1895.2.14 T・キャノン 対 J・ラーキン


 NATIONAL LIBRARY OF NEW ZEALAND(ニュージーランド国立図書館)のPAPERSPAST(過去の新聞)というウェブ・サイト
http://paperspast.natlib.govt.nz/cgi-bin/paperspast?a=p&p=home&e=-------10--1----0-all
(ちなみに表記を英語とマオリ語とで切り替えられます)で見つけた、古い新聞の記事をご紹介します。

THE ATHLETIC WORLD.  Wanganui Herald, 8 April 1895
http://paperspast.natlib.govt.nz/cgi-bin/paperspast?a=d&d=WH18950408.2.29&e=-------10--1----0--
(下から2番目の段落の記事です。
 原文で段落変えがない所を、ここでは適宜分割して訳文を挿入しています。)

 At St. George’s Hall, Bradford (says the London Sporting Life, of February 15), a contest for the three-style wrestling championship of the world and £100, came off last night between Tom Cannon, of Liverpool, the Graeco-Roman and five-style champion, and John Larkin, of Australia. It was Larkin’s first great match in England, and he was giving at least 3st in weight away, but he made up for this disadvantage by a splendid physique and muscular development.

 ブラッドフォードの、聖ジョージ会堂にて(ロンドン・スポーティング・ライフ紙、2月15日号記す)、三形式レスリングの世界選手権と100ポンドとを賭けた競技が、昨夜行われたのは、リバプールの、トム・キャノン、ギリシャ・ローマ式並びに五形式の王者と、豪州の、ジョン・ラーキンとの間であった。それはラーキンの英国に於ける最初の大試合であり、彼は体重に於いて少なくとも3ストーン(※約19kg)は相手に譲っていたけれども、彼は立派な体格と筋肉の発達によってこの不利を補ったのであった。

Both men were in the pink of condition and Cannon was favourite at 6 to 4 on. Catch as-catch-can was the first style, and the colonial fairly astonished the natives by his agility. Once Cannon got a double Nelson on, but by a marvellously clever head spin Larkin landed behind his opponent. Eventually Larkin got the Englishman by the double leg hold, and by sheer strength forcing his shoulders on the ground, gained the fall in 11min 48sec.

両者とも絶好調でありキャノンが掛け率6対4で人気であった。掴める様に掴め式が最初の形式で、植民地人はその機敏さで本国人を全く驚かせた。一度キャノンは羽交い締めを掛けたが、素晴らしく巧みなヘッド・スピンでラーキンは相手の後ろに着地した。ついにラーキンは両脚を抱えて英国人を捕らえ、全力でその両肩を地面に押し付けて、一本を得たのが11分48秒の事であった。

The next style was Graeco-Roman, that in which Cannon has always been regarded as pre-eminent, but the agility and science of his opponent made the match more equal than was anticipated. The men rolled to the side of the canvas, first one and then the other having the advantage. Finally the Australian got the Englishman nearly down on the edge, and it seemed only a question of inches. Cannon, however, recovered and vigorous work followed, the champion, amidst tremendous applause, eventually gaining the final throw by a front Nelson and half-elbow. Time, 10min 10sec.

次なる形式はグレコ・ローマン、それに於いてキャノンは常に傑出していると考えられて来たが、彼の相手の機敏さと科学とが予想された以上にその試合を拮抗したものとした。両者は初めに一人が次にもう一方が有利を得つつ、敷かれた帆布の脇まで転がって行った。最後は豪州人が英国人をもう少しで端から落とす所であったが、それは見た所たった数インチの問題であった。キャノンは、しかしながら、回復して活発な闘いが続き、王者が、ものすごい拍手の中、ついに決定的な一本を得たのは片肘を抱えてのクォーター・ネルソンによってであった。勝負時間、10分10秒。

With a throw each the men came out for the final in the Scotch style. The bout developed into a go-as-you-please. It was a grand exhibition, but unfortunately Cannon began to lose his temper, and attempted to rush his opponent, who got a front double, and secured an unmistakeable fall. The result was received with cheering.

互いに一本を得た両者はスコットランド式に於ける最終戦に臨んだ。その勝負は行き当たりばったりに展開した。それは大いなる見ものであったが、運悪くキャノンが癇癪を起こし始め、二人胸を合わせて一体となった、その相手に猛攻を企て、そして紛れもない一本を決めた。その結果は喝采を以って迎えられた。



 “a front Nelson and half-elbow”を、クォーター・ネルソンと訳しましたが、G. Leroyさんの下記ウェブ・サイトで、“THE CROSS HALF-NELSON”と紹介されている技ではないかと思います。写真のモデルは、トム・キャノンその人です。

http://www.lutte-wrestling.com/lutte_wrestling_155a3.html


 〔スコッチ・スタイル〕着衣がスコット・ランド民族衣装のスカートをはいてる以外、北イングランドのカンバーランドと、ほぼ同じく、投げだけで決まる。

田鶴浜弘「プロレス大研究」(講談社)


 同時期の英国における五形式でのレスリング試合において、スコッチとカンバーランドが別のスタイルとして行われた例がありますが、ルール上どこが違ったのかはわかりませんでした。カンバーランドは胸と胸を合わせ、顎を相手の左肩に乗せ、右四つに相手の背中を抱いて両手を組んで始めます。倒れる他、組み手がはずれても負けになります。今回ご紹介した記事に言う“go-as-you-please”が、“catch-as-catch-can”と同じような意味合いであり、組み手や間合いの自由を許容するということだとしますと、翻訳は変えるべきでしょうか。

 一本目のキャッチ・アズ・キャッチ・キャンにおいて、ダブル・ネルソン(フル・ネルソン)が用いられています。同時期の米国の新聞に、その技が英国において禁止されている、とあり(別ページ「1890 危険技と禁止技」をご覧下さい。なお脱出法のヘッド・スピンについても書いています)、珍しいことなのではないかと思います。

 特に英国でフル・ネルソンが危険視されたのは、事故があったからでしょうか(別ページ「1873 ランカシャー・レスリングでの死亡事故」をご覧下さい)。




メニューページ「近代スポーツの故郷・英国のレスリング」へ戻る