/ 『テキサス・チェーンソー』
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『light as a feather』トップページに戻るテキサス・チェーンソー
原題:“TEXAS CHAINSAW MASSACRE” / 原作脚本:キム・ヘンケル、トビー・フーパー『悪魔のいけにえ』 / 監督:マーカス・ニスペル / 製作:マイケル・ベイ、マイク・フレイス / 製作総指揮:アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラー、テッド・フィールド / 脚本:スコット・コーサー / 撮影:ダニエル・パール / 衣装:ボビー・マニックス / 美術:グレゴリー・ブレア / 特殊メイク:スコット・ストッダート / 特殊効果コーディネーター:ロッキー・ゲール / 編集:グレン・スキャントルベリー / 音楽:スティーヴ・ジャブロンスキー / 出演:ジェシカ・ビール、ジョナサン・タッカー、エリカ・リーアセン、マイク・ヴォーゲル、エリック・バルフォー、デヴィッド・ドーフマン、R・リー・アーメイ、ローレン・ジャーマン、アンドリュー・ブリニアースキー、テレンス・エヴァンス、マリエッタ・マリク、ヘザー・カフカ / 配給:日本ヘラルド
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:牧野琴子
2004年03月20日日本公開
公式サイト : http://www.horror-house.jp/movie/texas_chainsaw/
池袋HUMAXシネマズ4にて初見(2004/03/20)[粗筋]
1973年8月18日。五人の若者はワゴン車を走らせて、メキシコまでの旅から帰る途中だった。ただのヴァケーションのつもりだったエリン(ジェシカ・ビール)だが、モーガン(ジョナサン・タッカー)がうっかり漏らした「マリファナ1キロ」という言葉に愕然とする。エリンの恋人ケンパー(エリック・バルフォー)は結婚資金稼ぎと称して、現地でマリファナを調達していたのだった。アンディが懸命になだめて、どうにかふたりが和解しようとしたその時、道の真ん中をぼんやりと歩く女(ローレン・ジャーマン)を轢きそうになって、ワゴンは急停車する。
その女の様子は明らかにおかしかった。轢かれそうになったことも意識せず、「助けて」と小声で呟きながら歩き続ける彼女を、エリンは病院まで連れて行こうと提案する。車に乗ったあとも挙動不審な彼女を、後部座席のモーガン、アンディ(マイク・ヴォーゲル)、ペッパー(エリカ・リーアセン)の三人は遠巻きに眺めていた。
しかし、道路脇にある看板を目にすると、彼女は狂ったように「あそこへ戻らないで」と叫びはじめた。異様な雰囲気に車を止めると、あろうことか彼女は、股間に潜めていた拳銃をくわえて、引き金を引いた。
どうにか僅かながら平静を取り戻した一同は、警察に通報するために近くにあったガソリンスタンドを訪ねた。不潔な店内と店主らしき老婆の横柄な態度に閉口しながら、丁重に頼んで警察に連絡してもらうが、返ってきた言葉は「そのまま製粉所まで行け」という奇妙なものだった。指示とあっては拒むことも出来ず、屍体を載せたまま製粉所まで移動したエリンたちだったが、製粉所はもぬけの殻、保安官の姿などどこにも見当たらず、変わりにいたのはジェディディア(デヴィッド・ドーフマン)と名乗る、挙措のおかしな少年だけ。
ジェディディアの話で、森を抜けた先に人家があると解ったエリンは、ケンパーとともにその家を訪ねる。軒先で凶暴な犬を膝に載せ、車椅子で寛いでいた老人に請うと、偏屈そうな老人はエリンひとりだけ中に招じ入れて電話をかけることを許した。改めて保安官事務所に通報し、三十分程度で到着するという返事を受け取ったエリンが出ていこうとすると、ユニットバスで転倒した老人に助けを求められ、彼女は奥に進んでいった。
なかなかエリンが戻らないことに痺れを切らしたケンパーは、勝手に邸内に侵入して様子を窺う。豚は放し飼いにされ、なにやら乾いた肉のようなものが無数に吊され、冷蔵庫の中には腐臭が立ちこめ……そしてケンパーは突如背後からハンマーのようなもので殴打され、何者かに奥へと引きずられていった……
一方、製粉所で待つ三人のもとに、ようやく保安官(R・リー・アーメイ)が現れた。安堵するモーガンたちだったが、保安官の言動はひどく粗雑で、これといった現場検証を行いもせず、モーガンとアンディに手伝わせて屍体をラップで包み、パトカーのトランクに入れさせると、そのまま走り去ってしまった。途方に暮れる三人のもとへ、エリンがひとりで戻ってくる。
エリンは物音に気づいて、ケンパーを探しに出たが、屋敷の付近で発見することが出来ずにワゴン車で待つ仲間たちのところまで引き返してきたのだ。モーガンはもう帰ろう、と提案するが、エリンは恋人を探すことに固執し、アンディと共にふたたび屋敷へと向かう。エリンが老人の注意を逸らしているあいだに邸内に潜り込んだアンディだったが、大きな物音を立ててしまった。激昂した老人は杖で床を叩き、それを呼んだ――その男は、チェーンソーを掲げて飛び出してきたかと思うと、猛然とエリンたちに襲いかかった……![感想]
格別可もなく不可もなく。
そもそも原作が古典的名作しているのだから、若干現代的な解釈を導入する程度に留めれば、一定レベルの完成度は保証されているようなものだ。そこへ、ミュージック・クリップの演出などでキャリアを重ねてきた監督をあてがえば、スタイリッシュだが迫力に満ちた映像になるのも道理と言える。
実はオリジナルである『悪魔のいけにえ』をしっかり鑑賞したわけではない(或いは昔過ぎて記憶していない)ので、比較したうえで断言できないのが我ながらもどかしいが、本編に関してのみ言えば、起きている出来事の凄惨さのわりには中盤から後半にかけてインパクトに乏しかった。序盤、不可解かつ理不尽な出来事ばかり起きている時点はまだ内在する怖さというものが感じられるのだけど、具体的なかたちで“敵”が登場すると途端に演出の拙さが露見する。“敵”の所在を半端なタイミングで観客に知らせてしまうので、「どこから飛び出してくるのか解らない」類の恐怖がない。敵の所在が解っているならばあとは間の取り方が鍵となるのだが、それもいまいち手際が悪く、効果を発揮していない。
とは言え、それこそ戦慄するような恐怖、というところまで望まなければ、かなり優秀な仕上がりだと思う。冒頭、ドキュメンタリー風のナレーションと現場の撮影記録という設定でのモノクロフィルムを利用した演出から、いかにも南部の雰囲気を漂わせる茶色く焦げた印象の画面、屋敷内部などの陰影を効果的に用いた映像、無理のない主人公たちの人間造型。若者たちを演じる役者はほとんど最近名を売るようになった新人のようだが、それ故に余計な先入観を抱かずに済むこともまた作品にプラスとなっている。何より、冒頭から巧いペースで恐怖やサスペンスを織り込んでいるので、展開が非常にテンポ良く、観ているあいだ飽きる暇がない。ミュージック・クリップ出身の監督によく見られる傾向が、本編にも認められるのだ。
被害者となる若者五人組の内面が見えてこないために、もうひとつ感情移入できなかったのが惜しいが、全体としては“良質”なスプラッタ・ホラーだろう。こういう類の映画はやりすぎたためにコメディ的な印象を与えたり(どうしてわざわざ危険な方に近づいていくのか、の類)、空回りする部分が多くなったりするのだが、そういう意味での問題は少なかった。だが、それ故に、題材の強烈さに反して、これといって惹きつけられるものがない――という困った欠点をも抱えてしまった、という気がした。死者の顔の皮を剥いでマスクにしたり、生きたまま鉤爪に刺して吊したり、個々の描写を抜き出すと凄いのに、どーもそれ以上に訴えてくるものがない……
……但し、これはわたしが最近ホラーを観る機会が増えてすっっかりすれてしまった愚か者だからかも知れません。不慣れな方は否定的見解のあたりを大幅に差し引いてね。ところでこの作品、某所にて「いいところの手前」だけ先に観た。そのときから思っていたことだが、カメラワークが非常にトリッキーで、巧い。冒頭、拾った女が車内で自殺するシーンでは、女の体に開いた穴からカメラが後退し、車の後部ガラスからも抜けて外に出て行き、最後にはロングショットでパニックに陥る若者たちを撮す、という異常な技をやってのける。これ、やはりミュージック・クリップ出身のデヴィッド・フィンチャー監督も『ファイト・クラブ』や『パニック・ルーム』で取り入れている手法だが、あの辺の人はこういう演出が好きなんでしょうか。
ちなみに本編においては、針の穴を抜けるようなトリッキーな映像はここぐらいだが、後半では目立たない形で色々と小技を駆使している印象がある。その辺に注目して鑑賞するのもまた一興ではないだろうか――但し、繰り返しになりますが、こーいう見方は慣れてからにしましょうね。(2004/03/20)