場への機運に繋がったり、リメイクによって旧作にも目が向けられDVDソフト化が進んだり、という影響が予測されるため喜ばしいことなのだけれど、どれほど興収が良くとも、こうも似たような企画ばかりが登場するのは映画業界全体にとってはあんまり望ましいことではないような。
 日本の『リング』『呪怨』のリメイクはそれぞれオリジナルの監督が登板することとなり、若干ながら事情が異なるが、トム・クルーズがリメイク権を獲得した『the EYE』は、スピルバーグが製作するという『箪笥』(オリジナル版は07/24日本公開)はどうなるのか? 期待も少なからずあれど、不安もまた山積のホラー映画業界なのでした。

(2004/06/12)


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