cinema / 『ブラック・ダイヤモンド』

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ブラック・ダイヤモンド
原題:“CRADLE 2 THE GRAVE” / 監督:アンジェイ・バートコウィアク / 製作:ジョエル・シルバー / 製作総指揮:ハーバート・W・ゲインズ、レイ・コープランド / 原案:ジョン・オーブライアン / 脚本:ジョン・オーブライアン、チャニング・ギブソン / 音楽:ジョン・フリゼル、デイモン・“グリース”・ブラックマン / 撮影:ダリン・オカダ,A.S.C. / 編集:デレク・G・ブレッキン / アクション監督:コーリー・ユン / 共同製作:スーザン・レヴィン、メリナ・ケボキアン / 出演:ジェット・リー、DMX、アンソニー・アンダーソン、ケリー・フー、トム・アーノルド、マーク・ダカスコス、ゲイブリエル・ユニオン / 配給:Warner Bros.
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間41分 / 字幕:小寺陽子
2003年03月29日日本公開
公式サイト : http://www.warnerbros.co.jp/blackdiamond/
東劇にて初見(2003/04/05)

[粗筋]
 ロスアンジェルスの地下鉄線路脇のパイプラインに侵入したふたりの男。天井に目印が記された地点にたどり着くと、リーダー格のトニー・フェイト(DMX)は別の場所にいる仲間たちに連絡を取った。監視の目を惹き付けろ――
 フェイトとマイルス、トミー(アンソニー・アンダーソン)、そしてダリア(ゲイブリエル・ユニオン)の四人が狙ったのは、宝石商の厳重な金庫に隠された宝石群。その中でも、彼らがある男から指示されて狙っていたのは、一つの袋に詰められた無数の「黒い」ダイヤモンドだった。それだけをクライアントに渡せば、あとの収穫はすべてフェイト達の稼ぎになる、というのが彼らの間で交わされていた契約だった。問題のものを発見し、更に数え切れないダイヤモンドを手に入れて脱出の準備をしていたところで、突如フェイトの電話が鳴った。回線の向こうの見知らぬ男はフェイトに警告した。「他のダイヤモンドについては見逃してやる。黒いダイヤモンドだけは置いていけ」
 だがフェイト達にとって、これは今後を左右するほどの大きな仕事だった。地下鉄に戻るとフェイトは金庫で合流したダリアと、マイルスは単独で二手に分かれて逃走するが、その途中でマイルスは中国系の小柄な男(ジェット・リー)と遭遇する。その男は左手をポケットに収めたまま、驚異的な格闘術でマイルスを圧倒し、あっさりとマイルスの持っていた宝石を奪還してしまう。
 だが、マイルスの持っていた分に黒いダイヤモンドは含まれていなかった。舌打ちして、中国系の男はそのまま犯行現場へと向かった。現場の捜査官達は、彼が提示した身分証明書にあっさりと頷き、奥へ通した……
 フェイトは事態が思わぬ方向へ進んでいることに苛立ち、盗品専門のバイヤーであるアーチー(トム・アーノルド)のもとを訪れて問題の黒いダイヤモンドの鑑定を依頼する。取引の価格は想定も出来ない、というアーチーにひとまず石を託して、フェイトはクライアントが滞在するホテルに向かった。
 だが、クライアントはとうに何者かによって殺害されたあとだった。ほぼ時を同じくして現場を訪れた中国系の小柄な男――あの電話の主スーは、自分以外のものが殺害と黒いダイヤモンドを奪うために暗躍している、と告げた。そのとき、部屋の電話が鳴り、留守電に対して相手は「そこにいるなら出ろ、フェイト」と呼びかける。電話の相手はフェイトに「黒いダイヤモンド」を自分に返すよう取引を持ちかけるが、フェイトは拒んだ。何もかもに苛立ちながら、フェイトはその場を立ち去る。
 そのフェイトの車を、一台の車が追ってきた。カーチェイスの末肉弾戦に持ち込むが、一対二で不利は否めない。そこへ、あとから駆け付けてきたスーが意外にもフェイトに加勢した。辛うじて苦境を脱したフェイトの電話が再び鳴った。アーチーの店に暴漢が押し入り、黒いダイヤモンドを強奪していったというのだ。
 アーチーの話から、襲撃したのがフェイトのかつての恩人でもあるギャングの手の者だと察したフェイトは早速その人物のいる刑務所へ向かおうとするが、その矢先またしても電話が鳴った。それは先程、フェイトのクライアントの部屋にある電話を鳴らした人物であり、彼はフェイトの一人娘を誘拐したことを告げる。
 台湾諜報部の身分証明書を携えたスーの助力を受け、フェイトはギャング団と娘を誘拐した謎の組織、そのふたつを相手に危険な戦いに打って出た……

[感想]
 ここまで期待を一切裏切らない映画というのも相当珍しいと思う。
『ロミオ・マスト・ダイ』、『電撃』のスタッフが前者のジェット・リーと後者のDMXとを再び主演に招いて映画を作る、と言われて期待するようなものをほぼ完璧に詰め込んでいる。「スタント不要」とまで言われるジェット・リーと、彼の盟友であるアクション監督コーリー・ユン(にしてはクレジットでの扱いが小さいのが気の毒)による、キャラクター造形に拘った芸術的なアクション、DMXが得意としているというバギーを活用したカーチェイス、そして終盤には「そんなん持ち出せるか普通?!」と画面にツッコミを入れたくなるような大道具を駆使してのスペクタクル、ついでに数名のコミカルな登場人物によるコント紛いのやり取りまで、盛り込めるものはことごとく盛り込まれている。
 ただ、同じ監督・製作による前作『電撃』でも見られた欠点が充分に払拭されていないという問題もある。アクションを盛り込みながらある程度込み入った事件を演出しようとする意欲と、劇場公開である以上避けられない時間の制約とが衝突し、物語の展開がどうにもごたごたして未整理の印象があるのだ。『電撃』と較べると背後関係はシンプルなのでまだしも把握しやすいが、それでも雑多の感は否めない。
 とは言え、起きていることを漫然と眺めていても充分に楽しめるのがこのスタッフによる作品群のいいところである。ある程度キャラクター造形もきっちりと固めてあるため、アクションだけを鑑賞していても彼らの感情の変化を追うことは可能だし、動き自体が強烈な画面は物語を忘れても堪能できる。
 物語の鍵となる“ブラック・ダイヤモンド”の秘密には色々と珍妙な点もあるのだが、この程度はいわば「ちょっとした気紛れから始まる、世界規模の陰謀を巡る攻防」というアクションの常套を辿らせるお約束のようなもので大きく問題にする必要はない。というか、その程度のことを気にして否定するような向きははなからこーいう作品は無視してくれて構わないのだ。
 ラスト・シーンにおけるこのスタッフならではのお遊びも含めて、ただただ痛快なだけのアクション映画。無論本編だけで充分楽しめるが、個人的には予習として『ロミオ・マスト・ダイ』と『電撃』を鑑賞した上で御覧戴きたい。理由は色々とあるのだが、少なくとも『電撃』を見ているのといないのとでは、ラストシーンでの感動(?)がかなり違う。

 余談。
 例によって、この感想を書くためにあれこれとプログラムを参照している。監督の名前が一箇所だけ「アンドレ・バートコウィアク」になっている(そー読めないこともない、Andrzejというスペルだから)とかその程度のミスはまあ致し方ないとして、いちばん謎だったのはDMXのその他の出演作として『トリプルX』を挙げていること。
 ……思わずDVDで確認してしまった。出てない。少なくともクレジットに載るようなところにはまったく出てない。出てるなら寧ろそれが何処なのか書いてくれ、頼む。
 ついでに書くと、公式サイトにおけるプロフィールには、プログラムとほぼ同じ文章が掲げられているのだが、本文の最後にあたるその箇所だけがきっちり消えていた。勘違いなら寧ろいったい誰が何を勘違いしたのかも知りたい。ヴィン・ディーゼルとDMXを混同していたのなら腹の底から笑うんだが。

 余談その二。
 実は私、キャストとスタッフの名前に惹かれて、日本での公開日程が決まる前から本編に注目していた。そのため、自分への覚え書きの意図で公開している鑑賞希望一覧にも、かなり早い段階から原題で記していたわけだ。原題は「揺籃から墓場まで」、一生を通じてという意味合いの成句だが、これが果たして本編とどういう風に絡んでいるのかがかなり前からの興味の一つだった。
 で、見たあとで内容を確認してみるが……いったいどーいう意味があったのか理解できない。強いて言うならある人物とある人物の関係性を示している、とも取れるのだが、或いはDMXが予め作ったテーマ曲と題名を合わせただけ、とも思われ。

(2003/04/06)


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