ナナハン憧憬 (07.10.20)


750ccの大型二輪車の市販車がCB750とZephyr750の2モデルだけになって久しい。 カワサキからは公式アナウンスがないようだが、いよいよZephyr750も生産終了らしく、そのHPでもこの火の玉カラーが「ファイナルエディション」と、最終モデルであることを示唆している。その後に残るCB750は、最後の空冷4気筒モデルとして、ひとり直系ナナハンの系譜を守ることになるのか。

かつて750ccバイクはライダーの目標であり、憧れであり、そして誇りでもあった。そんな時代が、静かに遠ざかっていくかのようだ。日本で最初の大型バイクとしてのホンダのCB750 FOURは、それに続くライバルのZ2ことZ750RSとともに、ジャパニーズモーターサイクルのひとつの原点であり、記念碑である。とりわけ、限定解除試験制度が大きな壁としてライダーの前に立ちはだかっていた時期は、ナナハンがライダーの目指す高みのシンボルでもあった。そんな80年代半ばに、私は初めてバイクに跨がり、CBXに乗り出してからすぐに限定解除に挑み、合格すると、ナナハンではなく、誇りだけ手にした。

そのころ、雑誌のバイクカタログには、各メーカーの750ccのモデルがフラッグシップとして巻頭に並んだ。今から思うと、それぞれのインプレは、購買意欲を誘うためのコピーというよりは、そのバイクが限定解除に挑戦する価値があることを印象づけるような含みがあった。ちょうど空冷から水冷へとエンジンの主流が変わるころで、Z1系の空冷エンジンと決別して水冷エンジンで登場したGPz750Rはとくに異彩を放っていた。その兄貴分のGPz900Rは、海外市場向けに20年ものロングセラーを続けることになる。それは、速いけれどレーサーレプリカにはない重量感と風格、さらに品位をそなえた、カワサキ独特のオーソドックスなデザインによるものだろうか。今でもナナハンと聞いてまず思い浮かべるのは、CB750FとこのNinjaだ。

やがて大型二輪免許が教習所で取得できるようになり、国内販売の排気量規制が解除された。さらにスーパーバイクのレース規定が変更になると、ナナハンはかつての輝きを失っていく。そもそもCB750FもGPz750Rも、かつてのZ1にたいするZ2のように、もともと海外向けに開発した900ccベースのものを国内向けに排気量を750に落としたモデルであったため、バイク購入を検討するライダーはいきおい上位機種に目が向いてしまう。車重もほとんど変らないとあれば、当然というほかない。

大型バイクが900, 1000 または1300ccが主流となり、いまや中間排気量クラスと呼ばれる750ccだが、私にとっては、重量、出力、燃費、価格からして、750ccあたりが最もバランスがいいように感じる。エンジンをレッドゾーンまで回せるのもこのクラスまでだろう。

さて、CBXを失ってから自動二輪から遠ざかっていた私だが、ようやくバイク窃盗がはっきりと減少に向かうところとなった2年前、やっとライダーに復帰した。選んだバイクは、3気筒エンジンのK75S。外車にナナハンの呼称は似合わないかもしれないが、これは私が限定解除に挑んでいたころ、その端正で秀逸なデザインが目を引いたモデルだ。バイクの選択にあたっては、ツアラーであることが条件だった。日本一周の旅に出ようとしていた矢先に奪われたCBX。その夢をこんどはナナハンが受け継ぐ。

国内市販車として唯一のナナハンとなったCB750。これまで、カラーリングが懐古調のものだったが、先月台数限定で加わったスペシャルバージョンはCBX1000を思わせる斬新かつ上品なカラーリング。バイクはカラーリングでずいぶんと印象が変わるものだ。現役で走っているナナハンも多いだろうが、一方でオーバーナナハンに気圧されて、意気消沈しているナナハンはほこりをかぶっているかしら。外観がみすぼらしくなっていたら、ペイントし直すといいのに。私のK75Sは製造から16年も経っていたが、ショップがきれいにペイントしてくれたので、まるで新車と見まがうほどだ。

いまどれだけのナナハンが走ることなく眠っているものか。ナナハンの過去を引きずるこだわりを80年代ライダーの特権とさえ思う私は、ちょっと化粧直しすることで、あの頃の輝きを取り戻すであろうナナハンたちを、これから静かに待とうと思う。



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