第1章 1:「祠の跡へ」


  勇者がラントの町を後にしようとした時、「カラッカの勇者よ・・・ 」急にまじめな
 口調になったスラックが言いました。「魔王城の島に祠があったじゃろう、お前さん
 がディアーザを倒すと同時に消えてしもうた祠じゃ。おそらく、身体を捨てて結界を
 抜けられるようになったディアーザが消してしもうたんじゃろう。よほど目障りだっ
 たようじゃ・・・ 」ここまで喋ったところでしばらく考え事をしていたスラックが再び
 口を開きました。「しかしのう、いくらディアーザとて結界のすべてを消し去ること
 はできなかった筈じゃ。となると、そこにディアーザの行き先を示す手掛かりがある
 かも知れん。いやなに、実はあの祠を造った者をわしは知っとるでな・・・ あいつのこ
 とじゃ、何かしら仕掛けを施しとったはずじゃ。先ずは祠の跡をよーく調べて来るん
 じゃ。わかったかの・・・ 」
  スラックに言われ、早速ワープを唱えようとした勇者でしたが「???・・・」
  「おお、そうじゃ、お前さんワープは使えんぞ。いやワープは使えるんじゃが行き
 先を消されとるわい。ディアーザを倒した後、カラッカ以外の場所には行けんかった
 じゃろう。そいつもディアーザの仕業じゃ、全く呪いは掛けるは行き先は消すは・・・
 よほどお前さんのワープが気に入らんと見える。カラッカに戻った時点でカラッカに
 も行けんようになっとるはずじゃ・・・ 」
  スラックの言うとおり、ワープを唱えようとしてもその行き先がラント以外はすべ
 て消えていました。カラッカを出てから、平和になった世界をこの目で確かめたくて
 歩いて(旅の扉経由)ラントまでやって来たものですから、勇者はワープが使えなく
 なっていることに全く気付いていませんでした。
  「まあ、消えてしもうたモンはしょうがないのう・・・ 行き先はまた一つひとつ足し
 ていくしかあるまい。なに、祠の跡へは洞窟を抜ければ行けるじゃろう。もっとも、
 ディアーザが消えて洞窟の中がどうなったか分からんが・・・ 」

  とにもかくにも、かつて「魔王城への洞窟」と呼ばれたあの洞窟から祠の跡へ行か
 なくては、ディアーザの手掛かりは得られそうもありません。もっとも、魔王城が無
 くなった今は、単に「ラント東の洞窟」と呼ばれていました。

  「いずれにしても・・・ 油断は禁物じゃ。今も言ったとおり洞窟の中がどうなっとる
 かわしにも分からん。ディアーザが生きとる以上、またぞろ魔物も復活しとるやも知
 れん。うーむ・・・・・・ 」
  出発しようとした勇者を引き止めておきながら、大魔道師スラック翁は長考に入り
 ました。
  「うーむ・・・ 」 1分経過。
  「うーむ・・・ 」 5分経過。
  「うーむ・・・ 」10分経過。
  「この爺さん、寝とるんじゃないのか」と勇者が思ったその時・・・
  「やむを得ん・・・ おい、レオン!」とスラックが教会の修復を手伝っていたレオン
 を呼びました。「お主、祠の跡までこの少年に付いて行くんじゃ!」
  「ええっ、だって俺は腕っぷしの方はからっきしダメだぜ。」レオンがとんでもな
 いという風に首を横に振りましたが、スラックは聞く耳を持ちませんでした。
  「謙遜をするな。お主も一応はLv. 57のキャックルナイトじゃろう。魔術師と
 精霊使いの副職まで付けとるのをわしが知らんとでも思っとるのか!」
  「げっ、知ってたのか・・・ ちぇっ、戦闘はどうも性に合わないんだよなぁ。」
  「つべこべ抜かすな!」
  「わ、わかりましたよ・・・ こうなったら仕方ねえや。あんた宜しくたのむぜ。」
 と言ってレオンは勇者に右手を差し出し二人は握手をしました。

  「祠の跡に着いたらコレを使うのじゃ」と言ってスラックは一枚の護符を差し出し
 ました。「コイツを結界の一番強い場所に貼ればええ。ディアーザの行き先を示す何
 かが手に入る筈じゃ。」
  「『結界の一番強い場所』ってどうやって調べるんだよ。」当然と言えば当然の疑
 問をレオンが口にすると、「行けば判る。心配せんでもええ・・・ 」と吐き捨てるよう
 にスラックが言いました。「大体、お主は屁理屈が多すぎるんじゃ・・・ 」
  「屁理屈じゃないと思うけど・・・ 」と勇者も思いましたが、何も言いませんでした。
 さすがに慣れているのかレオンも黙っていました。

  こうして最初のダンジョンである「ラント東の洞窟」へ‘スラックの護符’を手に
 してLv.60のマックルロード勇者(副職は今は秘密)とLv.57のキャックルナ
 イト(魔術師→精霊使い)の2人が向かうことになりました。

  洞窟へと向かう2人の若者を見送りながら、スラックは深長な面持ちで呟きました。
 「またあの少年は戦いの日々を迎えることになったのか・・・ しかしあの子の他にこの
 世界を護れる者はおらん。因果な運命を背負った子じゃ・・・ 」



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