cinema / 『予言』

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予言
原作:つのだじろう「恐怖新聞」 / 監督:鶴田法男 / エグゼクティヴ・プロデューサー:浜名一哉、小谷 靖 / プロデューサー:一瀬隆重 / アソシエイト・プロデューサー:森 谷雄、木藤幸江 / 脚本:高木 登、鶴田法男 / 撮影:栢野直樹 / 美術:斎藤岩男 / 照明:渡辺 嘉 / 録音:小松将人 / サウンド・エフェクト:柴崎憲治 / 編集:須永弘志 / 特殊効果:岸浦秀一 / ライン・プロデューサー:福島聡司 / 音楽:川井憲次 / 主題歌:荘野ジュリ「うたかた」(Victor Entertainment) / 製作プロダクション:オズ / 出演:三上博史、酒井法子、堀北真希、小野真弓、井上花菜、山路和弘、山本 圭、吉行和子 / ナレーター:津嘉山正種 / 配給:東宝
2004年日本作品 / 上映時間:1時間35分
2004年10月02日公開
公式サイト : http://www.j-horror.com/
渋東シネタワー4にて初見(2004/10/03)※『感染』と同時上映

[粗筋]
 もうじき助教授昇進を控えた里見英樹(三上博史)は帰省中もずっとノートパソコンに向かったままで、妻の綾香(酒井法子)と娘の奈々(井上花菜)から顰蹙を買っていた。基本的には家族を愛する良き夫である里見は申し訳なく思いながら、けっきょくひととおり片づけ終わったのは我が家に帰る途中のことだった。携帯電話を介して書類を送ろうとしたところ回線状態が悪くメールが送信出来ず、少し前に回線対応の電話ボックスを見かけたという綾香に頼み込んで道を戻る。
 日はとっぷりと暮れ、分量の多い書類はなかなか送り終えることが出来なかった。手持ち無沙汰になった里見がふと電話の下を見遣ると、電話帳の下に新聞の切れ端らしきものが挟まっている。抜き出して読んでみると、そこにはダンプカーの衝突による事故の記事がある。被害にあった少女の名前は、里見奈々――彼の娘の名前だった。日付と時刻はいまから数分後。困惑しながらも不安に襲われる里見のもとに妻がやって来た。奈々のつけたシートベルトが外れず困っていたところへ、里見の様子を不審に思ったからだった。里見が問題の新聞を見せようとしたとき――本当に、暴走するダンプカーが、奈々を残した車を大破させた。為す術もなく見守る里見と綾香の前で、車は爆発し、奈々の姿も悲鳴も呑みこんでしまう……
 ……それから三年後。
 救えたかも知れない娘をみすみす死なせてしまったことの自責から里見は生きる気力を失っていた。大学を退き、綾香とも別れ、高校の非常勤講師をしながら安アパートでひとり寂しく暮らしていた。
 騒ぐ生徒たちを叱ることもせずただ淡々と授業を続けていたある日、里見は一人の女子生徒を目に留める。彼女――若窪沙百合(堀北真希)は教師を無視してやりたい放題の生徒たちから孤立し、明後日のほうを見つめていたかと思うと、不意に里見を凝視したまま身動きひとつしなくなる。困惑しながら里見は授業に戻った。
 職員室でテストの採点をしていた里見は、問題の沙百合の答案を見たとき、眉を顰める。彼女の答案には答となる文字は何も書かれておらず、升目からはみ出した乱暴な文字で、いま世を騒がせている通り魔殺人の五人目の犠牲者について殴り書きされていた。その日の夕方、拒んでいたにも拘わらず自宅に届けられた新聞に、まったく同じ内容の記事を見つけて、里見は戦慄する。
 同じころ、里見と別れた綾香は大学に残り、独自の研究に着手していた。テーマは超能力。研究室に能力者の御子柴聡子(吉行和子)を招き、念写実験を行っていた綾香は、その途中御子柴に“新聞”を念写してほしい、と頼むが、御子柴に拒絶された。新聞だけは扱いたくない、という御子柴は、そのテーマだけは綾香が個人的な事情で追加したことをも見抜く。
 綾香は非礼を詫び、個人的に念写を頼むが、御子柴は頑として首を縦に振らなかった。宇宙のどこかに存在するという、未来も過去もすべて刻まれているというアカシック・レコード――そこから降り注ぎ、一部の人間に啓示を与える“恐怖新聞”なるものが存在し、いちど受信しはじめるとそこから逃れることは出来ない。恐怖新聞を研究していた鬼形 礼(山本 圭)という人物が、それについて御子柴に電話で語ったのち連絡を絶ったという事実もあり、関わるべきではない、と綾香は諭される。
 だがあの日の夜、綾香は御子柴からの奇妙な電話を受けた。もう逃げられない、そう告げる彼女の様子に危険を感じた綾香はすぐさま御子柴の自宅を訪れるが、御子柴はすでに衰弱死していた。彼女の家の書斎には、念写した文面と同一内容の新聞がファイリングされており、亡くなった御子柴の周囲にも無数の写真が散らばっている。御子柴がその手に固く握りしめたまま息絶えた写真を抜き取り、目にしたとき、綾香は凍り付いた……

[感想]
 つのだじろうという漫画家と氏の代表作「恐怖新聞」の名前は、たとえ作品そのものを読んだことがなかったとしても、題名と大まかなシチュエーションぐらいは誰しも記憶していると思う。かく言う私自身、ホラー好きを自認しておきながら「恐怖新聞」にもそれ以外の氏の作品にも触れたことがない。
 だが、それだけ世間的に知られた作品だからこそ、映像化するのは挑戦でもあるし、新たな料理のしがいがあるとも言える。少なくとも本編は、従来のスタイルに惑わされることなく、独自のかたちでアレンジを加えることには成功していると感じた。少年であった主人公を大人にし、最初に触れた「記事」で我が子の死を事前に察知しながらそれを止めることが出来なかったためにその後の人生を狂わせた男とすることで、深刻な背景を与えている。
 鶴田法男監督はここ数年の日本ホラー映画隆盛に先駆けて『ほんとにあった怖い話』などの怪奇映像を手がけているが、多く作品に人情的なものを取り入れる傾向があり、それが一部のセンスを感じさせる怪奇・猟奇描写のインパクトをかなり減じ、同時にドラマティックな部分をも陳腐にしている欠点があったのだが、本編は1時間半の尺を利用して人物の心理や背景を最小限の言葉で説明することで、随所に登場するウエットな要素が自然なものになっていた。そのおかげで、初見の際や慣れていない観客には不気味に感じられる描写も、ちょっと視点を変えると極めて切ない場面として捉えられるようになっている。
 ただその一方で、基本となるプロットにあまり引っかかりがないのが問題だろう。途中、観客に恐怖感や衝撃を与えるような部分がなく、つるつると手応えのないまま話が進んでしまうので、退屈を覚えることがままあった。いちおう驚かされる箇所は幾つかあるのだが、すべて突然に新聞が出現することにより虚仮威しであり、新聞の内容そのものにはさほど驚かされることがない。
 主人公以外の人物の影が極めて薄いのも残念に思う。里見英樹を演じた三上博史の迫力は凄まじかったし、その妻綾香を演じた酒井法子も演技に説得力はあったのだが、キャラクターが凡庸すぎていまいち力強さを感じさせない。山本圭演じる「恐怖新聞」の研究者・鬼形礼や堀北真希が演じた「恐怖新聞」を知る少女・若窪沙百合のように、扱い方次第では強烈な存在感を放ったであろうキャラクターもあっさり流されてしまったのは非常に勿体ない。
 しかし、里見の行動の説得力と終盤のサスペンスフルな展開は素晴らしかった。悪夢の連鎖から抜け出す方法論はわりと有り体のものだが、三上博史の演技力のおかげもあって、終盤の緊迫感と彼の行動の説得力は一級のものになっている。また、その過程で繰り出される怪奇現象の数々は、このジャンルで長年活動してきたがゆえのセンスを感じさせ、ホラー愛好家として嬉しくなるようなものが多かった――ただ、少々しつこすぎたきらいはあったけれど。
 鶴田監督の欠点は相変わらず無数に見出されるが、それが比較的鼻につかないレベルにまで完成されている。ホラー映画として、娯楽映画としての出来は同時上映された『感染』のほうが格段に上だが、これはこれで見所のある作品と思った。
 ……個人的には、堀北真希の出番がもっと多かったら嬉しかったんですが。

(2004/10/04)


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