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  Essay



ナポリの靴
たまたま通りかかった小さなセレクトショップで、黒のレザースニーカーを買った。

その靴はナポリで作られたものだとか。
試し履きで足を入れてみて、あまりにぴったりフィットするのでびっくり! 私は今まで(探し回ったわけではないけれど)、自分にあう靴なんて無いと思っていたから、王子様の前でガラスの靴を履いたシンデレラの気分だった。

ドイツの健康靴は、名医としっかりした看護婦さんに”私達がついていますよ”と言われているみたいな、安心感と確かさを感じる。ところがナポリの靴は、人の手で足をくるまれているような、ちょっとエロティックといっても良い心地良さがある。同じような工程で作るのに、どうして仕上がりがこんなに違うのだろう? 「すべては人間が楽しく暮らすためにある」という人生哲学が、もの作りにも生きているような気がする。

その後、同じお店で2足、ナポリの靴を買った。微妙に感触が違っていて、まるで色んなタイプの男の人に足をなでられているみたい。浮気女の気分を少しばかり味わいながら、靴紐をきゅっと締めて立ち上がる瞬間が妙に嬉しい。
座り込んでぐずぐずと靴を履いている私をみた友達は、「サンダルつっかけて外に飛び出すような急ぐ用事がないんだね」と言った。 ^^; 確かに手を焼く子供がいたら、いちいち靴紐など結んでいられないな・・・  

いつか、ナポリに行って靴を作った工房を訪ねてみたい。想像では、若手のデザイナーさんのように思えるけど、もしかしたら、すご〜いオヤジさんかも知れない。仕事は必ず定時でおしまい、家に帰れば奥さんの手作りパスタが待っていて、子供や孫たちと食卓を囲む職人さん・・・ それもちょっと素敵だと思う。
   
                     



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