以前紹介したOPアンプ+無帰還エミッタフォロワー型パワーアンプですが、最後に書いてあるように、かなり不満がありました。一番の不満は出力が小さいことで、これがLM380なら仕方がないと思いますが、これだけの規模の回路を作って最大出力4.5Wとは情けなさすぎます。
このままではお蔵入りになってしまいますので、それなりに使えるアンプになるよう改良することにしました。2008年5月に完成しました。
回路は前と同じです。このアンプの場合、最大出力はほとんどOPアンプの電源電圧で決まります。元の回路は±12Vで使っていましたが、オペアンプの電源電圧を±15Vにすれば、特に回路定数をいじることなく最大出力をアップできます。オペアンプの耐圧までまだ余裕があるので、オペアンプに電源を供給する3端子レギュレータを7812/7912から7815/7915に変更しました。
回路的には他にもまだ不満な点があり、手を加えたいところですが、そこまでやると結局新しいアンプに作り直すことになってしまうので、改良は出力アップだけに止め、他は妥協しました。
またトランスは今まで16V×2(100VA)のものを使っていましたが、出力数Wのアンプに使うには勿体なさすぎるので、15V×2(50VA)のトランスに交換しました。容量は減りましたが、本機にとってはまだ十二分に余裕があります。
改造したアンプの内部を右の写真で示します。トランスはNuvotem Talema社のトロイダルトランスです。トランスが小さくなったため内部に余裕ができ、実装も楽になりました。
帯域は−3dBポイントで6〜150kHzです。変なピークもなく素直な特性です。半導体アンプにしてはあまり高域が伸びていませんが、実用的には問題ないでしょう。
クリップポイントはちょうど7Wでした。意図したとおり出力アップが図られています。歪み率(THD)は各周波数とも0.数%オーダーです。周波数による歪み率の違いがまったく無い、きれいな特性です。ただ歪み率の絶対値は、半導体アンプとしてはかなり悪いです。AB級の出力無帰還アンプなので、歪み率が悪いのは致し方ないところです。
最終段のアイドリング電流を変えたときの、歪み率の変化を右に示します。アイドリング電流を増やして、A級動作領域が増えるにつれて、歪み率が下がっていく様子が良く分かります。
一般的な半導体アンプでは、高いNFBをかけて特性を改善しているので、AB級でもかなりの低歪みですが、本機は出力無帰還なのでA級動作による改善効果は、最終的な歪み率に大きく効いてきます。このグラフを見ると、いっそのことA級動作にすれば、かなりの性能が見込めそうです。しかしながら、本機の場合アンプケースでパワートランジスタの放熱を行っている関係で、ある程度以上熱損失を増やすことが困難なため、A級にすることは事実上無理です(そういう意味でも、余裕の無い作りのアンプだったと後悔しています)。
したがって本改造では、アイドリング電流を設計値の2倍程度の100mAとして、A級動作領域を増やすだけに止めました。それでも小信号時の歪み率は設計値の半分となっているので、それなりの効果はあるように思われます。
ちょっとした改良でしたが、意図した通り出力アップと歪み率改善ができました。改良としては成功です。ただやはり終段を純A級にしたかったという思いはあり、不満が残っているのも事実です。
測定後、さっそく試聴してみました。ちょっと聴いた感じ、おとなしい音という印象です。これはこれで普通に良い音だと思います。改良前に感じられた、何か詰まったような感じは無くなりました。パワーアップの効果があったということでしょうか?。