cinema / 『TRICK −劇場版2−』

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TRICK −劇場版2−
監督:堤幸彦 / 脚本:蒔田光治 / エグゼクティヴ・プロデューサー:亀山慶二 / プロデューサー:桑田潔、蒔田光治、佐藤毅、山内章弘 / ラインプロデューサー:渡邊範雄 / 監督補:木村ひさし / 撮影:斑目重友 / 美術:稲垣尚夫 / 映像:中村寿昌 / 照明:川里一幸 / 録音:中村徳幸 / 編集:伊藤伸行 / 助監督:神徳幸治 / 音楽:辻陽 / 主題歌:Joelle『ラッキー・マリア』(Universal J) / 制作担当:祷映、杉原奈実 / 出演:仲間由紀恵、阿部寛、野際陽子、生瀬勝久、片平なぎさ、堀北真希、平岡祐太、上田耕一、北村有起哉、綿引勝彦、大島蓉子、アベディン・モハメッド、瀬戸陽一朗、池田鉄洋 / ナレーション:森山周一郎 / 製作:テレビ朝日、東宝 / 共同製作:プロダクション尾木、朝日放送 / 制作協力:オフィスクレッシェンド / 配給:東宝
2006年日本作品 / 上映時間:1時間51分
2006年06月10日公開
公式サイト : http://trick2.jp/
TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて初見(2006/06/10)

[粗筋]
 自称天才マジシャン、しかし現実は家賃の支払いにも汲々とする貧乏人・山田奈緒子(仲間由紀恵)は、とうとう他のマジシャンのアシスタントに甘んじてまで収入を得ようとするが、貧乳ゆえ舞台受けが悪く、果てには金魚の糞のようにつきまとう、日本科学技術大学教授上田次郎(阿部寛)の妨害で大失敗をしてしまい、結局この仕事も失うことに。
 毎度の如く大家の池田ハル(大島蓉子)から最後通牒を突きつけられ窮した奈緒子に、上田もまた例の如く怪しげな儲け話を持ちかけてきた。
 先日、上田のもとを青沼和彦(平岡祐太)という青年が訪ねてきた。作物が育たず“不毛”の名で呼ばれながら、それを誤魔化すために“富毛村”と称した土地からやって来た彼の頼みは、10年前に行方不明となった幼馴染みの少女を連れ戻すこと。かくれんぼをしていてふいと姿を消した彼の幼馴染み・西田美沙子(堀北真希)は、だが実際には霊能力者を自称する筺神佐和子(片平なぎさ)によって拉致され、ずっと東京の離島である筺神島に幽閉されていたらしいのだ。近日、その美沙子から突如手紙が届き、そのなかには「殺されるかも知れない」という危機感が綴られていた。救出の報酬は、村に隠されているという財宝――
 他にどうしようもなく、奈緒子は上田の漕ぐゴムボートに同乗して筺神島に潜入する――が、佐和子が率いる“命運共同体 箱のゆーとぴあ”の面々に発見されてしまう。上田の機転で入信者を装い、二人はどうにか内部への潜入に成功する。
 二人の案内役を任された伊佐野銀造(北村有起哉)はかつては佐和子の力を疑問視していた島民の一人だったが、佐和子が崖下にある巨石を崖の頂にまで手も触れずに押し上げるさまを目の当たりにして以来、熱心な信者に変じた男だった。彼の案内で問題の巨石や、奇妙な修行風景を実際に見届けた奈緒子は、やはり佐和子もまたインチキ霊能力者である確信を得る。
 信奉者たちの前で、組み立てられたばかりの箱の中から忽然と姿を現してみせたり、指輪を消してみせたり、自分の入った箱を焼かせたあとで無事の姿で戻ってくる、というパフォーマンスの仕掛けを見抜いて思わずケチをつけそうになってしまう奈緒子を上田は押し留め、他の信者たちが寝静まった夜遅くを狙って、肝心の美沙子探しに赴く。まったく思いがけない場所に幽閉されていた美沙子を無事に発見した二人は彼女を連れて海に脱出しようとしたが、二人の乗ってきたゴムボートは沈められており、そうこうしているうちに信奉者のリーダー的存在・佐伯(上田耕一)らに追い詰められてしまう。
 窮した上田は、あろう事か奈緒子を裏切り者として告発し保身を図った。囚われの身となって突き出された奈緒子に、佐和子は「もし自分がインチキというのなら、自分と同じように、箱に閉じこめられ、焼かれてみせなさい」と言う――

[感想]
 本当に根強いファンがいるのだろう――私も含めて。最初のTVシリーズ開始から6年、前回の劇場版からは3年半、前の連続ドラマ版からでも3年近く経過して、ふたたび劇場版が製作されるとは。第一シリーズからのファンとしては喜ばしい限りだが、もはやこの成り行き自体が昨今の視聴者や制作者側のスタンスからすると異例であり、脅威である。
 とはいえ、第一作のころと比較すると主要キャストがいずれも多忙となり、立役者である堤幸彦監督もかつて以上に扱う作品の幅と本数とが拡がっているため、以後も作り続けるのは至難の業である、という判断を制作者側もしているのだろう、いちおう最後であると表明し、本編の中にもそれらしいことが随所に仄めかされている。
 そのことに一抹の寂しさは禁じ得ないが、他方話運びは驚くぐらいに今まで通りである。シリーズの象徴とも言えるイラストを用いたプロローグと森山周一郎によるナレーション、敵方の怪しげな行動を挿入し、毎度ながらマジックの仕事をクビになる奈緒子の様子、そこに忽然と現れて怪しい話を持ちかけてくる上田、という流れは定番であるし、奇術を用いたエセ霊能力者という敵方の位置づけもまるで変わらない。
 すっかり手品の種明かしに終始した話運び、いささか牽強付会に過ぎる動機付けなど、ミステリとして眺めたときの構造の脆弱さも相変わらずだ。またいつになく多くのトリックが用いられているが、名作ミステリに類例があるのは仕方ないとしても(その点に目くじらを立てていると自分の足を掬いかねないミステリ書きのジレンマというのもある)、大半同じシリーズの中で提示済のものであるというのはやや引っかかる。
 ただ、そこでこのシリーズが巧い、と言えるのは、同じ仕掛けでも扱い方に趣向を凝らしていることだ。詳述はしないが、シリーズのファンであっても再利用だと咄嗟に気づかない人もあるだろうし、気づいたとしても貶すよりはその気の利いた応用に感心する人のほうが多いに違いない。また、唯一新たに仕組まれたトリックについては、これでもかとばかりに繰り返して用いているが、そのタイミングと工夫とが絶妙で、作品に一貫性を齎している。本シリーズに限らず、ミステリのトリックはとうにタネが尽きており、腕を問われるのは寧ろ、何処かで目にしたようなアイディアを如何に個性的に見せかけるかだ、と個人的に考えており、その意味で本編は申し分のない腕を披露していると言えよう。
 基本的な展開もシリーズのパターンをなぞっているが、シリーズ最後になるかも知れない、という前提もあってか、贅沢にも(?)ふたつも舞台を用意しており、いつになく起伏が激しい。また何より、幾ら筋が定番通りであろうと、それを固める登場人物たちの個性が極端なまでに際立っているので、それらが縦横無尽に絡みあうさま、はたまた何故か異様にリスペクトされているゆーとぴあに頻出する往年のギャグ、片平なぎさのお子様には解りにくい白手袋ネタ、演じている堀北真希も試写まで知らず驚いたという美沙子の目から星ビーム、矢部のカツラネタを進化させた可動式モザイクの多用などなど、微妙ながらもツボを突いてくる小ネタが無数に注ぎ込まれている面白さだけでも充分に楽しめてしまうのだ。連続シリーズで三本、それに劇場版・新作スペシャルと積み重ねて育ててきた芸風がここに来て極まった印象がある。
 連続シリーズからしてエピソードごとに主要登場人物の入れ替わりがあり、冒頭には前述のようなお約束の展開があって道化廻しとなる奈緒子・上田の関係性や大雑把な背景は認識できるため、比較的何処からでも入りやすい。シリーズとしての芸を踏襲しているが、それ故にファンならずとも楽しめる、優秀なスラップスティック・ミステリに仕上がっていると言えよう。些か強引な物理トリックや、細部のシュール極まりない素材を許容できることが前提だが、そのくらいの遊び心は欲しいものです。

(2006/06/10)


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