鼓動
その夜はにとって何故か落ち着かない日だった。
兄のティーダはブリッツ大会の決勝の為にもう家を出ている。
「もうアーロンさん遅いな、始まっちゃうよ!」
は試合ぎりぎりまでアーロンを待っていたが彼が来る様子もないので
スタジアムに行く事にした。
「ふう どうしたのかな?朝からドキドキする・・・緊張してるのかな。お兄ちゃんが決勝だーって喚くから」
はティーダから貰ったチケットを入り口で渡すと階段を上った。
「うわーっいっぱい人が入ってる♪よかったー」
は席に座るとプールの中の兄を探した。
(あれっ?いないなお兄ちゃんどうしたんだろう・・・・)
少し心配になったは席を立ち上がると控え室に向おうとした。
「ワッー!!」
会場が割れんばかりの歓声に包まれた。
ゆっくりとティーダが現れたのだ。
は安心して席に戻る。
試合はティーダの所属する「ザナルカンド・エイブス」が有利に進めていた。
ティーダがボールを持つたびに観客からは声援が飛ぶ。
「お兄ちゃん・・・此処できめなきゃ・・・・」
試合が最高潮になりティーダがボールを持った。
は体がゾクッとした感じがしたが、頭を振り大きな声でティーダに声援を送る。
「兄ちゃん!!いけー!!」
ティーダがジェクトシュートを打つ体制に入る。
けれどもそれは放たれる事はなかった。
「ジェクト本当に良いのか?・・・・わかった。二人は俺が導こう」
が待っていたアーロンはそう呟き二人の許へと向う。
それは突然起こった。
いきなりスタジアムが揺れはじめる。
「なに?」
はふと何かを感じて辺りを見回す。
「何かが来る・・・・行かなきゃ!」
は出口に走り出した。
異変を感じた観客もと同様に出口に向う。
が下の階に辿り着いた時、大きな咆哮が聞こえスタジアムが崩壊しだした。
「キャアー!!」
の上にも崩壊した建物の瓦礫が落ちてくる。
(もう駄目だよ・・・ティーダお兄ちゃん!!)
は恐怖に目を瞑り死を覚悟した。
(大丈夫・・・・)
そんな声が聞こえた気がした。
「えっ?」
はその声にそっと顔を上げる。
「大丈夫か?」
「アーロンさん?どうして此処に・・・・」
「ティーダの試合を絶対に見に来いと言ったのはお前だろう?」
「そうだけど・・・」
「それより此処は危険だ表に出るぞ」
アーロンはを立たせると歩き出した。
「あっ待って」
は慌ててアーロンを追った。
外に出ては自分の目を疑った。
「何これ!?街がめちゃくちゃになってる。どうして・・・・」
呆然としているの耳に名前を呼ぶ声が聞こえた。
「!!大丈夫だったんだな」
「お兄ちゃん!!よかった無事だったのね」
「当たり前だ」
二人はお互いの無事を確認するように抱き合った。
「二人とも行くぞ」
アーロンはそう言うと何故か人の居ない方へと歩きだす。
「おい。アーロン何処行くんだよ!そっちは危ないって」
ティーダは引きとめようとしたが彼は何も言わず歩いていく。
「アーロンさん待って!お兄ちゃん行ってみよう。少なくとも此処にいたってどうしようもないもん」
はそう言うと駆け出した。
「待てよ!」
ティーダも舌打ちしなからも二人を追った。
どのぐらい歩いただろうか、アーロンは突然止まると空を見上げた。
二人もつられて見上げて驚きの声を上げる。
「何だアレは・・・・」
「見たことないよ私・・・・」
は不安になりティーダの背中にしがみ付いた。
「俺達は”シン”と呼んでいた」
「「シン??」」
とティーダはアーロンがこの巨大な怪物を知っている口ぶりに首をかしげた。
その時、シンが動いた。
「来るぞ」
「「えっ??」」
三人の目の前に大きなウロコらしき物が無数に落ちて来てそれは突然姿を変えて魔物となった。
「きゃっ」
「うわっ」
ザナルカンドには魔物などはいない。
二人は見たことない異形の生き物に立ち尽くした。
「ティーダ、を護るんだろ」
アーロンはそう言うとティーダに剣を手渡す。
「・・・・」
「ジェクトのみやげだ」
ティーダはハッと顔をアーロンに向ける。
「アーロンさん!!お兄ちゃんに剣なんか持たせないでよ」
「ふっは俺達の後ろに隠れてろ。いいかティーダ剣はこう使うんだ」
アーロンは向ってくる魔物を一振りで倒す。
ティーダは見よう見真似で襲い来る魔物に切りつけた。
「お兄ちゃん!!」
「!下がってろ。お前のそばには絶対に近づけさせない」
目の前の魔物を倒しながら三人はハイウエーを進んだ。
「ちっきりがないぜ!!アーロン」
「そうだな・・・・」
次々と襲ってくる魔物にティーダの息もあがってきた。
そんな二人を心配して見ていただったがふと何かの気配を感じて空を見上げる。
「うそ・・・シンが真上に」
「なっ」
驚きの声を上げるティーダ。
シンは突然三人を自分の中に引きずりこもうとした。
ティーダはと離れてはと思い彼女の手を握る。
「いいんだな?」
アーロンは誰かに小さく問いかける。
その問いはの耳に聞こえた。
「アーロンさん?」
「おいアーロン、このままじゃこの怪物の腹の中だぞ。だから俺はこっちじゃないって言ったんだ」
「フッ覚悟を決めろティーダ。いいか二人とも、これから何が起こっても道を決めていくのは自分自身だ。これはお前達の物語だ」
「アーロンさん!!」
「うわっ!!」
二人は一瞬のうちに意識を飛ばした。
***
が最初に見たものはザナルカンド街の明かりだった。
「あれ?全然壊れてない、どうして・・・・」
自分の体が浮かんでいる事に気付きは慌てて周りを見渡しティーダとアーロンを探した。
「いない・・・そうだ!!これは夢よ、きっとそうよ」
はそう思うとして目を瞑った。
「お願い夢なら覚めて・・・・」
けれども彼女の願いは叶わない。
そのうち懐かしい気配を感じて目を開けた。
「お父さん?」
ぼんやりと見えるのは確かにジェクトだった。
はジェクトに近づこうと空中を泳ぐように進んだ。
けれど近づくつれジェクト姿は別の人物へと変わっていく。
「えっ女の人・・・誰?」
は引き寄せられるように女性に近づいた。
女性は金色の髪で腕に大事そうに何かを抱えていた。
「・・・・」
確かに女性はそう言った気がした。
「私を呼んだの?」
はなんとか彼女の側に行こうとするが前に進まない。
足掻いていると突然、女性は消えてしまう。
「あっ待って!!」
の声が空間に響いた。
「お兄ちゃん・・・・何処?」
は泣きたくなった。
するとまた声が聞こえる。
「泣かないで、きっと助けるから」
「えっ!!」
はその声に辺りを見廻した。
さっきまで女性がいた所に見知らぬ少年と小さな自分らしき少女がいた。
「あれは・・・私?でも何かが違う気がする・・・」
は動かずにその二人を見つめていた。
はその光景を見ているうちにとても懐かしくて、自分はこの場面を知っているとそう思った。
どの位たっただろう。
不意に浮遊感を感じてまた意識を失った。
意識を失う瞬間は、自分はあそこに帰るんだと思いホッとする。
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