お山の大将
これは5年程前に地元の川に行った時の話である。午後からの釣行だった為、比較的に釣果の安定しているこの川を選んだ。仕度をし2時間程釣り上がる。ここまでの釣果はまずまずであった。今回目的ポイントまでの中間地点の目印である倒木が見えてきた。その倒木は川の両岸を渡す橋のように倒れていた。この倒木より上流が好ポイントの連続であった。
一旦ラインをリールに巻き込み倒木をクリアし、釣りを再開しようとラインを引き出していた時である。『ガサガサ』と何かの気配。音の方を見ると1匹の猿であった。群れでは無く1匹だけ丸々と太った大きな猿だった。その猿はまるでボスのような風格を漂わせていた。別に猿など珍しい事では無いので『なんだ。猿か。』としばらく猿の行動を観察していると、先程の倒木を渡りこちらに近づいてきた。人間の存在をまったく恐れていない感じで、『なんだお前?わしの山に勝手に入ってきおって!』と言わんばかりな形相でこちらに近づいて来る。いつの間にか自分の右手には竿ではなく石が握られていた。距離にして5メートル位まで来た時、威嚇のつもりで握っていた石を投げた。しかし猿は逃げる所か『なんだ?やるんか?』と言った感じで向かって来る。その姿はまるでチンピラのように見えた。さすがに『これは、ヤバイ!』と思い川を渡り下流に走って逃げた。猿はまだこちらを睨みつけている。猿に負けた悔しさに再び猿に向かって石を投げた。すると猿は山に向かって『ギーッ!ギーッ!』と吠え出した。とっさに『仲間を呼んでる』と察知し一目散に川を下って逃げた。息をきらせようやく自分の車が見えると『ホッ』とした。しかしこの話はまだ終わりでは無かった。自分の車まで300メートル位までの所で、自分の左側の木々が揺れているのに気付く。風も吹いていたが、その場所だけ大きく揺れている。良く見ると猿の群れがそこにはいた!その数30匹以上!同じ猿の群れであるかは定かでは無かったが、その時の自分は『先回りされた!ヤバイ!』と思い、再び全速力で走り車に飛び込んだのである。
今まで猿など舐めていたが、猿がこれほど怖いとは思わなかった。この年、この川に足を踏み込む事はその後無かった。『怖かったよー(泣)』 おしまい。

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