cinema / 『歓びの毒牙(きば)』

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歓びの毒牙(きば)
原題:“L'Uccello dalle piume di cristallo”(水晶の羽を持つ鳥) / 監督・脚本:ダリオ・アルジェント / 製作:サルヴァトーレ・アルジェント / 撮影:ヴィットリオ・ストラーロ / 美術・衣装:ダリオ・ミケーリ / 編集:フランコ・フラティチェリ / 音楽:エンニオ・モリコーネ / 出演:トニー・ムサンテ、スージー・ケンドール、エンリコ・マリア・サレルノ、エヴァ・レンツィ、ウンベルト・ラオ、ラフ・ヴァレンティ / 配給:20世紀フォックス
1969年イタリア作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕監修:野中重雄
1971年10月日本公開
2004年07月23日DVD最新版発売 [amazon]
DVDにて初見(2004/08/23)

[粗筋]
 アメリカ出身のライターであるサム(トニー・ムサンテ)は、恋人のジュリア(スージー・ケンドール)とともにローマに滞在中、殺人未遂の現場を目撃する。彼に気づいた男のほうは逃亡したが、腹を刺された女――モニカ(エヴァ・レンツィ)は一命を取り留める。
 事件の担当として現れたモロシーニ刑事(エンリコ・マリア・サレルノ)はここしばらくのあいだに連続して三件発生した殺人事件と繋がりがあると見て、サムが目撃したときの話を詳細に聞き出そうとするが、遠目に見ただけのサムは細部まで覚えていない。だが、自分の目撃した状況にどうしても違和感があった。
 どうにか警察から解放されたサムだったが、帰途さっそく何者かの襲撃に遭う。辛うじて難を免れたサムは怯むどころか、自身の記憶に疑いを持っていたこともあって、却って真相究明に闘志を燃やし始めた。警察の呼び出しにも積極的に応じ、過去三件の事件を含めて独自に捜査を開始した。
 さっそくサムは最初の事件の被害者である娘が勤めていた骨董屋へと赴いた。骨董屋の主が言うには、被害者の娘が最後に接客した人物は不気味な絵を購入していったという。写真として残されていたそれは、男が女に馬乗りになりナイフを突き立てている姿を描いたものだった。
 翌日、サムの元を焦燥した面持ちのモロシーニ刑事が訪ねてきた。遂に四人目の犠牲者が出た、というのである……

[感想]
 鑑賞した最新版のDVDには簡単なプロダクション・ノートが収録されているのですが、それによると本編は元々企画していたフレドリック・ブラウンの作品『通り魔』の脚本化が、映画化権が高額なために実現の見込みがないことから、オリジナルで脚本を執筆、出来に自信があったアルジェントがそのために初めてメガホンを執ることを決意したという経緯があったそうです。……ありがとうフレドリック・ブラウン。もっと安かったら、アルジェント監督のデビューはまだ先になっていたか、ないままだったかも知れません。
 かなりの自信作だった、とは言うが、いまの目で見るとさほどではない。犯人や関係者の動きに辻褄の合わない部分が多々残されているし、のちの作品にも見られる、場面場面の繋がりが薄いという弱点はこのときから既に認められる。物語全体を眺めると、かなり歪な出来だ。
 だが、後年アルジェント作品に一貫するスタイルの萌芽が既に見て取れ、なかなか興味深い。猟奇殺人をきっかけとするスリラーであることや殺害方法の様式美、陰惨なモチーフによる絵画など、『サスペリアPART2』『スリープレス』でも類例が認められる要素が散見されるのである。
 加えて、サスペンス場面の趣向や演出が独特で、異様な余韻を齎す。冒頭、殺人未遂を目撃したサムがふたつの自動ドアに閉じこめられる場面。作中で描かれる最初の殺人(第四の事件)の奇妙な展開。また、警察が駆使する科学的なようでいてどこかとんでもない機材の数々。独特のセンスを感じさせるパーツのひとつひとつが鮮烈であり、オーソドックスなようでいて一風変わった作品世界の醸成に役立っている。
 精緻な仕上がりを求めるような向きには些か見苦しい部分が多々あるが、後年のアルジェント作品に惹かれるものを感じるような人であれば必見と言っていい。また、その後の作品群ほど際立って血腥い場面が登場するわけでもないので、未経験の人が最初に触れる作品としてもちょうどいいのではないでしょうか。これが嫌いとか、どうしても納得出来ない、という人なら多分この後の作品も合いません。

(2004/08/24)


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