cinema / 『アンダーワールド:エボリューション』

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アンダーワールド:エボリューション
原題:“Underworld Evolution” / 監督・原案・製作総指揮:レン・ワイズマン / 脚本・原案・製作総指揮:ダニー・マクブライド / 製作:トム・ローゼンバーグ、ゲイリー・ルチェッシ、デヴィッド・コートスワース、リチャード・ライト / 製作総指揮:スキップ・ウィリアムソン / 製作総指揮・視覚効果スーパーヴァイザー:ジェームズ・マッケイド / 撮影監督:サイモン・ダガン,A.C.S. / 美術監督・クリーチャーデザイン:パトリック・タトポロス / 編集:ニコラス・デ・トス / 衣装:ウェンディ・パートリッジ / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:ケイト・ベッキンセール、スコット・スピードマン、トニー・カラン、シェーン・ブローリー、スティーヴン・マッキントッシュ、デレク・ジャコビ、ビル・ナイ / レイクショア・エンタテインメント製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment
2006年アメリカ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:風間綾平
2006年04月22日日本公開
公式サイト : http://www.sonypictures.jp/movies/underworldevolution/
VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズにて初見(2006/05/02)

※注・前作『アンダーワールド』の内容に一部抵触しております。前作をご覧でない場合は、その点ご了承の上お読みください。





[粗筋]
 ヴァンパイアとライカンの抗争は、戦闘員や幹部たちの複雑に入り乱れた思惑によって予想外の過程を辿り、長老のひとりヴィクター(ビル・ナイ)の死という結末を迎える。ヴィクターを手にかけたために、かつてライカンの処刑者であったセリーン(ケイト・ベッキンセール)は一転、すべてのヴァンパイアから追われる身となった。
 一連の騒動でヴァンパイアとライカン双方の血を受けた混成種となったマイケル(スコット・スピードマン)と共に逃避行に出たセリーンは、助かるための唯一の道として、屋敷にて封印されているもうひとりの長老マーカス(トニー・カラン)の復活を促し、申し開きをして自分たちの無実を証明してもらうことを考えた。彼女はマイケルを、武器やヴァンパイアのための食料=輸血用パックを保管したアジトに留まらせると、単身屋敷へと舞い戻る。
 だがその頃、マーカスは屋敷で繰り広げられた争闘による夥しい流血を受けて、人知れず復活を遂げていた。やって来たヴァンパイアの副官クレイヴン(シェーン・ブローリー)の血を吸うことで一部始終を知ったマーカスは、自らの求めるものをセリーンとマイケルとが持っていることを察知し、彼女を探し始める。
 セリーンに、これからは人間とは違う生き方をしなければならないのだから、と輸血用パックで飢えを癒すよう言われたマイケルだったが、しかしどうしても受け入れられず、アジトからほど近い人里に出て食事を摂ろうとする。だが、食堂での不審な挙動に目をつけられ、折悪しくテレビの報道でマイケルの顔が流れてしまったために、騒動に発展してしまう。
 騒動を察知して急襲してきた連中は、舞い戻ったセリーンとともに何とか追い払ったものの、続いてやって来たマーカスと戦闘状態に陥る。マイケルが首に提げていたペンダントを狙うマーカスを何とか退けると、ふたりは陽光を避けて廃工場に潜伏する。
 僅かな余暇を惜しむように抱き合ったあと、セリーンはどうにか守りきったペンダントに触れた拍子に、幼い頃の記憶を断片的に蘇らせる。どうやらセリーンとその家族は、ヴァンパイアにまつわる何らかの秘密を握っていたために、殺害された可能性がある――
 真相を知るために、セリーンはかつてヴァンパイアの年代記編纂者の役を負いながら、虚偽を記したとしてヴィクターの不興を買い幽閉されたタニス(スティーブン・マッキントッシュ)を訪ねる。
 実はクレイヴン同様にライカンと内通し、兵器などを供給していたタニスは、閉じこめられたとは思えぬ贅沢な暮らしを送っていた。そんな彼を追い詰め、セリーンたちは背景を問い詰める。やがて渋々開かれたタニスの口から、セリーンたちの想像を絶した真実が語られた……

[感想]
 定番である怪物・ヴァンパイアとライカン=人狼の要素を現代的な解釈で膨らませ、統一感のある映像によって好評を博した『アンダーワールド』の続編である。
 既に世界観が確立されているので、その点での不安はほとんど感じない。但し、様々な陰謀が交錯し、謎解きが行われた前作のあとを受けているために、前作のネタバレが随所で行われているし、大した説明も為されていないため、前作を観ていない、或いは前作の細部を忘れている状態で鑑賞するとなかなか理解に苦しむ。絶対に必須ではないものの、余計な混乱を避け虚心に楽しみたいのであれば、予習としてDVDなどで前作を鑑賞しておくのが無難だろう。
 但し、仮にそうして知識を補った上でも、観ていて混乱する可能性は高い。率直に言って、シナリオの整理整頓がなっていないのだ。もし、セリーンたちがやがて知ることになる真相をサプライズとして演出したかったのなら、序盤をもっと工夫するべきだったし、ああして初っぱなにきちんと打ち出すのであれば、クライマックスにおいて収束していく要素を伏線として効率よく配置するべきだった。前作の物語を受けたうえに更に増やされた登場人物のためにそうでなくても全体像が把握しづらくなっているのに、人物それぞれの目的や動機が充分に示されないまま話が進んでいくために、とっ散らかった印象を強めているのである。
 しかし、アクション映画としての完成度は非常に高い。前作のように、たとえば床に向かって二挺拳銃を乱射し、崩れた床材もろとも階下に侵入するといったインパクトのあるアイディアこそなくなっているが、アクションそのもの迫力と衝撃は充分だ。ライカンの血を受けたことで自らも混血種となった長老マーカスと、若き混成種マイケルの、超越した身体能力を備える者同士の壮絶極まりないバトルにはじまり、タニスの幽閉された場所における空間の狭さを活かした戦闘、そしてクライマックスにおける、特殊部隊と最強の敵と入り乱れたアクションなど、ガジェットの扱いは比較的シンプルなものが多いが、見所はふんだんに用意されている。
 舞台が山野に拡がったぶん、前作のようなセット・デザインや色彩の統一感は失われているものの、ゴシック・ホラー風の美術に、ヒロイン・セリーンのレザーを主体とした衣裳、特殊部隊の兵器などの拘りのある小道具は健在で、映像のセンスは傑出している。錆びついた雰囲気のある映像のなかで繰り広げられるアクションを眺めているだけでも、本編は充分に楽しめるだろう。
 シナリオについてはどうしても歯痒いものを感じてしまう。物語の軸には大まかに三つの“愛情”が存在しているのだが、これらを巧く対比させる、それぞれを台詞なり描写なりで交錯させて互いを掘り下げるような工夫があれば、多少整理が甘くても、その精度を増すことが出来ただろうに、と惜しまれてならない。ただ、丁寧に盛り込まれた設定や、僅かながらも堅実な感情描写は繰り返しの鑑賞にも堪えうるもので、極めて優秀なアクション映画と言っていいだろう。可能であれば前作を観てから、という但し書きをつけたうえでながら、お薦めできる仕上がりである。

(2006/05/05)


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