cinema / 『X−MEN2』

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X−MEN2
監督:ブライアン・シンガー / 脚本:マイケル・ドアティ&ダン・ハリス / 原案:ブライアン・シンガー、デイヴィッド・ハンター&ザック・ペン / 製作:ローレン・シュラー・ラドナー&ラルフ・ウィンター / 製作総指揮:アヴィ・アラド、スタン・リー、トム・デサント&ブライアン・シンガー / 撮影監督:ニュートン・トーマス・シーゲル、ASC / プロダクション・デザイナー:ガイ・ヘンドリックス・ディアス / 音楽・編集:ジョン・オットマン / 特殊効果スーパーバイザー:マイケル・フィンク / 特殊メーキャップ・デザイン:ゴードン・スミス / 衣裳デザイナー:ルイーズ・ミンゲンバック / 出演:パトリック・スチュワート、ヒュー・ジャックマン、イアン・マッケラン、ハル・ベリー、ファムケ・ヤンセン、ジェームズ・マーデン、レベッカ・ローミン=ステイモス、ブライアン・コックス、アラン・カミング、ブルース・デイビソン、アンナ・パキン、ケリー・フー、アーロン・スタンフォード、ショーン・アシュモア / 配給:20世紀フォックス
2003年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 字幕:戸田奈津子
2003年05月03日日本公開
公式サイト : http://www.foxjapan.com/movies/x-men2/
日劇PLEX1にて初見(2003/05/03)

[粗筋]
 全世界を震撼させた、自由の女神像を舞台にした事件から数年。膠着状態にあった人類とミュータントとの関係に波紋を齎す事件が発生した。青い肌に長い尻尾、悪魔のような容姿に瞬間移動の特殊能力を備えたミュータント・ナイトクロウラー(アラン・カミング)がその能力を駆使してホワイトハウスを襲撃した。あわやというところで大統領暗殺は食い止められたが、議会ではふたたびミュータント登録法を俎上に乗せる動きが活発となり、過激なものは全ミュータントの拘束を叫ぶようになる。その急先鋒は、元陸軍司令官であり、対ミュータント政策に熱意を示す大富豪ストライカー(ブライアン・コックス)だった。
 同じ頃、プロフェッサーX(パトリック・スチュワート)が経営する私立学園エグゼビア・スクールをひとりの男が訪れた。彼はウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)――自由の女神像で発生した事件に、プロフェッサーXらとともに関わり、ミュータントの危機を回避するのに一役買った人物である。ウルヴァリンと一時期旅を共にした少女ローグ(アンナ・パキン)をはじめとする仲間たちと再会の挨拶を交わし、当分滞在させて欲しいと申し出ると、代わりにプロフェッサーXから“子守”を仰せつかった。大統領暗殺未遂の事件の裏を探るために、主力がスクールを留守にするためだった。
 Xの部下であるストーム(ハル・ベリー)とジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)のふたりは、プロフェッサーXの能力で割り出した大統領暗殺未遂の犯人のもとを訪ねる。果たして当事者であるナイトクロウラーは、衆人環視の中大胆な挙に出たことが信じがたいほど穏やかで、信心深い男だった。事件前後の記憶を喪っており、首の後ろに謎の傷跡がある。ふたりはひとまず彼をスクールに連れて行くことにした。
 一方、プロフェッサーXはサイクロップス(ジェームズ・マーデン)とともに、かつての友人であり今は自由の女神像事件の首謀者として特別製の監房に囚われているマグニートー(イアン・マッケラン)との面会に向かった。暗殺未遂事件について知っていることがないか確かめるためだったが、待合室ではサイクロップスが何者かの襲撃にあって昏倒し、監房には催眠ガスが流し込まれる。ふたりは瞬く間に、首謀者の手に墜ちたのだ。
 主力が欠けた時期を見計らったかのように、エグゼビア・スクールは軍隊の襲撃を受けた。数名が囚われの身となる中、ウルヴァリンは懸命に立ち回り子供達を逃がし、自らは敵の戦力を引きつけるために進んで矢面に立つ。だが、そんな彼の前に現れたストライカーは意味深なことを口走る――

[感想]
 2000年に公開され大ヒットとなった『X−MEN』の続編である。原作のキャラクターと精神のみを引き継ぎ、デザインや社会状況、人間関係からストーリーに至るまで再構築を行った前作は、如何にも『ユージュアル・サスペクツ』で名を成した監督らしくキャラクター描写と独特の美学を漂わせた秀作に仕上がっていたが、続編となる本作はその完成された世界観を踏襲して更に世界を膨らませることに成功している。
 主要登場人物のすべてが特殊能力者であるため、物語は群衆劇にならざるを得ない。こと本編ではプロフェッサーXを核とするミュータント組織X−MENに対立するマグニートーたち、それに故あってミュータントに憎悪を燃やすストライカーの率いる組織が加わり、つまり都合三つの意志が事件に関わってくるため、話が込み入ってくる。そのうえX−MENの内部でもウルヴァリン、ジーン・グレイ、サイクロップスの三角関係にローグとアイスマン(ショーン・アシュモア)の悩みなどが描かれ、冒頭は流石にゴタゴタとした印象がある。
 が、それらが中盤から少しずつ収束していき、緊迫感も増していくくだりは実に巧い。ウルヴァリンの過去に纏わる物語を軸にしながら、図らずも本来仇敵同士であるはずのX−MENとマグニートーたちが同じ目的のために手を携えるくだり、そしてクライマックスへの話運びも伏線を張りながら見事な裏切りを決めてくれる。
 その一方で、ちょこちょことコミカルな描写も混ざっているのが嬉しい。それも、この辺がいちおうメインを張っているという気概になるのか、ウルヴァリンが細々と妙なことをしてくれるのが楽しいのだ。特にスクールが襲撃されたあと、ウルヴァリンはローグたち若いミュータント三人と共に逃走するのだが、そこから次に見つかるまでの展開にはシリアスな描写に混じってお遊びが随所に挟まれている。登場人物が増えたぶん各キャラクター、特にウルヴァリンのアクション場面は前作と較べかなり減ってしまったが、その分こうした見せ場が増えているのはやはり貫禄と言うべきだろう。
 そして何より特筆すべきは、誰ひとり無駄な登場人物が存在しないこと。名前が正面に出ている登場人物はひとり残らず、その特殊能力に応じた見せ場や活躍の場が用意されており、全員が物語に奉仕していること。続編は成功しにくい、とよく言われるが、本編については格段の成長を遂げたと言っていい。
 アメコミの映像化としても、アクション映画のシリーズ物としても完璧な仕上がり。『スパイダーマン』も『デアデビル』もそれぞれに良さはあるが、作品精神を継承しながらオリジナリティを打ち出している点で間違いなく本編が一歩抜きんでている。
 なお、必要な設定や約束事はきちんと説明されるため、本編のみを見ても充分に楽しめるだろうが、可能な限り予習として前作を鑑賞しておくことをお薦めしたい。

 聞くところによると既にパート3の企画も始まっているとか。このヴォルテージが継続する限り、今後も充分に期待できる。個人的にブライアン・シンガー監督には、『ユージュアル・サスペクツ』から一貫して見せるキャラクター描写の巧さと色事に傾斜しきらない硬さを、ふたたびオリジナルの、現実的な世界を舞台とした作品で披露していただきたい、とも思うのだが。

 ちなみに個人的にいちばんお気に入りのキャラクターは、冒頭でいきなりかましておきながら中盤以降はまるっきり別の顔を見せるナイトクロウラーである。何処を切っても妙な愛嬌がある。
 それとは別の意味で気になったのが、日本人のミュータント・デスストライク――を演じたケリー・フーだ。何が気になるって、つい最近見た別の作品で演じていた役柄と色々被っているもんで……。問題の作品は『ブラック・ダイヤモンド』である。既に一般公開は終了しているので、双方のビデオ・DVDが出てからご確認いただきたい。振り返ると、結構笑えます。

(2003/05/03)


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