ディスクリートヘッドホンアンプ(1)−試作編−

2008年5月13日公開 2008年5月20日改訂

はじめに

 これまで手軽なこともあってICを使ったアンプばかり作ってきましたが、たまにはディスクリート部品を使ってみたくなります。
 ちょうど試してみたい回路があったので、試験的に製作してみることにしました。

回路

回路図

 製作した回路の回路図を上に示します。

 差動−エミッタ接地−SEPPという構成の、至って標準的なアンプ回路です。初段の差動増幅は、定電流回路を抵抗器で代用し、負荷も抵抗器という最も原始的な構成です。2段目のエミッタ接地も抵抗負荷となっていますが、出力からブートストラップをかけてゲインを稼ぐという古典的テクニックを使っています。最終段も何の変哲のないSEPP回路です。ちょっと増幅器に詳しい方なら、定電流負荷はもとよりカレントミラーやカスコードといった技術を投入したくなると思います。

 どうしてこのようなある意味古典的な構成を取ったかというと、実はクリスキットのパワーアンプP35−IIIがこの構成だからです。最初に書いた試してみたい回路というのは、実はこのP35−IIIの回路のことです。

 クリスキットとその設計者である桝谷氏についてはまた改めて言及したいと思っていますが、P35は「音を求めるオーディオリスナーのための合理的な」設計のパワーアンプというふれこみであり、またその音質も評価されているようですので、昔から興味がありました。その一方、回路的には70年代のもので古色惨憺たる感じは否めず、本当にこれで良い音がするのかという気持ちもあります。そこで、実際に回路を組んでみて、特性と音質を評価しようという気になったわけです。ただ、そうは言ってもいきなり35Wのパワーアンプを作るのは結構手間ですので、まず評価実験ということでヘッドホンアンプ用にアレンジして、いろいろ遊んでみようかという次第。

 P35の回路では、SEPP回路が2段ダーリントンとなっており、初段とプリドライバーにCRから成るリップルフィルタが付いています。本回路ではヘッドホン用と言うことでSEPP回路は1段のみとし、リップルフィルタもそれほど電源ラインの電流変化はないと考え、省略しました。また電源電圧はCMoyアンプと交換して使えるように、±5Vで設計しました。

製作

回路写真

 部品点数が多いですので、プリント基板を起こしました。

 トランジスタはあえてオーディオ用は避け、汎用の2SC1815/2SA1015を採用しました。初段のペアと、SEPPのコンプリメンタリペアに関しては、hfeが同じものを選別しました。さらに初段のペアは銅箔テープを巻いて、熱結合させてあります。どの程度効果があるかは分かりませんが、やらないよりはましと言うことで。最初からデュアルトランジスタを使えば良いんですけどね・・・。

 中点電位は初段の共通エミッタ抵抗20kΩで調整します。この回路は電源電圧を変わると中点電位も変化します。なので電源電圧を変えるときは、再度調整が必要です。SEPP段のアイドリング電流は500Ωの半固定抵抗で調整します。最初は0Ωにしておき、最終段のエミッタ抵抗10Ωの両端の電圧を監視しながら、抵抗値を増やして調整します。アイドリング電流は3.2mAとしました。

 

測定

周波数特性

周波数特性

 周波数特性は、−3dB落ちで5Hz〜300kHzと、オーディオアンプとして十分広帯域です。変なピークもなく素直な特性です。

 

歪み率

歪み率

 100Ω負荷における歪み率を、右のグラフに示します。概ね0.1%以下と、Hi−Fiアンプとして十分な特性です。10kHzでの歪み率が若干悪いのが目に付きます。

歪み率2

 負荷抵抗を33Ωにした時の1kHzの歪み率を、負荷抵抗100Ωの時と比較したのが右のグラフです。33Ωでは無理があるせいか、歪み率はかなり悪化しています。それでも0.1%前後ですので、聞けないほど悪くはないですが、もうちょっと改善したいところです。

 

まとめ

回路外観

 まず作って動かす、と言う意味では一応成功というところでしょうか。歪み率も100Ω負荷なら0.0数%オーダーと、十分実用域にあります。ただやはり33Ω負荷では、歪み率は相当悪化し、実用には厳しいです。もう少し改良を考えたいところです。

 右の写真で、部品を取り付けていない穴があるのに気が付いた方もあるかもしれません。実はプリントパターンを設計するときに、出力段をパラレル駆動できるように設計してあります。パラレル駆動によって電流供給能力が向上するので、33Ωでも性能を発揮するようになると思われます。

 次の実験でその辺を検証してみたいと思います。

 

参考文献

 「音を求めるオーディオリスナーのためのステレオ装置の合理的なまとめ方と作り方」 桝谷英哉著 大盛堂書房