U、すすむ基地の拡大・強化

1、 新滑走路建設で1.4倍化の拡張計画
 
 防衛施設庁は現在岩国基地の沖合い215ヘクタールをうめたてて、基地の1キロメートル沖に新しい滑走路を建設する「滑走路移設事業」に着手しています。この「移設」は岩国基地の拡大・強化以外の何物でもありません。
 「滑走路移設事業」によって岩国基地の面積は、1.4倍、約800ヘクタールになります。ところが、移設というなら広がった面積は変換されるべきですが跡地返還計画は皆無です。これでは事実上の基地新設です。しかも、工事期間約十年とされるこの計画の総事業費1600億円は「思いやり予算」で、すべて、日本側が負担します。まさに前代未聞のアメリカ軍奉仕計画です。広がるのは埋め立て部分だけではありません。基地沖の市有地など約10ヘクタールも新たに提供しなければなりません。ここには岩国市のし尿施設があるのです。

2、 基地拡大はしないとする「県議会決議」にも違反する「移設事業

 多くの岩国市民は基地が広がれば、当然跡地が返還されるだろうと考えていました。実態を知り「だまされた」と怒りの声も高まっています。74年の山口県議会決議も跡地利用を前提とし、基地の拡張や機能強化にならない計画を求めています。防衛施設庁の「滑走路移設事業」は地元住民の騒音被害や、墜落の危険をなくしてほしいという願いを、滑走路を沖合いに出せばこれらが「解決」されると装って基地を拡大強化させる計画になっています。

   岩国基地沖合い移設に関する要望決議
 
 米軍岩国基地の離着陸コースの下には石油化学、化学繊維、製紙など大工場群が林立するほか、民家などの密集地域でもあり地域住民をはじめ、隣接の市町村民は絶えず航空機の墜落の危険と騒音公害に悩まされえている現状である。
 これが打開策として、現滑走路及び施設を海上沖合いに移設するための市民運動が展開されており、また、国においては防衛施設庁予算にもそのための調査費が計上されているところである。
 よって、政府ならびに国におかれては、基地の拡張や機能の増強になることなく、かつ、移設後の現基地跡は、地域住民の民生安定及び福祉向上のために最大限利用されるような方向において、同基地の沖合い移設をはかられるよう強く要望する。
 以上決議する。
 一九七四年三月二十六日
                                 山口県議会

3、 事実上の滑走路の二本化
 「滑走路移設事業」は現滑走路より1000メートル沖に新しい滑走路を建設する計画です。防衛施設庁は現在の滑走路は誘導路として利用し、滑走路としては使わないとしています。しかし、現在の滑走路はそのままの状態とされ、いつでも使用可能です。使われないという保証はありません。また新しい滑走路は、幅が現在の46メートルから60メートルに広げられます。
 こんな基地機能の強化に地元住民からは「飛行機の離発着が増えたり、訓練が激化したり、今まで以上に騒音が激しくなる。また事故の危険が大きくなるのでは」と不安の声が上がっています。

4、大型艦船も接岸可能な岸壁も建設

 現在岩国港にはない新しい港湾施設も建設する予定です。水深13メートル、長さ360メートルの岸壁(シーバース)が新設されます。このシーバースは大型艦船が接岸できる国内最大のもので、佐世保基地の強襲揚陸艦ベローウッドも接岸可能となります。大型艦船用のシーバースガ建設されると、輸送能力も飛躍的に高まり、海兵隊の出撃基地としての岩国基地はさらに増強されることになります。

5、ヘリポートも増設
 防衛施設庁は新しい滑走路の東に、新たに幅42メートル、長さ36メートルのヘリポートも建設する予定です。このヘリポートは海上自衛隊のMH53Eが使用するものとされていますが、米軍が使わない保障はありません。

6、なぜ今「滑走路移設事業」が
「移設」事業は96年度から工事が着工されました。この事業は68年アメリカ軍のF4ファントムが九州大学に墜落したことをきっかけに、岩国市と山口県が中心になって国に要望してきました。岩国市は「移設」の必要性として次のような点をあげています。

@       事故、騒音の軽減
A       離発着コースの下に化学工場軍があるが、事故の危険性を少なくし、上空制限などによる産業発展の阻 害要因を取り除くこと。
B       工場群上空通過をさけるための航空機急旋回をやめさせるため
C       基地の安定的運用

7、「移設」より撤去が住民の願い

 しかし、滑走路が1キロメートル沖に建設されることによって、これらの問題が根本的に解決されるわけでしょうか。
 事故や騒音がなくなるわけではありません。どれだけの事故の危険性が少なくなるのでしょうか。ジェット機の騒音はすざましい音です。1キロメートルの滑走路移設で平穏な市民生活が保障されるのでしょうか。跡地返還がなくて、どうして産業発展が望めるのでしょうか。 
  結局、現在と大きな状態の変化は望めないのです。住民の「事故や騒音を無くしてほしい」という願いを実現しようと思えば、基地を撤去させるしかありません。

8、海兵隊出撃拠点強化のねらい

 基地を1、4倍化し、新しい滑走路、港湾施設、ヘリポートを建設するこの「移設」事業は、海兵隊の出撃拠点を強めるための計画なのです。
 この計画はアメリカ軍の要望にそう計画だというほかありません。岩国基地に駐留していた航空部隊はユーゴ爆撃にも参加しました。「殴りこみ」策戦のために、中国山地での超低空飛行訓練を繰り返し、ペルシャ湾や朝鮮半島が緊張した情勢となれば、夜間離発着訓練(NLP)が強行されています。
 朝鮮半島に最も近い位置で、アジア太平洋地域での有事の際に出撃する拠点基地として、大増強が図られているのです。

9、基地移設で藻場、干潟も消滅

 「移設」事業で基地沖215ヘクタールが埋め立てられることにより、貴重な藻場42ヘクタール、干潟41ヘクタールが消滅します。
 藻場は魚介類の産卵、成育の場となっています。干潟は水を浄化し、魚介類、鳥類等の生態系を維持する上で重要な役割を果たしています。「瀬戸内の環境を保全をはかる事を目的とする」瀬戸内法(瀬戸内海環境保全特別措置法)はその基本計画で、藻場と干潟の保全を義務付け、埋め立てについての基本方針では自然環境に及ぼす影響が軽微であることを条件としています。

瀬戸内法の基本計画

魚介類の産卵育成の場となっている藻場および魚貝類、鳥類等の生態系を維持するうえで重要な役割を果たすとされている干潟が減少する傾向のあることにかんがみ、水産資源保全上必要な藻場および干潟ならびに鳥類の渡来地、採餌場として重要な干潟が保全されること。

 移設事業で消滅する藻場は藻の中でも生産量が高く、貴重なアマモです。周辺海域には約150ヘクタールの藻場がありますが、少なくともその27%が消えてしまいます。広島湾全体で266ヘクタ−ルの藻場が確認されていますが、その約15%が消滅します。
 干潟は周辺海域に約135ヘクタールありますが、その約31%が消滅します。広島湾全体では、349ヘクタールの干潟がありますが、その約10%が消滅することになります。
 自然環境に及ぼす影響は重大です。ところが防衛施設庁は瀬戸内法に違反しないとして、強引に埋め立てを進めています。

10、基地拡張のための愛宕山開発
 防衛施設庁は、基地拡張のための埋め立て土砂は地域開発計画と連動させて入手するとして、山口県や岩国市にも負担を迫っています。そのために山口県と岩国市は基地拡張事業に必要な土砂を搬出するために、市街地に隣接する愛宕山を削り、大規模な住宅団地の開発に取り組んでいます。
 この開発事業は山口県住宅供給公社が事業主体となり、総事業費は750億円もかかります。高さ120メートルの愛宕山を50メートルの高さまで削り、約105、7ヘクタールを開発し、約2,235万立方メートルの土砂を搬出する計画です。その跡地には、1500戸約5600人が住む住宅団地が作られようとしています。
 開発規模もスケジュールも基地拡張計画に連動する、まさに基地拡張優先の計画になっています。

11、不安がいっぱいの開発計画
 2000年2月から土砂を搬出するため、現在全長3、4キロメートルのベルトコンベアーが国道188号線、山陽本線をまたぎ、岩国特産のレンコン作りの田んぼの真中を横切って設置されています。ベルとコンベアー設置のため19戸が立ち退きました。この開発計画事態も問題点がいっぱいです。山を削るため排水対策に住民の不安の声があがっています。また財政問題も深刻です。搬出する土砂は469億円で国が買い取り、収支は850億円でつりあうとしていますが、もし宅地が完売しなければ、赤字分は山口県が3分の2、岩国市が3分の1を補填し、住民の負担となるのです。岩国市の人口は毎年減少しており、見通しはまったく不透明なものとなっています。
 また、開発区域内の道路、公園、下水道などの関連事業に山口県と岩国市で約50億円の負担が決まっています。岩国市の財政危機に拍車をかけるこの計画のため、市民の切実なくらし、福祉、教育の要求が後回しにされつつあります。
 そして、市街地の大切な緑である愛宕山がなくなることにより、環境の変化も心配されています。さらに、基地拡張工事などで地元にも経済効果があるのではと一部に期待の声もありましたが、地元企業への発注はわずかで、大部分は大手ゼネコンが独占しました。基地拡張で米軍と大企業だけが喜んでいるのです。

図左黒い斜線部分(愛宕山)から砂を出し、図右へ埋め立てる

KC135空中給油機(沖縄普天間)2001、5、5基地開放デー
沖縄・普天間基地の岩国移転に反対する要望決議
 岩国市議会は、戦後50年を超え、数多くの基地が所在する沖縄県民の苦しみをどこよりも深く理解している。
 今、大田県知事を先頭にした沖縄県民の運動のひろがりの中で、日米地位協定の見直し、米軍基地の整理・縮小の世論が高まっている。
 そうした中で沖縄・普天間基地の岩国移転が検討されているが、これ以上の岩国基地機能の拡大、強化は絶対に許されないことである。
 したがって、岩国市民の不安解消のため、普天間基地の岩国移転は絶対に認められない。
 よって、政府ならびに国会におかれては、岩国市民の意思を尊重し、今後一切、普天間基地の岩国移転を行わないよう強く要望する。
 以上決議する。
  平成八年三月二十五日
                        岩国市議会
 
 12、普天間部隊移駐でさらなる基地強化
  1996年米軍岩国基地の拡張が始まったのとほぼ同時期に突然起こったのが沖縄の普天間基地からの空中給油機部隊の岩国への移駐問題です。
  1996年4月15日「沖縄に関する特別行動委員会の中間報告」(SACO)で、普天間基地から12機のKC130空中給油部隊とその支援施設を岩国に移駐させるという計画が発表されました。
  KC130空中給油機は多量の航空燃料を積載し、事故が起これば大惨事となります。米本国では空中給油機部隊のいたプラッツバーク空軍基地を、市街地に近いということで閉鎖しているのです。
  さらに移駐により米兵が増えることも明らかになっています。岩国市議会も全会一致で「沖縄・普天間基地の岩国移転に反対する要望決議」を行いました。
  普天間基地の空中給油機部隊の岩国移転計画が発表された直後は、岩国市長も「いかなる移駐にも反対する」というコメントを発表しましたが、その後態度を変え移駐を承認することを明らかにしました。
  基地拡張工事、普天間部隊の移駐問題が起きる中結成された「平和な岩国をめざす会」が呼びかけた「普天間部隊の岩国への移駐に反対する」署名運動には、一万人を超える署名が寄せられ政府交渉を行いました。

13、基地のたらいまわしでなく縮小、撤去を 
 普天間部隊の岩国移駐は米軍の出撃拠点としてますます重要になっている岩国基地の明らかな機能強化です。
 そして普天間部隊の岩国移駐は、基地の縮小・撤去を求める沖縄県民の願いも踏みにじる、基地のたらいまわしです。
 「もう犠牲の押し付けはごめんだ」これが住民の声です。沖縄と連帯し、「基地の縮小・撤去」の世論と運動を強めることがますます重要になっています。