cinema / 『ヴィレッジ』

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ヴィレッジ
原題:“The Village” / 監督・脚本:M.ナイト・シャマラン / 製作:M.ナイト・シャマラン、スコット・ルーディン、サム・マーサー / 撮影監督:ロジャー・ディーキンス,ASC,BSC / プロダクション・デザイン:トム・フォーデン / 編集:クリストファー・テレフセン,A.C.E. / 衣装デザイン:アン・ロス / 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード / 出演:ホアキン・フェニックス、ブライス・ダラス・ハワード、エイドリアン・ブロディ、シガニー・ウィーバー、ウィリアム・ハート、ジュディ・グリアー、ブレンダン・グリーソン、マイケル・ピット、チェリー・ジョーンズ / タッチストーン・ピクチャーズ&スパイグラス・エンタテインメント製作 / 配給:ブエナ ビスタ インターナショナル(ジャパン) / DVD発売元:Pony Canyon
2004年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:松浦美奈
2004年09月11日日本公開
2005年04月22日DVD日本版発売 [amazon]
公式サイト : http://www.movies.co.jp/village/
ヴァージンシネマズ六本木ヒルズにて初見(2004/09/11)

[粗筋]
 村の墓地に新たに建造された墓碑に刻まれた文字は“ダニエル・ニコルソン 1889-1897”。棺に接吻して泣き崩れるダニエルの父オーガスト・ニコルソン(ブレンダン・グリーソン)を見つめながら、ある“決意”を固める若者がいた。
 そこは、奇妙な掟に支配された村だった。四方を立ち入りの禁じられた森に囲まれ、赤い色のものを禁じ見つけた場合は速やかに隠す。禁忌に触れれば、森に住む者――“口に出してはならない存在”が村を訪れ、災いを齎すという。ゆえに村は外界との交流の一切を断ち、自給自足の慎ましやかな暮らしを送っていた。
 多くの住民達はこの平穏だが幸せな生活に満足していたが、前々からこの現状を打破したいと念じている若者がいた。彼――ルシアス・ハント(ホアキン・フェニックス)は自分同様無口で穏やかな性格だった幼いダニエルと仲がよく、彼の死をきっかけに、町に出て薬などを手に入れることを年長者たちに提案する。ルシアスの念頭には、知的障害を抱えるノア・パーシー(エイドリアン・ブロディ)と、幼い頃からほとんど目が見えないアイヴィー・ウォーカー(ブライス・ダラス・ハワード)のことがあった。不幸な死から親しい人々を救うためには、町に出て薬や知識を取り入れる必要がある、と。
 ルシアスの勇気と誠意には理解を示しながらも、アイヴィーの父エドワード・ウォーカー(ウィリアム・ハート)ら年長者は彼の提案を拒絶した。ルシアスの母・アリス(シガニー・ウィーバー)も息子に対し、外界に対して興味を抱かないよう諭すが、ルシアスは納得出来なかった。この村には秘密が多すぎる。森に住むという“口に出してはならない存在”の正体もさることながら、家々にひとつずつ存在する封印された箱の中には何が入っているのか、そもそも年長者たちはいったいどこまで知っているのか? 猜疑心は同時にルシアスの正義感と、もうひとつの想いを加速させ、ますます彼を森の外へと駆り立てつつあった。
 もうひとつの想いは、常にアイヴィーのほうを向いている。ルシアスの外界に対する熱望と呼応するように、村では奇妙な出来事が発生しはじめていた。村で飼われていた犬が、首をひねり殺され毛皮だけ剥がれた状態で打ち棄てられる。禁忌や人間同士の感情に顧慮しないノアが誰にも気づかれないうちに森へと忍び込み、禁じられた色の実を拾って村の中に持ち込んでいた。ある晩、村を襲ったそれは、家々に警告を示す赤い印をつけて去っていった――
 ルシアスは村と森との境界を示す標識に近づいたとき、その境界を越えてノアの持ち込んだものと同じ赤い実を拾ったことを打ち明ける。エドワードたち年長者は、村の人々に対する想いから禁を犯した彼を決して責めはしなかった。だが、やがて訪れた、アイヴィーの姉キティ(ジュディ・グリアー)の婚礼の晩、人々が宴に浮かれるさなか、それはふたたび姿を現すのだった……

[感想]
 M.ナイト・シャマラン監督の前作『サイン』に首をひねった方は、恐らく少なくないだろう。『シックス・センス』『アンブレイカブル』と同様に作品を貫く仕掛けはあるものの、一種宗教哲学的な決着であり、にわかには受け入れられないと感じた人もあるはずだ。或いは、あの大きな仕掛けを軸にした作風に早くも限界が訪れたのか、と危惧した人もいたのではないか。
 そういう意味では、本編はひとまずファンを安堵させる作品と言える。明確な大仕掛けがあって、ほとんどの伏線はその解決のために奉仕する、実に潔い構成となっている。ネタそのものは決して独創的ではない――ごく一般の観客にとってみれば充分に衝撃的な物語かも知れないが、ミステリやSF、ホラーなど構成に趣向を凝らしたフィクションに馴染んだ人々からすれば、ちょっと説明しただけで「ああ、あれか」と頷ける仕掛けである。極論すれば、観るまでもなく予備知識だけで察知することさえ可能だろう。
 だがこの場合、仕掛けについた手垢を云々するよりも、それを映像という形で明確に構築していった意欲と、その仕掛けのうえにきっちりとドラマを積み重ねていった手腕をこそ評価するべきだろう。若干練り込みが浅く、設定に不自然さを残してしまったが、大仕掛けがきちんとキャラクターの肉付けに意味を与えたばかりでなく、彼らの動機付けやロマンスにさえ大きな価値を付与したことも確かなのだ。
 シャマラン監督は現代の映像作家のなかでも飛び抜けて、“自分の作風”を確立している人物である。これ以前の三作ではすべて主要な舞台として彼の郷里でもあるフィラデルフィアを設定しており、本編では初めて異なる土地を舞台に設定しているものの、ノスタルジックな建築の手触りなど、その雰囲気をきっちりと留めている。色遣いが明確で角度をつけたカメラワーク、それにジェームズ・ニュートン・ハワードの不気味さを演出しつつもロマンスの匂いを漂わせた音楽などなど、一貫した作風が確かに存在する。プロットに隠された大仕掛けも、その一つなのだ。
 従って、これまでの作品に(たとえ不満があったとしても)愛着を感じられるような方であれば、かなりの満足を得られる作品となっている。だが、『シックス・センス』でさえ反りの合わないものを感じるような方ならば――あまりお薦めは出来ない。一方で、まだシャマラン監督の作品に触れたことがないという方が、試しにいちど御覧になるには相応しい作品だと思う。長所も短所も含めて、当代屈指の個性派・シャマラン監督らしさがよく詰まっている。

 さて。
 シャマラン監督と言えば、作品を貫く大仕掛けと同時に、必ず自作に出演することでも知られている。『シックス・センス』では母親に虐待の疑いを仄めかした医師、『アンブレイカブル』では主人公にボディ・チェックをされる男、『サイン』では主人公たちに大きなヒントを残して家を捨て逃げ出していく男、という具合。
 尊敬するヒッチコックに倣った趣向であり、それだけなら愛すべき稚気と言ってもいいのだけど、どうもヒッチコックと比べると露出が多すぎるのが気になるところだ。特に前作『サイン』ではメル・ギブソン演じる主人公の妻を事故で死なせ、そのうえ主人公たちが危機を脱するために大きなヒントを齎していくという、目立たないとは言っても非常に重要な役柄を演じている。こうなると“遊び心”の域を脱して“ギャグ”と紙一重のところまで来てしまっており、下手をすれば作品世界を壊しかねない。まだ『サイン』では役柄がシリアスであったためすんでのところで踏み止まっていたが、今回は果たして――という危惧を抱いていた。
 誰しも似たようなことを考えるようで、シャマラン監督に対してそんな質問を投げかける人物は少なくなかったらしい。すると、出過ぎてはギャグになってしまうということはさすがに自覚していたようで、今回は控えめにした、といった趣旨のコメントがあったそうだ。ちょこっとだけ胸を撫で下ろしつつ、いざ鑑賞してみたところ……
 ……監督。悪いけどこれは立派にギャグです。ある意味いちばん美味しいところで顔を出してどーすんですかあんたは。まあ、正直私は嫌いじゃないんですけど、真面目な人はあとで怒るぞこれ。

 本編が全米公開されたしばらくあと、ちょっとした騒動が持ち上がった。本編のトリックが、先行する児童書と酷似している、というのである。アメリカでは50万部を売り上げたその作品の著者が観て気づいたという。全体の仕掛けをはじめ、おてんばなヒロインの存在などが共通している、というのだが……ちょっと待て。
 前述の通り、本編の仕掛けは決して独創的なものではない。前例はあまたあるし、ごく最近でも一篇、日本で小説として書かれた例を上げることが出来る。それが特定の作者の占有するアイディアと言えるのだろうか? また、報道では“おてんばなヒロイン”としか書かれていないので詳細は解らないが、その程度は創作では定番――まして児童書ならなおさらだ。だいいち、本編のヒロインの方向性は“気丈”という表現は当て嵌まっても“おてんば”というのとは微妙に違う。それ以上に、もっと明確で作品にとっても大きく寄与する設定“盲目”は一致していなかったのか。もしこれが一致していないのなら、本編とはほぼ別物と断じてもいいと思うのだが。
 そんなわけなので、採りあげておいて何だが、これから観る方は盗作云々を顧慮する必要はないだろう。

(2004/09/13・2005/04/21追記)


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