/ 『リディック』
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『light as a feather』トップページに戻るリディック
原題:“The Chronicles of Riddick” / 監督・脚本:デヴィッド・トゥーヒー / 製作:スコット・クループ、ヴィン・ディーゼル / 製作総指揮:テッド・フィールド、ジョージ・ザック、デヴィッド・ウーマーク / 撮影監督:ヒュー・ジョンソン / プロダクション・デザイナー:ホルガー・グロス / 衣装:エレン・ミロジニック / 特殊メイクアップ:ヴィ・ニール / 視覚効果スーパーヴァイザー:ピーター・チャン / 音楽:グレアム・レヴェル / 出演:ヴィン・ディーゼル、コルム・フィオーレ、ジュディ・デンチ、タンディ・ニュートン、カール・アーバン、アレクサ・ダヴァロス、ライナス・ローチ、ニック・チンランド、キース・デヴィッド / 配給:東芝エンタテインメント、松竹
2004年アメリカ作品 / 上映時間:1時間58分 / 日本語字幕:松浦美奈
2004年08月07日日本公開
公式サイト : http://www.riddick.jp/
丸の内プラゼールにて初見(2004/08/16)[粗筋]
約束の地“アンダー・ヴァース”の存在を信じ、全人類を殲滅、或いは痛覚を奪い最強の戦士として要請し勢力を拡張し続けるネクロモンガー一族。その脅威が多数の人種・宗教を内包するヘリオン第一惑星にも及ぼうとしていた。
そんな重大な危機のさなか、警邏の宇宙艇を翻弄してヘリオン第一惑星に降り立ったのは、幾つもの惑星で指名手配され常に賞金稼ぎに追われている暗殺者リディック(ヴィン・ディーゼル)。刑務所を脱獄し、ある事件を解決したのち人目を逃れて氷の惑星に潜んでいた彼だったが、突如賞金稼ぎトゥームズ(ニック・チンランド)らの襲撃を受けた。リディックの所在を知っているのは、先の事件で彼が救出し、ヘリオン第一惑星に戻った聖職者イマム(キース・デヴィッド)ただひとり。裏切りと判断したリディックは彼の家に押し込むが、イマムはそんなリディックをある人物と引き合わせる。
その人物とは、エーテル体の種族エレメンタルの“予言者”エアリオン(ジュディ・デンチ)。彼女は間近に迫ったネクロモンガー襲来の危機から宇宙を救うための存在として、フューリア族の生き残りを捜し求めていた。ネクロモンガーの現在の統率者ロード・マーシャル(コルム・フィオーレ)はかつて、フューリア人によって殺されるという予言を受けたことからすべてのフューリア人を抹殺しようとしたが、ただひとり難を免れた生き残りがいるという――エアリオンはその生き残りこそリディックではないかと判断、彼を追わせていたのだ。やがてイマムの元を急襲した連中を一掃すると、振り返りもせずに立ち去っていった。
間もなくヘリオンは戦火に包まれた。ネクロモンガーは圧倒的な戦力でヘリオンを制圧する。その余波によって、イマムもまた家族を遺して絶命した。
ヘリオンの中枢に凱旋したロード・マーシャルは、ヘリオンの人々に自らの戦力として与するか、さもなくば死を選べと迫り――彼の異常な力の前に、多くの人々は膝を屈した。ただひとり、その場に居合わせながら揺るぎもしなかったのはリディックだった。彼は自分はただのよそ者だと嘯き、目当てはあの男の命だけだ、とイマムを殺害した男を指さす。ネクロモンガー一族の嘲笑のなか、あっさりと男を屠ったリディックにロード・マーシャルは興味を示した。司令官ヴァーコ(カール・アーバン)の妻デイム(タンディ・ニュートン)の挑発に載せられるような格好で、リディックは記憶の調査を受けさせられた。結果、リディックは疑いもなくフューリア人の生き残りであったことが判明する。ロード・マーシャルが抹殺を指示するよりも早く、リディックは彼らの船から逃走する――[感想]
CMなどで冒頭の衝撃の大きさが喧伝されていたが――確かにこれは凄い。ネクロモンガーによる惑星殲滅の模様が、ジュディ・デンチの虚飾を廃したナレーションを背景に描かれるのだが、そのヴィジュアルの壮大さと巧みなカメラワークで、いきなり作品世界に惹きこまれてしまう。息を吐く暇もなく場面はタイトルロールであるリディックと賞金稼ぎトゥームズとの追跡劇に移り、あとはまさにラストシーンまで一気呵成。このスピード感のある演出は大したものである。
ただ、スピード感に固執したあまりなのか、キャラクターの掘り下げが甘く、随所に説明不足が目立つ。こと、リディックの行動が万事唐突なきらいがあるので、画面の勢いに取り残された人はそのまんま置き去りになってしまいかねない。製作者が新しい神話を志した、というだけあって、悪役であるネクロモンガー全体の指向性が明確である分、構造に難しさはないから追々把握出来るのだが、リディックの言動がしばしばスムーズに理解出来ないために観客をしばしば立ち止まらせており、スピード感を若干阻害しているように思った。それぞれの思惑によってリディックに対して罠を仕掛け、或いは手助けする人々の行動が一部やや唐突に感じられるのも問題である。あとになって出来事を検証してみれば自然な行動なのだが、咄嗟に把握出来ない、というのがこのスピード感にあっては少々齟齬を来す。
基本的にハリウッド伝統のヒーローからは逸脱したキャラクターであり、関わりの薄い人間などあっさりと切り捨てるような側面のあるリディックは、ベースとなる視点人物でありながら感情移入がしにくいことも、冒険譚としての精度に疵を残している。
とは言え、その点は作り手全員が覚悟の上だろう。従来のSFアドヴェンチャーの枠に留まらず、なおかつ娯楽として成立する独自の“神話”を構築しようとした意欲は評価出来るし、その意味ではほぼ成功している。圧倒的なインパクトを伴う冒頭で悪役の方向性を一発で規定したあとは、舞台や登場する生物、星々の自然環境に趣向を凝らし、その場その場で緊迫感のある冒険を繰り広げつつ、少しずつ文字通り“衝撃”のクライマックスへと引っ張っていく様は、アンチヒーローを志しているとは言えまさしくヒロイック・サーガの趣がある。
神話的な物語を構築しながら、一方では非常にハードなSF設定を用いていることにも注目したい。どこか古めかしい意匠をふんだんに用いたネクロモンガーもさることながら、特に際立っているのは上の粗筋のあと、リディックが旧知の人物を奪還するために侵入する刑務所と、その所在地である惑星の設定だ。地下にある刑務所のなかにはカメレオンの如く体表面の性質を変化させる虎のような生物が闊歩し、その外界は昼間は700度、夜は300度という人間が出歩くことの不可能な過酷極まる環境であり、その事実がクライマックス直前のドラマに見事に寄与している。
そして、きちんと布石を残しながら突如提示されたあのラストシーンは、予測可能な範囲にあるが大抵の観客にとっては意外の一言に尽きるだろう。色々と映画を観てきたが、少なくともこの規模の大作でこういう類の結末に巡り会った記憶がない。必然的で、次への含みを持たせながら物語自体にはきちんと決着をつけている、という意味でも実に希有なラストシーンだ。中盤は随所でリディック自身のモノローグを挟んでいたのに、このラストだけは冒頭同様にジュディ・デンチ演じるエアリオンのモノローグで括っているのも美しい。
善人ではない、が、悪党にも徹しきれない奇妙なアンチヒーロー“リディック”という背骨一本ですべてのガジェットを支えようとした、ある意味この上なく無謀な作品である。あくまで従来の神話の再構築である『スター・ウォーズ』シリーズなどに飽き足らず、なおかつ強烈な“個性”を求める人には格好の一本である。個人的には主要なキャラクターそれぞれにもうひとつずつぐらい見せ場を与えても良かったように思うが、2時間越えは当たり前、下手をすると3時間でもきかないような根気の要る“大作”が増えた中で、ギリギリ2時間にこの内容を収めてしまった事実だけでも尊敬に値する。史上最大規模のセットとCGとを併用し大量の予算が投入された本編はかなり早くから日本での公開時期が予告されており、その期待に合わせて字幕版と吹替版が上映されている。普段から基本はオリジナルの音声で鑑賞することに決めているとは言え、内容次第では吹替版でも構わない(例えば『マッハ!!!!!!!!』は主演俳優の声が聴き取りづらいことを予告編で感じたので、敢えて吹替版で鑑賞しました)という姿勢の私ですが、こればっかりは断固、字幕版を選びました。ヴィン・ディーゼル出演作を鑑賞しているのにあのセクシーな声が聴けないのでは意味がないのです。
最後に――告白します。実は本編の前日譚である『ピッチブラック』を、私は鑑賞しておりません。本編の公開に合わせて発売された廉価版[amazon]を購入して予習するつもりでいたのですが、すっきり忘れてそのまんまでした。設定を引き継ぎながらも基本的にまったく別の物語となっているようで、ほとんど問題はありませんでしたが、あるひとつの要素については――やっぱり予習をしておくべきだった、と後悔してます。たぶんサプライズのひとつだったはずで、恐らくは見え見えだったとは思いますが、それでもそういうのは筋の中で体感しておきたかったなー……と。どっちにしたって後悔先に立たず。そのうちDVDを購入して、どういう扱いだったのか確認したいと思います。
(2004/08/16)