cinema / 『箪笥』

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箪笥
英題:“A Tale of Two Sisters” / 監督・脚本:キム・ジウン / 製作総指揮:チェ・ジェウォン / 製作:オ・ギミン、オ・ジョンワン / 製作補:キム・ヨン / 撮影:イ・モゲ / 照明:オ・スンチュル / 編集:コ・インピョ / 美術:チョ・グンヒョン / 衣装:オク・スギョン / 音楽:イ・ビョンウ / 出演:イム・スジョン、ムン・グニョン、ヨム・ジョンア、キム・ガプス / マスルピリ・ピクチャーズ&ボム・フィルム・プロダクション製作 / アイ・ピクチャーズ提供 / 配給:COMSTOCK
2003年韓国作品 / 上映時間:1時間55分 / 日本語字幕:根本理恵
2004年07月10日日本公開
2004年12月24日DVD日本盤発売 [amazon]
公式サイト : http://www.tan-su.jp/
新宿シネマミラノにて初見(2004/08/07)

[粗筋]
 韓国の郊外にある、どこか寂れた一軒家。父ムヒョン(キム・ガプス)の運転してきた車から降り立ったのはスミ(イム・スジョン)とスヨン(ムン・グニョン)の仲睦まじい姉妹。
 部屋に戻ったときから、スミは言いようのない違和感を覚える。机には何故か自分が持ち帰ったのと同じ日記帳があり、クローゼットには同じ服が無数に並ぶ。出かけようとした姉妹の前に現れたのは、父の再婚相手ウンジュ(ヨム・ジョンア)だった。表面的にはふたりを歓待するウンジュだったが、その物言いはエキセントリックで、どこか冷たさがあった。
 その晩、奇怪な出来事がさっそく姉妹を襲った。寝室を訪れた不気味な気配に怯えたスヨンがスミの寝室に忍び込んできて、明け方にはスミがやはり怪しい影に襲われる奇怪な夢を見た。
 そして、それを契機に継母のウンジュまでも異様な出来事に遭遇するようになる。女性達が激しく訴えるのに、だが一家の主であるムヒョンは何故か無関心だった。ウンジュの弟夫婦が訪れた夜、弟の妻が卒倒するという怪事に遭遇しても、まだどこか娘達の言葉を無視しているようなふしがあった……
 もともと馴染まなかった継母と娘ふたりの関係はこの頃から更に悪化していく。遂に、ウンジュの可愛がっていた鳥が殺されるに至って、彼女は怒りを爆発させた――

[感想]
 ここの感想を度々チェックされている奇特な方はご存知だろうが、私は韓国産ホラーに対して厳しい。多分に相性の問題もあるのだろうが、納得するような出来の作品とはあまりお目にかかれていない。韓国産としてはごく初期に観た『少女たちの遺言』をやや消極的に認めているぐらいで、あとはほとんど厳しい評価を下している。
 そういう意味で本編は初めてに近い例外である。実に端正に作られた秀作だと思った。
 まず、雰囲気が非常にいい。メインとなる姉妹の微笑ましくもどこか脆い雰囲気に、彼女たちの継母の冷酷そうでいてエキセントリックな所作、異様な影を纏った父親の謎めいた行動、何よりも一見これといった変哲のない彼女たちの家が醸しだす怪しげな気配。怪奇現象をメインに据えているが、恐怖感の演出は寧ろ怪奇現象そのもので盛り上げるのではなく、その前後の描写を静かに、繊細に行うことで補強している。
 肝心の現象を提示するタイミングもまた巧みだ。詳述は避けるが、絶妙のタイミングで立ち現れる怪異は時として予想を裏切り別の時には予想をなぞっている。決してどちらにも偏っていないことが余計にその瞬間の恐怖を高めているのである。
 そして、ただ恐怖を演出するだけに終わらないプロットが秀逸だ。序盤から周到に伏線を張り巡らせ、それが回収されていく中盤からの展開はまさに衝撃的である。丁寧すぎるうえに、発想そのものは珍しくないためにある程度まで読むことは可能だが、それでも更に予測を超える展開があり、またそのアイディアをうまく活用していることも好感に繋がっている。
 ただし、ばらまきすぎて意味不明、舌足らずに陥った伏線も少なからず認められる。序盤のある一見何でもないけれど怖気を誘う出来事や、父親や継母の経歴に関するヒントは過剰、或いは言葉が足りずに結末のあとも違和感を留める。謎解きの楽しみを残すと言えば聞こえはいいが、物語の背景や構成に確たる影響がなければ行き過ぎた飾りだ。特にクライマックスでの幾つかの出来事は、明らかに説明不能に陥っている。
 だが、そういった疑問点も、この配慮の行き届いたラストシーンに触れたあとではちょっと口にしにくくなる。謎を解いたあとで更にとどめのような一幕を設け、恐怖を留めると共に胸に迫るような深い余韻を残す。アイディア一本槍ではなく、それを如何に物語の深みに繋げるかを考慮しているのがよく解る結末だ。
 韓国産に限らず、今年観たホラー映画の中でいまのところトップクラスの出来。ちょっと見直しました韓国ホラー。

(2004/08/07・2004/12/25追記)


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