/ 『スウィングガールズ』
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『light as a feather』トップページに戻るスウィングガールズ
監督・脚本:矢口史靖 / 製作:亀山千広、島谷能成、森 隆一 / エグゼクティヴ・プロデューサー:桝井省志 / 企画:関 一由、藤原正道、千野毅彦 / プロデューサー:関口大輔、堀川慎太郎 / 脚本協力:矢口純子 / 音楽:ミッキー吉野、岸本ひろし(サントラ盤:ユニバーサル) / 撮影:柴主高秀 / 照明:長田達也 / 録音:郡 弘道 / 美術:磯田典宏 / 編集:宮島竜治 / 助監督:片島章三 / ラインプロデューサー:毛利達也 / 製作担当:前村祐子 / 製作:フジテレビジョン、アルタミラピクチャーズ、東宝、電通 / 製作プロダクション:アルタミラピクチャーズ / 出演:スウィングガールズ(上野樹里(t-sax)、貫地谷しほり(tp)、本仮屋ユイカ(tb)、豊島由佳梨(ds)、平岡祐太(pf)、関根香菜(g)、水田芙美子(b)、あすか(a-sax)、中村知世(a-sax)、根本直枝(t-sax)、松田まどか(br-sax)、金崎睦美(tp)、あべなぎさ(tp)、長嶋美紗(tp)、前原絵理(tb)、中沢なつき(tb)、辰巳奈都子(tb))、竹中直人、白石美帆、高橋一生、福士誠治、小日向文世、渡辺えり子、桜むつ子、眞島秀和、三上真史、徳井 優、田中要次、木野 花、大倉孝二、佐藤二朗、菅原大吉、西田尚美、江口のりこ、岩佐真悠子、武田祐子、谷 啓 / 配給:東宝
2004年日本作品 / 上映時間:1時間45分
2004年09月11日公開
2005年03月25日DVD発売 [amazon:STANDARD EDITION|SPECIAL EDITION|PREMIUM EDITION]
公式サイト : http://www.swinggirls.jp/
日比谷みゆき座にて初見(2004/09/18)[粗筋]
鈴木友子(上野樹里)は教室の窓から、野球部の応援のためにバスをチャーターして出発していく吹奏楽部の姿を恨めしそうな目で眺めていた。折角の夏休みなのに、友子はほか十数名の女子生徒もろとも数学の補習を受ける羽目になっていた。どうにかしてこの苦行を抜け出したい、と目論んでいた友子の目に、吹奏楽部のバスが出発したあとで学校に到着し、動揺する弁当業者の姿が飛び込んでくる。怠けるためなら手段を選ばぬこの娘、数学の教師・小澤に向かって進言した。
怠けないのはみんな一緒、ということで数学の補習を受けていた娘達は雁首揃えて野球場へと赴いた。が、何気なく友子が弁当をひとつ開けてしまったら、ほかの生徒たちも飛びついてひと箱カラにしてしまうわ、揃って眠りこけてひと駅乗り過ごし歩いて戻る羽目になるわ……散々な思いをして到着した彼女たちを吹奏楽部の生徒たちは労ってくれるでもなく、憂さ晴らしに娘達は遊びに出かけた。
帰宅したあと、友子は友人からの電話に促されてテレビを点けて仰天する。あのあと、弁当を食べた吹奏楽部の生徒たちと顧問の伊丹先生(白石美帆)が揃って食中毒を起こし病院に担ぎ込まれたというのだ。炎天下にこれといった対策も講じず無造作に持ち運んだ弁当は――ついでに言えば、友子は一個、途中でぶちまけたものを詰め直していた――、当然の如く傷んでいたのである。
幸か不幸か、友子たちがひと箱無断で平らげてしまったお陰で食中毒にならずに済んだ唯一の吹奏楽部員・中村拓雄(平岡祐太)は、人事不省に陥った楽団の代わりに急遽全校に招集をかけて、野球部の次の試合に備えてにわか吹奏楽部を組織する役目を課せられてしまった――シンバル担当ながら未だに馴染めず、辞めるつもりでいた中村には重荷だったが、そのうえ突然の招集に応える生徒などそう多くあるはずもなく、やって来たのはバンドを解散したばかりで演奏する場に飢えていたギタリストの渡辺弘美(関根香菜)にベーシストの山本由香(水田芙美子)、それに縦笛しか吹いたことのない無口な少女・関口香織(本仮屋ユイカ)という絶望的な編成。暢気に笑いながら補習にやって来た友子たちを中村は思わず「なぜお前ら、そんなに笑ってられるんだす」と詰ってしまう。
――で、友子たちはにわか吹奏楽部に加わることになった。慚愧の念に囚われた、わけでは無論なくて、発端のときと同様にサボる口実にしようと目論んだ友子が小澤先生もろとも説得したのである。
吹奏楽部のアンサンブルに足りない人数をカバーするために中村が選んだのはビッグ・バンド・ジャズ。意に反して、上から虐げる者がいなくなった中村の指導による基礎訓練がけっこうきつかったが、関口が思いがけない素質を示して早くも音を出せるようになると持ち前の対抗心を発揮し、やる気を出し始める。着飾ることに執着するグループのリーダー的存在である斎藤良江(貫地谷しほり)はじめ、ほかの少女たちもやがて追随して、演奏する楽しさに目醒めていった。
試合の前日、まとまりはないけれどどうにか演奏の形らしきものは出来てきて自己満足に浸っていた友子たちだったが、そこへ全快した伊丹先生と吹奏楽部が戻ってきた。明日は大丈夫だから、あたしたちに任せて――屈託なく言う伊丹先生。ふて腐れて楽器を部員たちに返す友子たちだったが、帰り道、悔しさから泣き出してしまう。
野球部は次の試合であっさりと敗退し、夏休みもあっという間に終わった。あれ以来くすぶった思いを抱えていた友子はある日、使い方が理解出来ずに放置していたパソコンと妹のゲーム機を売り払って、中古のテナーサックスを購入した。ボロボロで色々と問題のある楽器だったけれど、初めて手にした自分のサックスを河原で吹いていた友子は、やはり不完全燃焼の気持ちを抱えて吹奏楽部を退部し、ひとりキーボードを弾いていた中村と再会する。
そうして、女の子たちによるビッグ・バンド・ジャズへの挑戦がふたたび始まった――![感想]
……ああっ、思わず最後まで書きそうになったじゃないかっ!
『ウォーターボーイズ』で青春映画にまだ新たな切り口があることを提示してみせた矢口史靖監督の久々の新作である。
題名からして前作を意識していることは確かだし、カタルシスの方向性はほぼ同一だが、そうした事実はいっさい疵になっていない。意識しすぎて前作で採用したスタイルを避けることなく、ごく自然に話を進めているのが功を奏しているのだろう。
前作もそうだったように、キャラクターがよく立っているので、話に入り込みやすい。怠けるためには手段を問わず、そのせいで毎回痛い目を見ているよーな鈴木友子、小心者だが几帳面でいったん本気になると妙にアクティヴな中村拓雄、惚れっぽくすぐに人を好きになるがその分派手なわりに真面目な一面のある斎藤良江、無口で引っ込み思案ながら実は資質に恵まれていた関口香織、欲求と行動がストレートに結びつく大柄な女の子田中直美(豊島由佳梨)、態度は不貞不貞しいが序盤から律儀に付き合い実はいちばんメンバーに貢献していた渡辺弘美に山本由香――とりあえず目立っているのはこのへんだが、脇役も雰囲気が完成されているので、綺麗に見分けがつき、それぞれの絡みが楽しい。
そして、導入からジャズバンドに挑む経緯、その後の話の流れまで、意外性を孕みつつも平明なストーリー展開が続くのも良い。いくら傷んだ弁当とはいえ被害には個人差があるはずで、それを押して全員病院送りにしビッグ・バンド結成の契機にしてしまう、偶然によるイノシシ退治の一幕の都合の良さ、いったんは離脱したメンバーが戻ったときの非現実的な状況、またラストでのどんでん返し的展開の御都合主義、など不自然な部分も見受けられるが、なんとなく許せてしまうのは、キャラクター性と“ビッグ・バンド・ジャズ”というテーマをよく押さえてコメディとして成立させているからだろう。野球の観客に「スイングしなきゃ意味ねえべ」と野次らせるくだり、小澤先生の隠れた趣味が発覚する際バックにかかっているのが(ちょっと確信は持てませんが)ジョン・コルトレーンであるという小細工、そして何より、信号でかかる音楽から布団叩きにまでジャズのリズムを見出してしまうあたりなどなど、このスタイルであるからこそのリズミカルな描写が随所にあるので、展開の不自然さを吸収して均してしまっている。とりわけイノシシとの追いかけっこのシークエンスは凄い。あんなものを見せられたらもうぜんぶ受け入れるしかないでしょう。
経緯は珍妙ながら、ビッグ・バンド・ジャズ本来の爽快さを率直に表現したクライマックスもまた素晴らしい。せっかく応募した音楽祭にいちどは出場不可を言い渡されるが、けれど演奏する楽しさを諦められず電車内で演奏する爽やかさ、そしてラストシーンでの演奏の実にキュートで格好いいこと。ここまでメインを張ってきた五人のソロパートもきちんと挿入し、楽曲の構成も巧い。序盤のダメダメっぷりをきちんと描いているだけに、最後の演奏の熱っぽさが見事に感動を齎している。
お話としては万事都合よく転がっている印象があり、少々平坦に思えるのだが、コメディにときおりシリアスな表現を交えるバランス感覚(でもだいたいあとでぶち壊されるんですけど)、緩急自在なテンポと登場人物、何よりビッグ・バンド・ジャズの魅力を最大限に利用し、“It don't mean a Thing, If it ain't got a Swing”――「スウィングしなけりゃ意味ないべ」を体現した良質の音楽映画にして青春映画に仕上がっている。細かな不自然さに気を取られるよりも、この爽快なリズムに酔いしれてください。出ている女の子はみんな可愛いんですが、個人的にツボだったのは(このサイトを前々から御覧の方は察していただけるでしょうけど)本仮屋ユイカ演じる関口香織でした。『3年B組金八先生』に出演していたときは、変わった名前の女の子がいる、ぐらいにしか認識していなかったのですが、本編の彼女は何というか、卑怯なぐらいに可愛い。初登場のとき中村に「楽器は何か出来る?」と訊かれて無言でリコーダーを差し出す仕種、パチンコ屋の前で演奏しているとき緊張のあまり眼鏡を落としてしまうところ、クライマックスで緊張し手許のおぼつかない仲間たちに一喝するくだりなどなど、ほかのキャラクターがほぼコメディエンヌ一直線であるなかで、彼女の言動はどこか愛らしさが際立っている――ように見えたのは私だけでしょうかいやそんなことはないはずだ多分。
(2004/09/18・2005/03/24追記)