LM380(7)−究極を目指して−

2008年4月22日公開 2008年4月23日加筆修正

NFB量と最大出力の関係

 以前に少し触れましたが、NFBをかけてゲインを下げると、最大出力が下がるという問題があります。これは入力電圧の制限によるものです。データシートにも記載されているように、最大入力電圧は±0.5Vとなっています。

最大出力とゲイン

 もう少し具体的に書くと、NFBをかけてゲインを10倍(+20dB)に設定した場合、最大入力電圧は0.5Vですから、その時の出力電圧は5Vとなります。これはピーク値ですので、実効値に直すと3.54Vとなり、この電圧を8Ωの負荷に加えたときの電力は1.56Wとなります。すなわち、LM380そのものは2.5W出力が ゲイン10倍の時の最大出力電圧は、電源電圧による制限以下となるわけです。

 この関係を分かりやすくグラフにしたのが右の図です。赤の曲線が最大入力電圧による制限を示し、青の直線が電源電圧(Vcc)による制限を示しています。電源電圧が16Vの場合、ゲインが13倍以下では最大入力電圧によるよって、13倍以上では電源電圧によって最大出力が制限されることが、このグラフから分かります。

 したがって電源電圧を上げて出力を稼ぐような使用をする場合、あまりNFBをかけてゲインを下げることは出来ません。パワーと特性はトレードオフの関係となります。

 

過大入力時の問題

非革命回路

 これまでの検討により、右図に示す俗称「非革命アンプ」回路が、本サイトの推奨となりました。
 しかしこの回路、過大な信号が入力されて出力が飽和したときに、異常な挙動を示すことが、実験の結果分かりました。

 過大な信号が入力されると出力は飽和し、クリップされた波形が出力されます。実は、このまま入力し続けると、このクリップ波形がだんだん変な形になっていくのです。いろいろ調べたところ、その原因は中点電位の上昇に由来していました。

 問題なのは、この上昇した中点電位が過大入力が無くなってもすぐには戻らず、ある時定数(右の回路の場合で数秒ぐらい)でゆっくりと戻っていくことです。したがってこの間は、中点電位の上昇分だけ最大出力は減少してしまいます。
 極端な例を挙げると過大入力を加え続けた場合、中点電位はほぼ電源電圧まで上昇し、この状態では何も出力されなくなります。そして過大入力が消えると、中点電位の回復にしたがって、徐々に信号が現れると言う挙動を示すのです。これは前回検証した革命アンプでも、同様に起こりました。

 過大入力時の異常な挙動は仕方がないとしても、それが尾を引くというのは由々しき問題です。極端に言えば音量を上げすぎると、だんだん音が出なくなってしまって、音量を戻してもしばらく音が出ないということなのですから。

 最初、この異常動作が尾を引く現象が、NFBをかけない場合にみられなかったことから、NFBの影響を疑いました。しかし、以前の実験で使った回路(右図)でこの現象が起こらない事が分かったので、原因はNFBによるものではないということになります。

 

原因の究明

 いろいろ検討した結果、最終的な結論として、入力ピンにつながっているコンデンサが原因であることが分かりました。

 すなわち過大入力時にIC内部の各動作点が狂い、入力ピンに異常電圧が現れます。ここにコンデンサがあると、右図の(1)のように、この異常電圧でコンデンサが充電されます。このため過大入力がなくなっても、コンデンサに充電された電荷によって、入力ピンの異常電圧はすぐには戻りません。この充電された電荷は、右図(2)のように、LM360の入力ピン内部の150kΩを介して放電していき、元に戻るのですが、ここでコンデンサの容量が大きい場合、放電に時間がかかり、その間、中点電位の異常状態が続くというわけです。

 先程の回路の場合、コンデンサは22μF、入力抵抗は150kΩで、その時定数は約3.3秒となり、異常現象の時定数とほぼ一致します。

 

過大入力対策

対策回路1

 原因が分かれば対策は簡単です。対策は2つ考えられます。

 まず右の回路のように、直流カットのコンデンサを省略することです。この場合反転入力側のNFB抵抗が、バイアス抵抗に直流的に並列接続されるので、バイアスのバランスをとるため、非反転入力側にも同じ値の抵抗を接続する必要があります(でないと中点電位が狂う)。

 しかしながら、この抵抗によって非反転入力側の入力インピーダンスも下がることになり、入力インピーダンスを高くできるという「非革命」回路の利点がひとつ減ってしまいます。

対策回路2

 もうひとつの対策として、右の回路のように、直流カットコンデンサの値を小さくするということが挙げられます。これは根本的な解決にはなっていませんが、実用上問題ない値にすればよいということです。

 ただしコンデンサの値を変えると他に影響が出ます。まず反転入力側のコンデンサですが、この容量を小さくすると低域でNFB量が減り、すなわちローブースト型の特性になることが予想されます。下のグラフの赤の曲線は、反転入力側のコンデンサだけを0.1μFとした場合の、周波数特性の実測値です。予想通りローブースト特性となっています。

 一方、非反転入力側のコンデンサに関しては、IC内のバイアス抵抗(150kΩ)とハイパスフィルターを形成しているので、容量を小さくした場合、当然低域がカットされた特性になります。

 総合すると、直流カットコンデンサの容量を小さくした場合、反転側ではローブースト、非反転側ではローカットということになります。うまく容量値を調整すれば、2つが相殺してフラットになることが期待されます。

周波数特性

 両コンデンサを0.1μFとした場合の周波数特性の実測値を、右のグラフの青の曲線で示します。意図したとおり、ほぼフラットな特性が得られました。

 フラットとはいっても、重低音域のNFB量は減少しているため、歪み率は悪くなっていることに留意する必要があります。しかし、出力コンデンサ付きSEPP回路は最初から重低音域の性能に限界があるので、NFB量が減って性能が悪化するとはいっても、それは五十歩百歩でしょう。

 パワーから考えると、このアンプで大型スピーカーシステムやスーパーウーファーを駆動するというのは無理があり、比較的小型のスピーカーシステムを駆動することになると思います。そういうスピーカーに30Hz以下の重低音を入力しても、まともな音にならないのが普通なので、アンプ側で無理して歪みの多い重低音を出す必要はなく、いっそことこの領域は潔くあきらめてカットしてしまった方が、かえって音質的に良い結果を生むように思われます(その場合、非反転入力側のコンデンサは0.033〜0.047μFが適当)。この辺は設計者の考え方如何でしょう。

 

推奨回路

 本サイトのまとめとして、非革命アンプの推奨回路を下に示します。

 入力インピーダンスが低くなっても良いなら、直流カットのコンデンサを省略する回路が理想的です。ただ入力および出力から直流電圧が加わると動作点が狂ってしまいますので、そのような状況が予想される場合は、下の推奨回路1のようにコンデンサの挿入を考えなくてはいけません。入力インピーダンスが低いので、入力側コンデンサはそれなりに大容量が必要です。入力インピーダンスが4.7kΩとした場合、少なくとも数μF程度の容量は必要でしょう。電解コンデンサかフィルムコンデンサを使うことになりますが、容量が大きくて性能の良いコンデンサ(特にオーディオ用)は割高なのが難点です。
 もちろん帰還抵抗値を高くして、入力インピーダンスを上げる方法(推奨回路2)も考えられますが、こちらはノイズの点で不利で、実装技術も必要です(ベテランやプロならさほど問題でもないのでしょうが・・・)。

 入力インピーダンスを高く保ちたいなら、次善の策ですが後者の案(推奨回路3)となるでしょう。入力インピーダンスが高いので、0.1μF程度のコンデンサが使用できます。0.1μFならフィルム型コンデンサが使えるので、コンデンサの質という意味では有利です。この容量なら、オーディオ用を購入してもさほど高価でもないので、予算面でも有利です。

 最大出力を考慮して、ゲインは26dB(20倍)程度になるように、NFB量を抑えてあります。この定数なら、LM380の限界である5Wまで入力電圧による制限はないはずです。

推奨回路
 

さいごに

 これまで再三にわたりLM380の特性改善と評価を試みてきましたが、そろそろ限界が見えてきたようです。結果として、100Hz以上の周波数帯域における歪み率の改善は著しく、パワーが低い点を除けば、下手な市販アンプを凌駕しています。ただ100Hz以下の帯域については、内部の回路構成上の限界で、性能的にやはり今ひとつです。残念ながら、この点で高価なアンプを駆逐するには至らないと思います。

 まあそうは言ってもオーディオは出てくる音がすべてですから、実際に推奨回路3でパワーアンプを組んでみました。こちらをどうぞ