cinema / 『THE JUON/呪怨』

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THE JUON/呪怨
原題:“The Grudge” / 監督:清水 崇 / 脚本:スティーブン・サスコ / プロデューサー:サム・ライミ、ロブ・タパート、一瀬隆重 / エグゼクティヴ・プロデューサー:ジョー・ドレイク、ネイサン・カヘイン、カーステン・ロレンツ、ロイ・リー、ダグ・デイビソン / 撮影監督:山本英夫 / 美術監督:斎藤岩男 / 編集:ジェフ・ベタンコート / 音楽:クリストファー・ヤング / 出演:サラ・ミシェル・ゲラー、ジェイソン・ベア、ウィリアム・マポーザー、クレア・デュヴァル、ケイディ・ストリックランド、グレイス・ザブリスキー、ビル・プルマン、テッド・ライミ、石橋 凌、真木よう子、尾関優哉、藤 貴子、松山鷹志 / ゴーストハウス・ピクチャーズ製作 / 配給:日本ヘラルド×KLOCKWORX
2004年アメリカ・日本合作 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:石田泰子
2005年02月11日日本公開
公式サイト : http://www.thejuon.com/
VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズにて初見(2005/02/11)

[粗筋]
 ――日本の大学の建築科に留学するダグ(ジェイソン・ベア)とともに、交換留学生として日本に滞在しているカレン(サラ・ミシェル・ゲラー)が、単位取得のために登録している介護センターを訪れると、職員のアレックス(テッド・ライミ)に呼び止められた。やはり日本に滞在しているアメリカ人一家の母親に当たるエマ(グレイス・ザブリスキー)の介助を、今日一日だけ請け負って欲しい、という。本来の担当は洋子(真木よう子)だったが、何故か今朝から連絡が取れない、とアレックスは訝しんでいる。前から要望していた介護の仕事でもあったので、カレンはすぐさま現地へと赴いた。
 一歩足を踏み入れるなり、カレンは異様なものを感じた。人が住んでいるはずなのにやけに荒廃した雰囲気を漂わせ、いるはずのない何者かが別に棲みついているような。汚れた布団に放置されていたエマを発見したカレンは、異常を気に留める余裕もなく仕事にかかる。
 ひととおり掃除などを済ませたあと、何を訊ねても芳しい反応のないエマに少々途方に暮れていたカレンは、階上に妙な物音を聞き、階段を上がっていった。物音のした部屋に入っていくと、押入のふすまがガムテープで封印されている。こじ開けた彼女の前に現れたのは、カレンを激しく威嚇する猫と、見開いた異様な眼差しで彼女を見つめるひとりの男の子だった。
 アレックスに異常な状況を伝えたカレンがエマの様子を見に戻ってみると、床で半身をもたげたエマは見えない何かと会話している。「彼女がしつこくて、追い払っていたの」恐怖しながらエマの視線を辿ったカレンが目にしたのは……
 ――会計士のマシュー(ウィリアム・マポーザー)は日本の企業に招かれて、居を構えることになった。不動産屋の鈴木(おかやまはじめ)に紹介されたのは、マシューらには馴染みのない和洋折衷の建物だったが、マシューはその場で即決する。
 マシューは楽観的だったが、妻のジェニファー(クレア・デュヴァル)は不安を顕わにしていた。まず言葉も満足に喋れない日本での生活自体が不安だらけだったが、越して以来、同居するマシューの母エマは夜中に徘徊し昼間は昏睡しているような有様では尚更心細い。マシューの励ましにとりあえず何ヶ月かは頑張ってみるつもりになったが、その日のうちに彼女を異変が襲った……
 帰宅したマシューが目にしたのは、散らかり放題の我が家と放心状態になった母、そして夫婦の寝室でショック状態に陥った妻の姿だった。マシューはすぐさま救急車を呼ぼうとしたが、そんな彼の前に突如現れたのは……
 ――カレンの連絡を受けてマシューの家を訪れたアレックスは、目を見開いて絶命したエマと、その傍らで虚脱状態になったカレンを発見、すぐさま警察と救急車に通報する。訪れた中川刑事らはエマの息子夫婦が不在であることに疑問を抱き、留守電にメッセージを残していたマシューの妹で、やはり日本の商社に勤務しているスーザン(ケイディ・ストリックランド)に連絡を取るよう命じる。その際中川は、留守電についているコードレスの受話器が見当たらないことに気づいて内線呼び出しをしてみると、見つかったのは二階、夫婦の寝室の押入の中。そこから天井に通じる箇所が開け放たれていたため、中川が部下と共に潜りこんでみると、そこには変わり果てた姿のマシュー夫妻と、あり得ないものが転がっていた……

[感想]
 最初は耳を疑った。昨今慢性的なネタ不足に見舞われており、また多くの企画が立ち上がっては人知れず消えていくハリウッドのこと、また知らないあいだに埋もれていくのでは、という危惧もあった。だが、そういう私の心配をよそに無事完成に漕ぎ着け、アメリカでの公開時には週間興収第一位を記録、トータルでも一億ドルを突破するという日本人監督作品としてもホラー映画としても異例の大ヒットとなった――それが本編、ハリウッド版『呪怨』である。
 オリジナルの映画版を観て以来、ホラー映画のひとつの理想としてDVDで繰り返し鑑賞し(……やな人だな)、ハリウッド版の情報についても前々から追い続けてきたので、実は語り出すと止まらない。たとえば、初期段階では日本版のニュアンスが脚本家に伝わらず監督が四苦八苦していたらしいとか、私は当初の情報からあの佐伯家がアメリカに移築されて呪いが蔓延する(つまり日本版の延長)というかたちで展開すると思いこんでいたとか、色々触れたい点はあるのだがキリがないので日本版との大まかな内容比較と純粋な作品の出来についてのみ触れたい。
 大枠はあくまで『呪怨 劇場版』のリメイクという体裁で間違いない。狂言廻しとなるキャラクターをはじめ主要人物が英語圏の人々になり、会話も概ね英語で行われているが、舞台は日本、オリジナルシリーズで人々を恐怖に陥れる伽椰子と俊雄の母子もほぼそのままのキャラクターで登場する。発生する“呪い”や様々な怪奇現象についても、オリジナルを踏襲しているものが多い。具体例を挙げるとオリジナルからのファンの興を削ぐことになるので避けておくが、『劇場版』に限らず原点でもあるオリジナルビデオ版からも引いており、集大成的な趣もある。
 そのうえ、同様の場面を再現していても、VFXにハリウッドの技術が用いられているので現象の不気味さ・生々しさが際立っており、意外と新鮮に見える。これは各作品から時間を経て清水監督が経験を積んだことで、同じシチュエーションでも新たな解釈を追加したり、従来よりも成熟した表現の仕方をするようになったことも理由のひとつだろう。敢えて素子の粗い映像を随所に入れるのも、ベースが美しいからこそ成り立つ手法だ。
 一方で、『劇場版』のほうでただの怪奇現象の羅列とならないために用いられていたギミックが、このリメイク版では外されているのが興味深い。恐らくオリジナルで鑑賞した人であってもこの部分を評価するか否かで分かれるところだろうが、そこを敢えてすっぱりと切り離して、“呪い”を描くことのみに集中したことは、恐怖映画としての本編に自信を持ったことが窺われるのだ。
 時系列を前後し、まず結果となる出来事をいきなり提示したあとでその一歩手前の原因となる出来事を描き、然るのちにその影響下にある悪夢を強烈なインパクトで描き出す、というオリジナルビデオ版の頃からの手法も踏襲する一方、いかにもハリウッド作品らしい、ある場面で登場したアイテムが後半で活きてくる、というシンプルな伏線の張り方も行っているのが面白い。東西の作風のいいところを摘んできて、綺麗に束ねることで更にホラー映画としての極致を目指そうとしているようで、いっそ頼もしい仕上がりだ。オリジナル版ではあくまで被害者を追い込んでいくための要素でしかなかったある“動き”に不気味な原因を付与したりしているのも面白い。
 ただ、そうして美味しいところを徹底的に詰め込んだが故なのか、伽椰子らの“呪い”に巻き込まれ犠牲になったと思しいが、その詳細を描かれないまま消えていってしまった人が結構おり、そのために因果関係がやや途切れがちになっているのが残念と感じる。たとえば、ある出来事の目撃者に過ぎなかったはずの人物が次のある場面で犠牲者の一人として名前を連ねていたり、かなりえげつない怪奇現象によって命を奪われたと見られる人物の消息が逆に不明なままとなっていたりするのが、妙に消化不良の印象を与えるのだ。翻って解釈の余地と、そこから別種の恐怖を滲み出させる効果も生んでいるので、この点は人によって美点と捉えるか欠点と捉えるか判断の分かれるところだろう。
 日本を舞台にしながら被害者たちを大半英語圏の人々にしたほか、物語にヒロインとその恋人との絆を絡めているので、最初はやや違和感を抱くが途中からはそんなことなど気にすることもなくなる。寧ろそういう不自然さを糊塗するためにちゃんと設定を組んでおり、必要なところでは日本語を喋らせ、一方で言葉が通じないという状況を恐怖の演出にも役立てており、制約を逆に利用する度量も覗かせている。日本人監督のハリウッド進出作として、この上なく理想的なシステムであり、それに巧く乗っかった本編がアメリカで歓迎されたのも頷ける。
 日本独自の風土を用いていたためハリウッドでのリメイクと聞いて不安を感じていたファンも多いだろうが、そういう人にも安心してお薦めできるし、東西いずれのホラーファンにも観て頂きたい良作である。既に同じ清水監督の起用が決定済だというハリウッド版続編も非常に楽しみ。

(2005/02/13)


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