/ 『輪廻』
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『light as a feather』トップページに戻る輪廻
監督:清水崇 / 脚本:清水崇、安達正軌 / プロデューサー:一瀬隆重 / エグゼクティヴ・プロデューサー:濱名一哉、小谷靖 / アソシエイト・プロデューサー:木藤幸江 / 撮影:柴主高秀 / 美術:斎藤岩男 / 照明:渡部嘉 / 装飾:松本良二 / 特殊効果:岸浦秀一 / 視覚効果:松本肇 / 特殊造型:松井祐一 / 音響効果:柴崎憲治 / 録音:柿澤潔 / 音楽:川井憲次 / 音楽プロデューサー:慶田次徳 / 主題歌:扇愛奈『輪廻』(Victor Entertainment) / 助監督:安達正軌 / ノヴェライズ:大石圭(角川ホラー文庫・刊) / 製作プロダクション:オズ / 出演:優香、香里奈、椎名桔平、杉本哲太、小栗旬、松本まりか、小市慢太郎、治田敦、三條美紀 / 配給:東宝
2005年日本作品 / 上映時間:1時間36分
2006年01月07日公開
公式サイト : http://www.j-horror.com/rinne/
日劇PLEX2にて初見(2006/01/07)[粗筋]
松村郁夫監督(椎名桔平)の最新作『記憶』の製作が、監督自身による脚本の決定稿完成を受けて、ようやく本格化した。昭和四十五年、群馬県にあるホテルで僅か一時間のうちに十一人もの人間が殺された事件をもとにしており、監督は事前に被害者唯一の生き残りであり、実の子供ふたりを事件で失い、犯人である大森範久(治田敦)の妻でもある大森歩美(三條美紀)に会い遺品を借り受けるなど、準備にも力を入れていた作品である。
早速行われたオーディションで、誰よりも先に決定したのはヒロイン格である千里役だった。抜擢されたのは、まだ経験の浅い新人女優・杉浦渚(優香)。前々から自己アピールが弱く、オーディションの帰りにマネージャーの村川(杉本哲太)から叱られたこともあってまったく自信のなかった彼女だが、ある日いきなり監督自ら脚本の決定稿を送りつけてきて、驚くと共に歓喜する。
しかし、異変はその日、脚本に目を通したときから始まった。読んでいると、何者かの気配を感じる。モデルとなった事件は彼女が生まれる前の出来事であり、舞台を訪れたこともないというのに、夢にそのホテルが生々しく、薄気味悪い姿を見せるのだった。
渚の動揺をよそに、映画の製作は着々と進んでいった。松村監督は出演者の意識向上と、美術班の現地視察もかねて、事件の舞台となり、今は廃墟と化しているホテルを全員で訪ねることを提案する。悪い予感を覚えてその提案を固辞しようとする渚だったが、「仮に君の前世が殺された女の子だったとして、今の君が殺されるというわけじゃないだろう?」と説き伏せられ、結局現地入りすることになった。
監督が出演者のそれぞれに、演じる人物が屍体となって発見された場所に、発見された当時と同じ格好をしてみることを命じ、人物に対する理解を深めるように促す。そんななかで、渚はあまりに生々しい幻覚を見る。大森が実の息子である優也を殺害し、ついで渚が演じる最後の犠牲者・千里を追い詰める一部始終だった――当時六歳の少女に同調したように、渚が逃げ込んだ場所は、まさに千里が殺害されたという、227号室の押入の中だった……
同じころ、大学生の木下弥生(香里奈)も同様の体験に悩まされていた。夢の中で見覚えのないホテルを訪ね、謎の人影に脅かされる、というものである。恋人の尾西和也(小栗旬)に相談したところ、自分自身の前世を知っている、と標榜する女優の卵・森田由香(松本まりか)を紹介してくれた。由香は弥生と自分とが前世で面識を持っている、と言いだし、弥生を図書館に連れて行って、新聞の綴り込みを見せる。そこに記されていたのは、松村監督が新作のモチーフにしたあの事件である。由香はこともなげに、自分の前世はこの事件の被害者のひとりだ、と言ってのける……[感想]
『THE JUON/呪怨』で日本人監督として初めての全米No.1、更に興収1億ドルを達成した清水崇監督待望の日本での最新作である。オリジナルの劇場版『呪怨』にしたところで、公開後に大きく話題となったものの、当初はミニシアター中心の小規模なかたちで上映展開しており、日本出資の作品としては初めて全国ロードショーされた作品でもある。
それを意識してか、従来の作品よりもストーリーラインが明確であり、一般の観客にも解りやすい決着がつけられているのがまず特徴的である。ビデオ版『呪怨』に始まる一連のシリーズは、各編でそれなりにオチがつけられているものの、あくまで過程の恐怖にこそ照準が据えられ、また作品の性質的に話が拡散しやすかったせいもあって、こと劇場版一作目は結末が取って付けたように感じられ、第二作には散漫な印象があった。翻って本編は、狙いがはっきりしていて、物語終盤にきちんと盛り上がりがある。怪奇現象を題材としながら、その扱いにかなりの違いがあって興味深い。
ただしそのぶん、ストレートに恐怖を感じさせる部分は減った、と感じる。たとえば序盤、どうやら過去の事件の被害者が転生したと思しい人々が、闇に浮かぶ顔に見送られるように姿を消す、という場面が繰り返されるが、決して大袈裟に恐怖を煽ろうとしていないので、やや煮え切らない印象を受ける。話が進んでいってもその印象は変わらず、たまに度胆を抜かれる場面はあるが、ホラーとしての力強さは若干薄れている。劇場版『呪怨2』に見られたような、受け手の理解力によって笑いにも繋がるような箇所は更に少ない。
しかし、怪奇描写が弱くなったかというとそれも違うのだ。恐怖はさほどではないものの、実話として語られる怪談の肝を押さえた描写が多々あり、ホラー映画というよりはいわゆる実話怪談を読み漁った人間なら感心すること頻りだろうと思う。前述の冒頭部分もそうだが、優香演じる渚のアパートの魚眼レンズを用いた怪現象の表現、背後を過ぎる気配を演出するカメラワークの絶妙さ、など、ダイレクトではないがじわっと冷たさを齎す描写に冴えを見せている。とりわけ渚が電車の中で遭遇する少女の出現と退場のくだりは、その突拍子もなさと非現実的な成り行きが、怪談慣れした人間には却ってリアルなのだ。ただ、こうした評価の仕方は、私と同様の嗜好の持ち主でないとご理解いただけないようにも思うのだけど。
作中なんども登場人物が、まるで時空を超えたかのように過去の世界を垣間見、あるいは本来一瞬では行き来できない距離を移動した(かのように見える)くだりがあるが、この点をどう受け止めるかによっても評価は変わるだろう。作品の悪夢的な空気を濃密にする上で充分に意義のある描写だと私は考えるが、はっきりとした結末が用意されているだけに、成り行きを曖昧模糊と感じさせかねない描写である、という捉え方もあり、それ故に否定的になる向きもあるように思った。
だが、そうした微妙なポイントを踏まえた上でも、クライマックスの凄まじさは誰しも認めるところではなかろうか。いささか小道具の迫力に依存しすぎている箇所もあるが、そのアイディアが齎す衝撃と不気味な余韻は、私の見た清水監督作品のなかでも快心の部類に入ると思う。
細部に趣向を凝らし、明確な結末を用意しながらも癖のある物語に、観客を引っ張っていく牽引力の役割を、ホラー初出演であるという主演の優香が果たしていることも特筆しておきたい。バラエティ番組を中心に活躍する彼女本来の魅力である咲き誇らんばかりの笑顔を抑え、異様な出来事に怯え恐怖し激情するヒロインを見事に演じ、作品の軸となっている。
『呪怨』のような観客の側に波及すると錯覚するような生々しい恐怖は失われているが、それは設定が設定であるだけに仕方のないところだ。寧ろ、怪奇現象や恐怖の演出を随所に鏤めながら、娯楽のツボを押さえて筋の通った物語に仕立てていることを高く評価すべきだろう。間違いなく、良質のホラー映画である。(2006/01/07)