cinema / 『ふたりにクギづけ』

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ふたりにクギづけ
原題:“Stuck on You” / 監督・物語・脚本・製作:ボビー&ピーター・ファレリー / 物語:チャールズ・B・ウェスラー、ベネット・イェリン / 製作:ブラッドリー・トーマス、チャールズ・B・ウェスラー / 製作総指揮:マーク・S・フィッシャー / 共同製作:マーク・チャーペンティエール、ガレット・グラント、クリス・マイヤー / 撮影:ダン・ミンデル / プロダクション・デザイナー:シドニー・J・バーソロミュー・Jr. / 編集:クリストファー・グリーンバリー,A.C.E.、デイヴ・ターマン / 衣装デザイナー:ティーナ・アッペル / 音楽スーパーヴァイザー:トム・ウルフ&マニッシュ・ラヴァル / メークアップ効果デザイナー:トニー・ガードナー / キャスティング:リック・モントゴメリー / 出演:マット・デイモン、グレッグ・キニア、エヴァ・メンデス、ウェン・ヤン・シー、パット・クロフォード・クラウン、レイ・ロケット・ヴァリエール、テレンス・バーニー・ハインズ、セイモア・カッセル、シェール / 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント提供 / 配給:Art Port
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間59分 / 日本語字幕:松浦美奈
2004年12月11日日本公開
公式サイト : http://www.foxjapan.com/movies/stuckonyou/
シブヤ・シネマ・ソサエティにて初見(2005/01/18)

[粗筋]
 マサチューセッツ州のマーサズ・ヴィニヤード島でその兄弟はちょっとした有名人だった。兄のウォルト(グレッグ・キニア)は女好きの俳優志望で、地元の劇場で地道な活動を続けている。弟のボブ(マット・デイモン)は極度の緊張を覚えるとパニック発作を起こす臆病者だが頭の回転・運動能力に優れていて、地元のアイスホッケーやアメフト、ボクシング大会などで優秀な成績を収めている。だがそんな華々しい経歴以上にふたりの存在感を決定づけていたのは、彼らが決してかたときも離れない仲であったことだった――彼らは腰の28センチほどが接合した、結合双生児だったのである。
 三分以内に注文の品が出せなかったらタダ、というハンバーガーレストランを共同で経営し、文字通り息の合った仕事ぶりで評判の彼らだったが、ウォルトはいまなお俳優業――ハリウッドで活躍する野心を捨てていなかった。島に雪の降りしきるある日、年齢的にもそろそろ限界が来ており、動くならいましかない、とウォルトはハリウッド行きを弟に提案する。パニック発作のために、兄と一緒に舞台に立つことさえ大変だったボブは渋るが、三年間に亘って電子メールでの文通を重ねてきたメイ(ウェン・ヤン・シー)にも逢えるぞ、というウォルトの言葉と彼の俳優業に対する情熱に屈して、三ヶ月だけ試しに活動することを許す。
 こうして、兄弟の挑戦が始まった。二年以上も脚本執筆にかまけているふりをしている妙なオーナー・モー(テレンス・バーニー・ハインズ)が経営する“ライジング・スター”というホテルを拠点に定めると、さっそく様々なオーディションに赴いた。
 だが、考えてみるまでもなく結合双生児、しかも俳優を志しているのは片方だけ、という特殊すぎる彼らを使おうとする監督やスポンサーはいそうもない。早くも挫けそうになるウォルトにボブは、同じ店子のやはり女優志望のエイプリル(エヴァ・メンデス)がちらっと口にしていたエージェント、モーティ・オライリー(セイモア・カッセル)に託してみては、と提案する。迷った挙句に訊ねてみると、ものの数日でモーティはウォルトに仕事を持ってきた。ふたりは欣喜雀躍する。
 一方、ウォルトはボブが寝入っている隙にちょっとしたプレゼントを仕掛けていた。密かにメイに連絡を取り、やって来るよう約束を取り付けていたのである。だが、その話を聞いてボブは著しく動揺する。何故なら、彼はウォルトと自分の関係について、一番大事な部分を伏せていたのだ――! 正直に打ち明けろ、と諭すウォルトだが、既にパニック状態に陥っているボブはどうにも出来ない。仕方なく、ふたりは当面あの手この手で誤魔化すことにした。幸いにもメイはボブに対して好意を示してくれているようだけれど……
 翌日、モーティの仕込んだ現場に向かったウォルトだが、その内容はなんとアダルトビデオの撮影で、しかも彼らはモンスター役。即座に逃げるウォルトたちに、ひとりの女性が声をかける。彼女はちかごろ落ち目の女優シェール(シェール)。現場を訪れる直前、道に迷ったふたりと偶然出会っただけの彼女がウォルトに齎したのは、何とテレビのドラマシリーズ主演の話だった――

[感想]
 毎回作品に、偏見を持たれがちな人々やテーマを登場させ、それを徹底的にギャグの材料にしてしまうファレリー兄弟の最新作である本編の主役は“シャム双生児”――もとい、“結合双生児”である。
 現在の商業媒体ではボーダーライン上にあると考えられるそうしたテーマを扱い、時として徹底的にコケにしながら、この兄弟の作る映画ではそれが鼻につかないのは、きちんと描くものの本質について理解して描いているからだ。人物たちを卑屈にせず、自らの置かれた境遇を率直に受け入れポジティヴに生きている姿を見せているから、話が重苦しくもなく、軽快なコメディとしての一線を保っている。逆に、主人公が自らの特徴を負い目に思っていても、それを世間や他の登場人物の認識と二重写しにすることで最後には重みを取り払ってしまう。このパターンを実践したのが前作『愛しのローズマリー』であり、御覧になれば解るが、大いに毒を含んだコメディであると同時に特別で優れたラブロマンスにも仕上がっている。
 本編に話を移そう。この作品も、結合双生児という主人公ふたりの特徴をこれでもかと言うほどギャグやストーリー展開に活かしている。スポーツ競技への参加の態度と周囲の言動、舞台に立つ兄の横で延々冷や汗をかき通しの弟の姿、「息の合った」という表現がこれ以上ないくらいに似つかわしいレストランでの調理シーンやちょっとだけ登場するアクションシーンなどなど、ふたりの“形態”を活用した描写が無数にあり、そのどれもがネガティヴに陥っていない。冗談抜きで、こういう生き方もアリなんじゃないか、と思わせてしまうくらいに陽性なのである。
 が、一方で彼らの憧れはごく人並みでもあり、それが物語の鍵ともなっている。ふたり揃って俳優に憧れているならまだ別の道があるだろうが、派手好みの兄に対して弟はスポーツと田舎暮らしをこよなく愛する朴訥な人柄だ。この双子だからこそ当然とも言える性格の違いが、ストーリーに更なる笑いと起伏を形作っている。
 ただ、ファレリー兄弟のほかの作品と比べて、主人公であるウォルトとボブに敵対する存在、或いは彼らに向けられる“悪意”が乏しいのが気に掛かる。ファレリー兄弟の巧さは、そうした“毒”を鏤めることで結末のハッピーさを際立たせる点にもあるはずなのだが、本編において主人公たちに悪意を向けるのは、序盤のレストランの客や、中盤ちょこっと登場するメイに横恋慕する同僚たちぐらいのもので、あとはほとんど味方と言っていい。あからさまな憎まれ役として芸名のまま活躍するシェールでさえ、ラストにはいいところを見せてしまっている。果たしてこんなに味方だらけになるものか、と首を傾げたくなるのも事実だ。
 その甘さを正当化しているのは、実はこのボブとウォルトという兄弟のキャラクターそのものだったりする。片方は憎めない陽性の女好き、もう一方は母性本能を擽る好人物と来る。対照的な性格ながらどちらも完璧な善人であり、何より心からお互いを思いやっている。こういうふたりと付き合っていたら、長いこと偏見を抱き続けることのほうが無理というものだろう。毒を入れ損なった、というより、毒を過剰に混ぜ入れる余地がなかった、という風に見えた。
 ストーリーは基本的に予定調和と言っていい。このキャラクター設定であれば次にこうして、最後はこんな感じになるだろう、という当たり前の路線を押さえているに過ぎない。しかし、その随所に細かな伏線を入れ、ちまちまと笑いに繋げつつ、決して甘すぎず嫌味にもならない結末に結びつけているのは、前述の通り“偏見を持たれがちな人々やテーマ”を深く理解して作品を構築していくファレリー兄弟の真骨頂である。恐らく、中途半端に笑いを理解している作家や無意味に社会性を採り入れたがるクリエイターが手がけたなら、こうはいかないに違いない。
 ほかの作品も観ているファンにとっては毒の乏しさが気に掛かるが、それでもこうしたテーマを扱いながらまったくネガティヴに走らず、後味の爽快なコメディに仕立て上げた手腕は確かなものだ。寧ろ毒が減ったぶん、従来よりも幾分か親しみやすく、安心して観られるコメディと言えるかも知れない。まだファレリー兄弟の作品に触れたことのない方は、まず本編から御覧になるのもいいだろう。
 ……しかし、この話の発想って、わりと最近発表されたある作品のアイディアと被ってるんですけど……ま、まあ、ジャンルも扱い方も違うから、いいか……いいんだよね?

(2005/01/19)


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