第1章 2:「ラント東の洞窟」


  「いやあ、のどかなモンだなぁ。」感心したのか、或いは退屈したのか、レオンが
 思わず言いたくなるほど2人は順調に「ラント東の洞窟」へ進んでいました。
  ディアーザが姿を消した後、ラント周辺の毒沼もすっかり消えてしまい、なにより
 魔物が一匹も出て来ません。大嫌いな‘戦闘’を行わずに済んでいるのはレオンにと
 っても幸いなことに違いないのですが、覚悟を決めて勇者に同行した身としては幾分
 物足りない気持ちになって来たのでしょう。思わず「なあ、ディアーザって本当に生
 きてんのかなぁ、 あの爺さ・・・ いや、大魔道師の思い違いじゃねえのかなぁ。」と
 勇者に問い掛けたのも無理はありません。
  しかし、最後の祠やワープの行き先が消えてしまったのは紛れもない事実であり、
 それがディアーザの仕業としたらやはりディアーザは生きていることになります。勇
 者にはどちらが正しいのかは解りませんでした。
  そうこうしている内、2人は洞窟の入り口に辿り付きました。勇者はスゥーッと一
 息吸って、かつて強大なモンスター達と壮絶なバトルを行った洞窟内へ入って行きま
 した。レオンも唇をぐっと横一文字にして勇者と共に入って行きました。

  「少なくとものこのフロアは変わっていない・・・ な。」
  左右に整然とマックル像が並ぶ、最初の‘一本道のフロア’は勇者が覚えている限
 り、以前と寸分違わぬ姿で2人を迎えました。
  勇者とレオンは颯爽と前方の下り階段へ向かって歩き始めました。黙々と歩みを進
 める2人は階段に確実に近づいて行きます。モンスターは出て来ません。
  そしていよいよ階段まであと一歩という時・・・

  「!!!」

  突然、1人のレンクルが2人の目の前に音もなく現れました。

  「私の名は、サイモン・・・ 君達がスラック翁に選ばれた戦士達だね。」

  勇者が頷くとサイモンと名乗ったレンクルは語り始めました。
  「この洞窟は君らも知っている通り、かつて魔王城へ繋がっていた。しかし、魔王
 城が消えてしまってからは、行き場を無くしたモンスター共の巣窟と化してしまって
 いる。中には姿を変えた奴や、見たことのない奴もいるが・・・ 君達はそれでも入って
 いくかね?」
  レオンは「嫌だなぁ」と言いたそうな顔をしていましたが、勇者は黙って頷きまし
 た。
  「そうか・・・ 断っておくが、この先は随分と様変わりしていて出口に辿り付くのも
 容易ではないぞ。頭を使わなければ進めない所もある。勇気を出さねば進めない所も
 ある。強いだけでは到底出口までは行けないぞ。それでも入るかね?」
  勇者は再び頷きました。「こいつ、わかって頷いてんのかなぁ・・・ それとも、ただ
 の無鉄砲なのかな?」レオンは勇者を見ながらそう思いましたが、スラックに「付い
 て行け!」と言われている以上、付いて行くしかありません。
  「うむ・・・ スラック翁が選んだだけのことはありそうだ。では、私は出口で君達を
 待つことにしよう。 くれぐれも油断をしてはならんぞ・・・ 」
  そう言うとサイモンはまた音もなく2人の前から消えました。

  「誰なんだ? 今のおっさんは・・・ 爺さ・・・ いや、大魔道師の知り合いみたいだっ
 たけど。まあ、あんたに訊いても分からないよなぁ・・・ 」
  「だったら訊くなよ」と勇者は思いましたが、意に介さず階段へと進みました。

  階段を下りてみると、かつて矢印の床がずらりと並んでいたはずのフロアには、な
 んと無数の花が咲いていました。赤、青、黄色、緑、紫・・・
  「何だこりゃ、何で日も差さないこんな場所にこんな沢山の花が咲いてんだよ。ま
 あ、あんたに訊いても分からないよなぁ・・・ 」
  「だったら訊くなよ」と勇者は思いましたが、ふと前方を見ると一本の立て札が立
 っていたので、早速近づいてみました。

  『赤い花は毒の花 踏んではならぬ』
  『青い花は眠りの花 踏んではならぬ』
  『黄色の花は導きの花 一輪だけ摘んでも良い』
  『緑の花は毒消しの花 踏んでも良い』
  『紫の花は精霊の花 摘んでもよいが踏んではならぬ』
  『白い花は祝福の花』

  レオンが書かれてる文章をスラスラと読んだあと、勇者に言いました。
  「つまり、赤い花を踏めば毒に浸される。青い花を踏めば眠らされる。黄色い花を
 一輪摘んで持ってりゃ案内係になる。緑の花を踏めばリポイズンと同じく毒が消えて
 ・・・ 精霊の花? 摘んでも良いけど踏んじゃダメ? 踏むとどうなるってんだ? 白
 い花は・・・ どうしろってんだよ。まあ、あんたに訊いても分からないよなぁ・・・ 」
  「いい加減にしろよ」と思い、勇者はレオンを睨みつけました。

  ともかく、先ずは黄色い花を探さなくてはならないようです。赤・青・紫の花を踏
 まないように注意しながら・・・



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