ジェクト波動



      シーモア老師を殺してしまった。
      それはユウナ、ルールー、ワッカにとってとても恐ろしい事だった。
      グアド族は一行を仇として執拗に追ってきた。
      反逆者となってしまった事がユウナ達三人の逃げ足を遅くさせた。

      「・・・」

      「なあにアーロンさん?」

      「召喚して足止めしてくれ、キマリとリュックをサポートに残す・・・・」

      「解った。三人とお兄ちゃん頼むね」

      「ああ・・・・」

      先に駆けていたティーダの背中を一瞬だけ見つめて、すぐに背を向けた。
      少し遅れていたユウナ達がに声をかけようと止まりかけた。

      「三人とも早く行って!!追っ手は私が蹴散らしてあげるから」

      「ちゃん」

      驚き止めようとするユウナ。
      しかしは拒んだ。

      「ルールーさん、ワッカさん!ユウナさんを早く連れて行ってください」

      「・・・・」

      「何言ってんだ!俺が残るちゃんこそ・・・・」

      「言い争ってる暇はないのワッカさん!戦いに迷いは禁物なのはワッカさんが一番解っている事でしょう?」

      なおも食い下がろうとするワッカをルールーが止めた。

      「ワッカ、今はちゃんに任せましょう。ちゃん無茶だけは駄目ですからね」

      ルールーはに防御の魔法をかけると、立ち尽くしているユウナの腕を掴み走り出した。

      「チッ・・・・」

      「ワッカさんまた後で会いましょう。私が追いつくまでユウナさんお姉さんをお願いね」

      「ああ・・・・」

      ワッカはの言葉にハッとして次に力強く頷くとルールー達の所へと走りだした。

      そんな三人の背中に笑みを洩らした後、は一呼吸して迫ってくる追っ手に目を向けるのだった。

      「力を貸して!!いでよイクシオン!!」

      サーポート役として残ったキマリとリュックは驚き目を瞠る。
      ジョセ寺院では祈り子の間には入らなかった。
      しかしはイクシオンを召喚してユウナと同じように操っていた。
      戦いはあっけなく終わってしまい、キマリもリュックもの戦いを見ていただけになってしまった。

      「やるじゃない。圧勝だったね」

      「うん」

      「あまり無理をするな

      「キマリ・・うん解ってる。よし早く皆に追いつかなきゃ」

      はそう言うと走り出した。

      「待ってよ!」

      リュックとキマリは慌ててその跡を追うのだった。

      達はすぐにティーダ達に追いついた。
      がいないのに気付いたティーダが、先に進もうとしなかったのだ。
     
      「!!お前なんて無茶をするんだ。なんで俺に言わなかったんだよ」

      「もうお兄ちゃんったら何を駄々こねてるの!
      今はそんな事を言ってる場合じゃないでしょ。
      時間を稼いで追ってを退けてユウナさんを安全な所に逃がすのが私達ガードの役目なんだよ?」

      「でっでも何もでなくたって俺が・・・・」
    
      「でもも、かももないの!!それにほらまた奴らがやって来る」

      そう言ってはまたも追いついてきた追っ手を指差した。

      「ちょっとなんで魔物が一緒なのよ」

      追っ手のグアド族はウェンディゴという魔物を引き連れていた。

      「ふっ・・・・俺達を殺すのに凄い念の入れようだな」

      アーロンの言葉にワッカはギョッとした顔をする。

      「なんだお前はこいつらがそこまでするとは思ってなかったのか?
      シーモアの秘密を知ってしまった俺達はグアド族には邪魔なだけだろうが」

      「くっ・・・・」

      ワッカは反論出来ずに顔を歪めた。

      「何ゴチャゴチャ言ってるんだ!!来るぞ!!」

      ティーダの怒鳴り声に二人も戦闘体制に入った。

      「お前は下がってろ!!」

      「えっ?でも・・・」

      「少し休んでろって事!こんな奴俺達だけで十分だぜ」

      「お兄ちゃん・・・・」

      はティーダが自分を気遣っているのを感じて言うとおりにする事にした。
      
      「優しいお兄さんだね」

      「ユウナさん・・・・」

      「羨ましいな仲の良い兄妹で」

      「あの・・・」

      「私達もなれるかな?仲のいい姉妹に・・・・」

      「あっ・・・・」

      がユウナの問いに答えようとした時だった
      突然の地響きとともに地面がひび割れった。
      そして大きな穴に一行は落ちてしまった。


      ******


      「・・・大丈夫か?」

      「うーうん・・・あっお兄ちゃんここは?」

      「ここか、ここは氷の下にあった湖だ。あの衝撃で大きな穴があいちゃって・・・」

      「皆無事なの?」

      「ああ、皆お前が目覚めるまで脱出する手段を探してる」

      「そうだったの。もう私なら大丈夫だから皆の所に行こう」

      ティーダはが元気なようなのでホッした様子で笑うと、を皆の下へと案内した。
      皆のもとへと歩いている途中、は何か懐かしい波動を感じた。
   
      「?どうかしたのか?」

      「なんでもないよ。行こうお兄ちゃん」

      不思議がるティーダを急かしながらもの心はざわめいていた。

      「あっ大丈夫?」

      「ちゃん怪我はない?」

      達に気付いたユウナとリュックが近づいてきた。 

      「私はなんともないよ。皆は大丈夫なの?」

      「私達も他の皆も全然怪我してないの不思議よね」

      ユウナはそう言ってアーロンを見た。

      「どうした?ユウナ」

      「あの今回の事!!ごめんなさい。私が一人で解決しようとしたばっかりに皆に迷惑かけてしまって」

      「ユウナ・・・・」

      「そうね、ジスカル様のスフィアの事言ってくれれば・・・」

      「どうにもならんさ・・・」

      「アーロン!!どうしてだよ。もしシーモア老師の企みをユウナが教えてくれれば、絶対に結婚反対したろ!!」

      「奴はスピラの民の尊敬を集めるエボンの老師だぞ。
      寺院の奴らがどっちを信用すると思っている・・・・」

      「そんなでもあのスフィアをみせれば」

      「もうない・・・」

      「じゃあ俺達は反逆者になって寺院から追われて捕まるのか?」


      ティーダの問いにとリュックは身震いし他の者も俯いた。

      「これからどうするの?『シン』を倒す旅は続けられるの?」

      「ちゃん。旅は続けるよ」

      「でもユウナ、私達がシーモア老師を殺してしまった事はもう寺院に知れ渡っているわよ」

      「ルールー言いたい事は分かってる。
      でもね・・・このまま逃げ切れる訳ないしそれに次の目的地はべベルでしょ。
      マイカ老師にお会いして話してみようと思うの老師ならきっと事情を解ってくださると思う」

      ユウナはそう言うと仲間達を見回した。

      「俺はユウナが行くなら何処にでもいくよ。もリュックもそうだろ」

      「うん!お兄ちゃんの言うとおり」

      「もちろん・・・・」

      「キマリはユウナを守るのが役目だ」
  
      「そうね。ユウナの言う方法しかないわね。ねっワッカ・・・・」

      「ああ・・・・」

      「決まったな・・・・・」

      全員一致でベベルに向かう事が決まった。

      「それじゃあ此処から早く脱出しないとね!私が気絶してる間に皆探していたんでしょ?」

      「そうなんだけど・・・・」

      「みつからないの?」

      そんな会話をしている時だった。
      今まで聞えていた祈り子の祈りの歌がやんだ。

      「あっ聞えなくなっちゃった・・・・・」

      「祈り子様の歌?」

      「お父さんが好きだったの・・・・」

      「ジェクトさんが・・・・」

      がユウナにジェクトの思い出を話し始めた時だった。
      突然地面が揺れだした。

      「わっ!なんなの?」

      「・・・・・」

      なんとか倒れずに踏ん張ったの目に呆然としているティーダの姿が映った。

      「お兄ちゃん!?」

      ティーダの許に駆け寄ろうとした時、また激しい揺れを感じ、その後は懐かしい温もりに包まれ意識を手放した。


      *****


      目が覚めたが最初に見たものはブリッツのボールと父ジェクトだった。

      「お父さん?」

      近づこうとしたの目の前で情景が変わりジェクトが海の中から赤ん坊を助けている場面に変わる。


      「あれが・・・わたし」

      祈り子の間でブラスカから聞いた真実、まだ全部を信じた訳ではなかった。
      の目の前で色んな思い出が写しだされては消えていった。
     
      「そうか・・ここはお父さんの心の中ね。だからお兄ちゃんも私も小さいままなんだ。
      もう私もお兄ちゃんもあんなに小さくないのに・・・・」

      はジェクトの自分達を思う親心がとても切なかった。

      「お父さんの時は止まったままなんだね。必ず助けてあげるからね・・・お父さん」

      薄れいく意識の中ではそうジェクトに語りかけた。