cinema / 『マッハ!!!!!!!!』

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マッハ!!!!!!!!
原題:“Ong-Bak” / 監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ / 武術指導:パンナー・リットグライ、トニー・ジャー / 脚本:スパチャイ・シティアンポーンパン / 原案:プラッチャヤー・ピンゲーオ、パンナー・リットグライ / 製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ、スカンヤー・ウォンサターバット / 製作総指揮:ソムサック・デーチャラタナプラスート / 撮影:ナタウット・キティクン / プロダクション・デザイン:アッカデート・ゲーオコート / 編集:タナット・スンシン / 音楽:アトミックス・クラビング / 出演:トニー・ジャー、ペットターイ・ウォンカムラオ、プマワーリー・ヨートガモン、ルンラウィー・バリジンダークン、チェータウット・ワチャラクン、ワンナキット・シリプット、スチャオ・ポンウィライ、チャタポン・パンタナアンクーン / 日本語吹替:浪川大輔、後藤哲夫、中村千絵、池田 勝、山路和弘、堀内賢雄、岩崎ひろし / 配給:KLOCKWORX、GAGA-HUMAX
2003年タイ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:風間綾平 / 吹替翻訳:木村順子
2004年07月24日日本公開
2004年11月25日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.mach-movie.jp/
丸の内シャンゼリゼにて初見(2004/07/25)※日本語吹替版

[粗筋] ※()内の日本人名は吹き替えの声優、但し一覧表が手許にないので、記憶にあるものだけに限らせていただきました。
 タイの片田舎・ノンプラドゥ村で祭が催される間際の夜、とんでもない事件が勃発した。信仰の象徴である仏像オンバクの首を、ドン(ワンナキット・シリプット)という男がもぎ取り、持ち去ってしまったのだ。悲嘆に暮れる村人の期待を一身に受け奪還の旅に出たのは、僧侶によって育てられ、ムエタイの奥義を授けられた孤児のティン(トニー・ジャー/浪川大輔)。村の老人が控えていた住所を頼りに、ティンは一路バンコクへと向かう。
 バンコクに到着すると、ティンはまず村の出身者であるジョージ(ペットターイ・ウォンカムラオ/後藤哲夫)のもとを訪ねた。彼の父親からの手紙を託すと共に像の探索を手伝って貰う腹積もりだったが、出家も田舎暮らしも厭で故郷を出奔したジョージは、在学中の少女ムエ(プマワーリー・ヨートガモン/中村千絵)を相棒に稼ぐいかさま師として暮らしており、貯まった借金を返すためにティンが村の住人から受け取ったカンパをくすねてしまう。
 そのことに気づいたティンがジョージを追い、辿り着いたのは闇の闘技場だった。ジョージに金を返すよう迫るティンだったが、ひょんな経緯から選手に祭り上げられてしまう。ムエタイの技で敵を瞬殺してしまったティンを、ジョージはまた選手としてリングに上げて賭で荒稼ぎすることを目論むが、師匠から本来はムエタイの使用を禁じられていたティンはそれを固辞する。
 仕方なくジョージはムエと結託して、カジノでイカサマを働きいちおうの収入を得る。だが間もなく見抜かれて、偶然遭遇したティンもろとも追われる羽目になった。ティンはドンの立ち寄る場所を教える、という条件でジョージを助ける。そんな彼が連れ込まれたのは、またしてもあの闇の闘技場だった……

[感想]
 CGを使わない。ワイヤーを使わない。スタントマンを使わない。早回しを使わない。“公約”とまで銘打ったこの惹句に誘われるような人なら確実に満足すること請け合いだ。
 ストーリーそのものはシンプルである。悪党によって奪われた仏像の首を、ムエタイの達人である純真な青年が取り戻すために単身都会に赴き、そこで様々なトラブルに見舞われ……と目新しい要素はない。それだけに、シンプルながら創意に満ち、同時に混ぜもののない生身のアクションを心ゆくまで味わえる。
 しかもこの映画、スタントマンを使わず、なおかつ本気で攻撃していることを示すために、誤魔化しの利かないカット割りを多用している。ふつう人物や手足の影になる攻撃箇所をほぼ真っ向から捉えてみたり、早回しは使わない代わりに肝心の場所をスローモーションで映したり、最高の見せ場では複数のアングルから二度・三度と同じアクションを見せたりする。そして、本気で攻撃を加えているから、動作が力強い。CGを多用したアクション映画などと比較してみれば、その一撃一撃の重量感が解るはずだ。特に終盤で多用される肘撃ち膝蹴りの痛そうなことといったら。
 ムエタイと同時に本編に独特の存在感を齎しているのは、アクションの舞台や道具立てに、タイならではの要素を採り入れていることだ。同じくタイを舞台にすることの多いオキサイド・パン監督の『the EYE』や『テッセラクト』にも見られたが、屋台などが多く建ち並ぶ路地裏や、都市部とは極端に生活様式の異なる郊外の様子、そして生活を浸食している売春や麻薬といった問題をきちんと物語を盛り上げる要素として使い、アクションでも活用している。とりわけ、タイ特有の三輪タクシー“トゥクトゥク”を用いたカーアクションはまさにこの土地を舞台にしたからこその醍醐味と言えよう。タイでアクション映画を撮る、ということへの気概が随所に感じられる。
 ただ、吹き替えで鑑賞しても、演技は拙い。笑顔は実に爽やかでいいし、戦闘シーンの気迫は凄まじいものがあるのだが、たとえばその戦闘に入る直前の表情や台詞回しなどは素朴すぎて印象に乏しい。タイでは有名なコメディアンだというペットターイ・ウォンカムラオがフォローしているのであまり目立たないし、そもそも大半がアクションなのでさほど演技を云々する気にはならないのだけど、今後様々な作品に取り組んでいく上で重大な課題となるはずだ。
 今年は正統派アクション不漁の年、という印象を受けていたのだが、これ一本が登場してくれただけでだいぶ安心した。ジェット・リーの登場あたりを最後に途絶えていた本格派アクション俳優の新たな誕生を告げる、大満足の一本。同じスタッフによるという新作『トム・ヤム・クン』(2005年公開予定)がいまから非っ常に楽しみだー!

(2004/07/25・2004/11/24追記)


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