きっかけはハイカ
二輪車向けのETCはやっかいな問題です。その指令、実施、車載器セットアップ、運用等に、国土交通省、(財)道路新産業開発機構(HIDO)、(財)道路システム高度化推進機構(ORSE)、有料道路事業者(各高速道路株式会社)の四者が四つどもえで関わり、どこが責任の中枢なのかあいまいなまま、いまだ本格スタートの予定も立たず、加えて市販用の車載器製造に名乗りを上げているメーカーがいるのかどうかも不明です。肝心の二輪の高速利用者はというと、この秋にも本格スタートかと春に報道されて、期待が盛り上がったぶんだけ失望も大きく、ハイカが中止になったための自衛策を工夫しているのが現実です。(アンケート調査報告参照)
たんに、二輪ETCの開始が予定より遅れているだけなら、なにも「問題」視することはないでしょう。実際私はツアラーのナナハンを購入したために高速を利用することが増えてしまったのですが、いつもハイカを利用していたので、二輪のETCについては、それがスタートしたら装着を検討しよう、くらいに考えていただけで、ほとんど無頓着でいたのが事実です。
それが、二輪ETCがまだ始まってもいないこの9月に、道路公団が一方的にハイウエイカードの販売を中止したことに納得が行かず、いったい二輪ETCに何が起っているのか、何が行われていないのか、考察しようとしたのが『二輪車ETC問題 その1〜9』のコラムです。(このシリーズは、二輪ETCが実現するまで、連載を続ける予定でいます。)すると、ハイカの廃止にとどまらない、ETCのかかえる問題がかいま見えてきました。
現在、二輪車ETCをあえて『問題』として扱うメディアやサイトは少数ではないかと想像します。それどころか、試作の車載器を使った一般モニター募集が11月1日に始まったので、いよいよ二輪ETCの実現に向けて前進かと思われているようにも見えます。はたしてそうなのか。
四輪ETCに『問題』なし?ORSEの発表資料によると、2005年10月31日現在でETC車載器のセットアップ台数は累計で910万台、高速道路の通行台数にETC利用台数の占める割合は全国平均で10月が50.7%、首都高速は59.9%とあります。利用率が50%を突破して、料金所渋滞が解消したという発表については『その6』で紹介しました。
車載器の装着率が上がったのは、高額ハイカの廃止と車載器の価格が下がったこと、さらにETCによる各種割引の導入が大きく作用しているためであることは周知です。装着率アップは、結果というよりは、そこへ導くためにこれらの施策がとられたとも見えます。なにはともあれ、導入コストに見合ったETCのメリットが享受できるようになることは喜ぶべきことです。願わくは、これらの割引サービスが、その目的が達成されたとして、そのうち廃止にならないことですが。
料金所の渋滞が解消した以上、これから車載器をつけるかどうか迷っているドライバーは、車載器のコストと割引制度を天秤にかけることになります。その場合は、どれだけ高速を利用するのか、その頻度しだいでしょう。
でもその前にある数字を押さえておかなくてはなりません。それは、そもそも日本には自動車が何台あるのか、ということです。自動車の保有台数はこちらに統計が発表されています。その「自動車保有台数推移表」によると2004年3月現在で、乗用車が55,288,124台、貨物車17,015,253台、乗合車231,984台、特殊車1,673,959台、二輪車(125cc以上)が3,180,925台。合計で77,390,245台。このうち、特殊車と二輪車を除いても、その台数は72,535,361台となります。
いくら、ETC車載器の装着数が910万台とはいっても、7250万台からすれば13%ほどでしかありません。それでいて、ETC利用率が50%を越えているというのは、高速の利用車がいかに偏っているかを示唆しています。高速を全く利用しない車両と合わせて、ETC車載器をお金を払ってまでつける必要を感じない利用頻度の低いドライバーが、圧倒的な割合を占めているのではないかと想像できます。
最近ETC装着車に対して「通勤割引」が提供されていますが、ETCの車載器の価格といい、割引の対象といい、現在のシステムは日常的に高速を利用する客を想定しているフシがあります。いまのところ、ETC利用率が上がり、料金所渋滞が解消または減少したことを最大効果として謳い上げていますが、問題は、そうした通勤ドライバーや社用車といったユーザーに車載器が普及し切ってしまうと、取り残された四輪車にたいしてはもうハイカ廃止のように、ETC装着に追い込む手段がなくなってしまうことでしょうか。めったに高速を使わないドライバーにしてみれば、短くなった料金所渋滞は、わざわざそのために車載器を購入するだけの動機にはならないでしょう。
とすると、問題は、料金所の待ち行列が解消された段階で、それ以上のETC普及は意味なしとするか、それとも、とにかくETC普及ありきで、ETC搭載車を対象とした特典を増やすことで差別感を煽り、さらなる普及を目指すか、という今後の施策次第です。そのとき、二輪に遅れてはじめて『四輪ETC問題』が浮上することになるかも知れません。
二輪を後回しにしたツケがETCとはElectronic Toll Collectionの頭文字で、現金を使わずに、電子的に料金計算と支払いを行うシステムです。ゲートでの支払いをスムーズにスマートに処理するETCは、四輪よりもむしろ二輪にこそ望まれていたものです。これまでは、できるだけ時間をかけずにゲートを通過するために、多くのライダーはハイカを利用していました。プリペイドカードとしての割引も利便性を高めていました。
現在日本ではETCとは、徐行して専用ゲートを通過する無線ETCを指すことになりますが、旧道路公団は一旦停止はするもののゲートをスムーズに抜けるもう一つの方式としてスイカ型ICカードによる非接触方式も検討していて、実験も繰り返していました。これなどは、高価な車載器も必要としないし、車種にも依存しない、そのためにたまにしか高速を利用しないライダーでも公平にメリットを受けることができそうです。
それが現在のETCになった経緯と問題点は「有料道路研究センター」の『ETC問題について』に詳しいのですが、そこに以下のように説明があります。
日本でも、道路公団が中心となって早くから研究、開発が進められ、平成4年にはメーカー数社の協力を得てフィールドテストの段階に入っていました。ところが、実用化寸前の平成6年7月に、旧建設省から公団による収受システムとしてのETC開発に中止の指示がだされ、以後、ETCはITS の一環として建設省(現国交省)の主導で、改めて研究、開発が行われることになりました。その結果導入が遅れ、多くの問題を抱えたまま、平成13年4月からようやく、一般利用が始められました。つまり、ITSという、まだ実態のない未来図のなかにETCを無理やり収めようとしていることが、いろんなきしみを生んでいる背景にあります。にもかかわらず、ITSのためには、とにもかくにもETC車載器を付けさせることが前提ですから、首都高などはそのうちETCをつけていない車は利用できなくなるか、法外な通行料を課せられることになるやも知れません。四輪だけならまだしも、四輪を前提に設計されたシステムの車載器は、さて二輪にはどう装着したらいいのか、そもそも装着できるのか、が大きな課題として立ちはだかることになりました。ですので、今のままでは二輪車ETCは、本格稼働が遅れているのではなくて、どこかで無理をしなければならない宿命があるようにも見えます。その宿命とは、車載器が高価なものになるか、搭載できる車種が限られることを容認してそれ以外は切り捨てにするか、それともその両方か。
0.5%の権利料金の収受だけに特化していれば、ケータイよりも小さく、安価な「車載器」で済んだことでしょう。げんに私は昨年メルボルンに滞在した折りに、レンタカーで有料の高速(ゲートなし)に乗りましたが、クレジットカードくらいの大きさの送信機をダッシュボードの上にポンと置くだけの簡単で負担の少ないシステムでした。これならケータイのようにライダーのポケットに収まったかも知れません。
それは「実現しなかった未来」のひとつでしょうが、とにかく小型でバイクにフィットする車載器が市販されるのかどうかが、現在のところ究極の関心事になっています。同時に、二輪ETCが本格スタートするまで、高速道路会社がハイカの廃止に当たって公約した以下のことを実行してもらわねばなりません。
高速を利用する車のうち、二輪車が占める割合は現在0.5%ほどだと、どこかで目にしました。車載器メーカーの意欲を挫く数字です。(そもそも、メーカーに競争させようという仕組み自体がおかしい。)けれど、アンケート調査結果から分かるように、二輪ライダーの期待がいかに大きいかということもあわせてメーカーに知っていただきたいと思います。「仮に二輪車ETCの本格導入が遅れた場合は、二輪車ETCの本格導入までの間の緊 急的な措置として、二輪車の方も割引を受けられるような対応を検討してまいりたいと 考えています」
追記(05.11.25):0.5%じゃなくて0.16%
高速を利用する車両のうち二輪は0.5%と、あてにならない記憶で書きましたが、小林ゆきさんが「高速道路の二輪車通行台数の概算」(2005.11.24)でフォローしてくださって、彼女の計算だと0.155%になりました。そのブログにコメントをつけた方が「高速自動車国道の車種別・目的別シェア」の資料へのリンクを紹介してくれておりました。その資料でも同様に0.16%となっております。これは、車載器メーカーをさらに落胆させる数字に見えます。では、二輪車載器が発売になったらどれだけ売れるか、シミュレーションしてみましょう。
まず、上述したように、現在四輪のETC車載器搭載台数は910万台、二輪を除く自動車保有台数は7400万台。保有台数にたいする割合は12%です。現在ハイカが廃止になっても四輪オーナーからあまり不満の声が聞こえていないことから、ハイカを重宝していた高速利用ユーザーはほとんどETCを装着したものと見做すことができます。ETCのメリットをすぐに享受できているこれらETC車載器搭載車を「初期導入ユーザー」と呼ぶことにします。
二輪保有台数が320万台ですから、四輪と同じ割合でETCが装着されるとすると、その台数は38万台。
いっぽう現実は二輪の高速利用は全体の0.16%、高速の料金所のETC利用率が現在50%ですので、高速をいくらかでも利用する二輪ライダーが全員ETCを付けると仮定しても(二輪ETCアンケートより)、初期導入ユーザー数は 910万 x 0.0016 x 2 = 3万 にしかなりません。
ざっと10倍の差があります。ここから、変動要因を考慮します。
まず上記の「車種別・目的別シェア」から、高速利用は乗用車が59%であることが分かります。そして高速利用目的の項目で、通勤通学、業務、営業車両などを除いた「社交、娯楽、帰宅」が遠出・レジャー・ツーリングと思われますが、それが23%を占めます。
一方で、二輪はバイク便などがありますが、ほとんどが「乗用」です。そのユーザーの排気量別用途がJAMAの資料にあり、それによると排気量が大きいほどツーリング指向であることが分かります。グラフから、125cc以上の自動二輪は半分ちかくがツーリングにバイクを使い、ツーリングであるからには高速を利用するケースが多いと想像できます。さらに、二輪のツーリングはほぼ週末や祭日に集中しますので、二輪の高速利用が一日平均で0.16%としても、7日のうちの2日に集中しているとしたら、利用率は最大で7/2 = 3.5倍とカウントされます。
以上、乗用目的として四輪の1.7倍、ツーリング目的が四輪の2倍、土日に集中する割合も3.5倍とはいわないまでも2倍と仮定すると、予測される初期導入ユーザー数は 3万 x 1.7 x 2 x 2 = 20万 ほどではないかと予想します。これはどんな車種でも装着できて、取り付けに違和感を与えないデザインと大きさ、さらに価格が納得がいくものであれば、充分に現実的な台数でしょう。メーカーが開発を検討する際に参考にして欲しいと思います。