Angel's Wing 9

 それから、数ヶ月がたって。

 僕達は兄さんのオートメイルの整備のために、一度リゼンブールへと立ち寄った。

「よっ。」

「久しぶりー。」

「エド!アル!」

 驚きながらも、ウィンリィが笑って出迎えてくれた。

「とりあえず、今。お茶を入れるねー。」

「いいよ。別に。」

「私達も、丁度休憩しようとしてたところなのよ。」

 と笑って部屋を出て行こうとしたウィンリィが、何かを思いついたようにくるりと振り返った。

「…ああ、そうだ。ねえ、あんた達『ジュディ・M』って歌手知ってる?」

「あ、ああっ。」

「ゆ、有名だもんね。凄く人気があるんでしょっ」

「そう。…何焦ってんのよ?」

「い、いやっ。」

「な、なんでもないよ。」

「?…まあ、いいわ。旅ばっかりしてる錬金術バカのあんた達でも知ってるんだから。やっぱり彼女は凄いわね。」

「…どういう基準だよ。」

「実は、私も前から歌は結構好きだったんだけどね。この間街へ出たときに、偶然出たばっかりのアルバムを見つけたのよ。思わず買っちゃった。すんごくキレイなの!」

 見て見てー。と棚から大きなアルバムサイズのレコードを出してくる。

「じゃーん。」

 そう言って得意げに見せられたジャケットには…。

「「………!」」

 この間、ジュディと撮った写真だった。

 顔は勿論映っていなかったけど。兄さんとジュディが手を繋いで並んで背中を向けて立っているもの。

 しかも、兄さんの方の背中には白い絵の具で翼を書き足したような処理がされていた。

「…何か、この金髪の感じとかって…エドと似てない?」

 改めて見て、ウィンリィがそんなことを言い出した。

「っんな訳ねーだろっ!」

「そう、そうだよ!」

「…そう…よね。…歌もすっごく良いの。聴いてみる?」

「あ…聴きたい、聴きたい!」

 僕がそう言うと、ウィンリィはレコードをセットしてくれた。

「このジャケットの写真のイメージって、多分1曲目のだと思うんだ。良く聴いてね。」

 そう言って、ウィンリィはお茶を入れに行ってしまった。

 

 

「…やられた…。」

「うわー、すごーい。中の写真も全部この間のだよ。…あー。僕の手も小さくだけど映ってる。」

 メインは当然ジュディだけど、紛れもなく鎧の僕の手が映っていた。

 映っていたのは手だけだったので、鎧だなんて分からない。

 オートメイルの手なのか?それとも金属の義手なのか?又はロボットなのか…想像は幾らでも膨らませられる。そんな使い方。

 あの日の夜。

 色々と話している中で確か言っていた。『この次に出るアルバムのイメージは自分の意見を通した』と。

 だとしたらきっとこの写真もジュディのイメージで。

 …やっぱり、彼女は凄い。ジーンと感心していると…。

 

 前奏が始まって…。

 

 歌が始まった。…歌詞を目で追いながら聴いていく。

 

 

― ねぇ君は時々

  無防備すぎるくらい

私に全てでぶつかって来る

それはあまりにも

  眩しすぎる程で

私は瞬きさえも惜しむの

 君は背に天使の羽を持つ ―

 

 

 

 流れる歌詞に、兄さんの顔が少しずつ赤く染まっていく。

「これ。…兄さんのこと…だよね。」

「……っ……。」

「…歌手って凄いね。…もう、愛の告白も全国的規模じゃん。」

「っ、だっ、誰がっ!」

「だって、どう聞いたって…。」

「うー。うるさい、うるさい!」

 『愛の告白』を否定しないあたり…。

 

 わいわい言っているうちに、曲が終わってしまった。

「もう一回聴いてみよう〜っと。」

 

 そっと、レコードの針を落とした。

 

 

― 頼りなくて情けなくて

不安で淋しくって

声にならない声でぬくもりを欲しがった ―

 

 

 

 今度は、何も言わずに 僕達は黙って聴いていた。

 

 

― ねぇ君は確かに

  突然現われ

私の暗闇に光射した

そして少し笑って

  大丈夫だって頷いて

  私の手を取って歩きだした

 君の背に天使の羽を見た―

 

 

 

「…罪を犯して、足掻いている俺を……天使だと言うのか…。」

 

 途中、兄さんが苦笑交じりに小さく呟いた。

 

 

 

 そして、曲は最後の部分へと差し掛かる。

 

 

― この悲しき時代の犠牲者に 君はどうかならないで欲しい

  切なる想いが届くようにと 私は今日も祈るように歌う ―

 

 

 

 これは、兄さんだけにではなく。僕ら二人へのメッセージ。

 

 ジュディの気持ちが嬉しかった。

 

 これから、僕たちは。

 

 この国のどこかで彼女の歌声を聞くたびに、とても心強く思うだろう。

 

 

 

「…ま、あいつが訳わかんねーのは、何時ものことだからな…。」

 

 ひどく優しい声でそう言った兄さんは、何だかとっても男っぽい表情をしていた。

 

 

 

 

words:ayumi hamasaki
「ANGEL'S SONG」より

20060118UP
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皆さんは、レコードとかって分かりますかね?
アルバムレコードはCDの4倍くらいの大きさがあるんで、結構ジャケットに凝ろうと思えば凝れるんじゃないかな。
本当は、浜崎あゆみ女史の『ANGEL’S SONG』を聴きながら読んで欲しいくらいなんです。
このシーンが私のハガレンにおける夢小説の原点です。一番初めに書いたものです。
ですので思い入れが大きすぎて、これ以外の形でのUPは考えられませんでした。
二次創作作品自体がすでに著作権上問題はあろうかと思います。
歌詞の引用についてだけあれこれ言うのは違うのではないかとも思いますが。
とにかくこの作品だけは私にとって特別で…。このような形は今回限りだと思いますのでどうかご容赦を…。
もしも本来の著作権をお持ちの方(ご本人や所属の会社)よりの削除せよ等のご指摘があった場合はそれに従います。
そして、ジュディサイドの話。おまけは
こちら
(06、01、30)

 

 

 

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