/ 『ミニミニ大作戦』
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『light as a feather』トップページに戻るミニミニ大作戦
原題:“The Italian Job” / 監督:F・ゲイリー・グレイ / 脚本:ニール・バーヴィス、ロバート・ウェイド、ドナ&ウェイン・パワーズ / 製作:ドナルド・デ・ライン / 製作総指揮:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー / 撮影監督:ウォーリー・フィスター / プロダクション・デザイン:チャールズ・ウッド / 編集:リチャード・フランシス=ブルース / 衣裳デザイン:マーク・ブリッジズ / 第二班監督:アレクサンダー・B・ウィット / 音楽:ジョン・パウエル / 出演:マーク・ウォルバーグ、シャーリズ・セロン、エドワード・ノートン、セス・グリーン、ジェイソン・ステイサム、モス・デフ、フランキー・G、ドナルド・サザーランド / 配給:日本ヘラルド
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間51分 / 字幕:戸田奈津子
2003年06月21日日本公開
公式サイト : http://www.minimini-jp.com/
日比谷スカラ座1にて初見(2003/07/01)[粗筋]
早朝、まだベッドの中で微睡んでいたステラ(シャーリズ・セロン)を目醒めさせたのは、父・ジョン(ドナルド・サザーランド)からの電話だった。仮釈放中のはずの父がいたのは、イタリアはベニス――ここで最後のヤマを片づける。それが、彼女が聞いた父の最後の言葉だった。
ジョンにとって息子同様の一番弟子チャーリー・クローカー(マーク・ウォルバーグ)の仕切りにより、ベニスの地の利を活用した金塊強奪計画は極めてスムーズに進行し、遺漏なく達成された――だが、奪った金塊を拠点から移動しようとしていた矢先、チャーリーに続く腹心スティーヴ・フレゼリ(エドワード・ノートン)が裏切った。チャーリーの機転で大半のメンバーは難を免れたが、金塊は奪われ、ジョンはスティーヴの銃撃によって命を落としてしまう。
それから一年後。フィラデルフィアに拠点を構え、父譲りの金庫破りのスキルを合法的に活用していたステラの元に、チャーリーが姿を見せた。彼はスティーヴの所在を突き止めたといい、復讐も兼ねてあの男から金塊を奪い返すのを手伝って欲しい、と請う。最初は断ったステラだったが、犯罪者とはいえ愛する父を奪われた悔しさは確かにある。その日の夜、ステラは協力を決めた。
金塊奪還のためにチャーリーが呼び寄せたのは、イタリアでの大仕事と同じ、つまりジョンと信頼関係を築き、彼を裏切ったスティーヴに憎しみを抱く男達。著名なプログラム“ナップスター”は元々自分が開発したと言って憚らないコンピューターマニアのライル(セス・グリーン)。初めて購入した車で警察とのカーチェイスを繰り広げ、その際の活躍で女性を魅了し刑務所に百通のファンレターが届いたという伝説を持つ運転の達人ハンサム・ロブ(ジェイソン・ステイサム)。小学校時代に初めての爆弾をトイレの中で試用し、そのときの衝撃で右耳の鼓膜が破れたままというレフト・イヤ(モス・デフ)。チャーリー以外の面々は、あくまで堅気として金庫破りを行っていたステラの技術に一抹の不安を抱いていたが、チャーリーはそこを推して計画への着手を宣言する。舞台は、ハリウッド。
だが、状況は芳しくなかった。ジョンに「想像力に欠ける」と評されたスティーヴだったが、稼ぎにものをいわせた豪邸の警備体制は万全、金塊の輸送のために列車を使う手筈だったが、そこまでの道程は慢性的な渋滞に阻まれ、最悪50分を要する。この悪条件を解消するために、チャーリーたちが目をつけたのは――ステラの愛車、ミニクーパーだった。[感想]
確かにミニクーパーがアンサンブル・キャストの一画に連なっておかしくない活躍ぶりであり、見た人間にはまあ頷ける(というか許容できる)題名なのだが、それでも損がしているように思えてならない。そのくらい考え抜かれ、堅実な仕上がりを示した犯罪映画である。
冒頭、何の予告もなくいきなり犯罪計画に突入し、発想鮮やかな金庫破りと、ヴェニスという舞台ならではのヨットによる逃走劇が展開し、あっと言う間に引き込まれる。そのあと、復讐という名目も含んだ金塊奪還計画の下調べから描いていく箇所も、普通なら中弛みするところだが、ところどころに現れる障害や、登場人物たちの細かな遊びに満ちたやり取りによって飽きさせることがない。クライマックス、ミニークーパー三台とヘリコプターによるカーチェイスまで一気呵成の感がある。
物語を彩るキャラクターも、類型的ではあるがしっかりと完成されている。ただ、役割分担とかそれぞれの役柄が、最近の犯罪映画や出演者各自がかつて手掛けた作品を想起させるのがちと気になった。火薬担当に黒人をあてがう、という発想は『オーシャンズ11』と同一だし、ジェイソン・ステイサムは自らの主演作で運転の達人という役柄をこなしている――ただ、そちらはもっとストイックで、仕事には感情を持ち込まないというモットーを貫いていたのだが、本編では仕事の中で出逢った女性を誘惑しその隙につけ込んで目的を果たす、というなかなか厭な真似をしでかしてくれており、変化はついているのだが。いずれにしても、このキャラのこの役割はあれで観たよな、という既視感を幾度も起こさせるのは、ある程度折り込み済みだとしても少々行き過ぎの気もする。
が、同時にそうした犯罪映画の定石を抑えました、という感覚が本編の魅力になっていることも間違いない。こと、舞台のメインをアメリカはハリウッドに移し、映画らしい大胆かつ派手な犯罪計画を創造しながら、オリジナルである1969年の『ミニミニ大作戦』に敬意を払い様々なオマージュを挿入しているあたり、関係者の意気込みと遊び心が等しく感じられて微笑ましくさえある。
とりわけ感心させられるのは、登場人物たちのモチベーション作りの巧みさと、会話による丁寧な伏線の張り巡らせ方だ。往年の名優ドナルド・サザーランドを冒頭から登場させ、早いうちに退場させてしまうが、その短い一幕でサザーランド演じるジョンという人物の魅力と後半への伏線を織り込み、ハリウッドにおける金塊争奪戦で徹底的に活かしている手管は見事の一言に尽きる。
金塊強奪の計画そのものも丁寧かつ大胆で見応え充分、ただ括りがそれまでと較べて雑になっているのが勿体ない。きちんと伏線を張っての結末ではあるのだが、もうちょっと別の応用を考えて、更に鮮やかなクライマックスにして欲しかった。
とは言え、そうした嫌味は全体の完成度の高さと心意気の確かさから来る高望みによるものだ。全体に手垢の付いた手法が目立ち、格段新しいタイプの作品とは感じないが、従来の犯罪映画のスタイルを踏襲しつつ新しいものを打ち出そうという姿勢がはっきりと窺われ、非常に好感の持てる作品であることは確か。『スコア』『ザ・プロフェッショナル』などと並ぶ、近年の犯罪映画の収穫と言えよう。序盤でシャーリズ・セロンが口にした台詞を後半でひっくり返してみたり、ある人物の台詞をそのまま物語の転機に用いたり、と気の利いた演出が随所に見られ、名場面と呼ぶべき箇所も少なくない本編だが、私がいちばん気に入ったのは、最後の計画の準備段階、マーク・ウォルバーグ演じるチャーリーとモス・デフ演じるレフト・イヤが地下鉄のトンネル内で何故か宙吊りになりながら会話をしていた場面である。緊迫した空気の中で妙にほのぼのとした会話を交わしているのが、何とも言えず微笑ましいのだ。
あと、スタッフロールに重ねて語られる後日談のなかで触れられる、セス・グリーン演じるライルのその後も素敵。まさか本当にそれをやるとわ。(2003/07/02)