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-44- (2010.5 - 2010.8) 


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 ('10/8/21) 
イラク米軍基地にハーレー販売店?

8月20日付けの日本版ウォール・ストリート・ジャーナルに、アメリカの戦闘旅団のイラクから撤収を伝えるAPの配信記事が掲載されていました。

米国主導のイラク侵攻から7年5カ月がたち、オバマ大統領の掲げる戦闘任務完了の
期限が31日に迫る中、イラク駐留米軍の最後の戦闘旅団がイラクから撤収した。
『最後の米戦闘旅団がイラクから撤収』 2010年8月20日 11:04 JST WSJ日本版
おやっ、と思ったのは、その記事にハーレーをイラクで購入したという青年兵士のことがあったからでした。
ディル二等軍曹は「イラクでの任務については一生誇りに思うだろう。最初の侵攻時
にイラクに派兵され、最後の戦闘部隊としてイラクを去るのだから」と語った。

そんな彼をワシントン州オリンピアで待っているのは、イラクの米軍基地のハーレー
ダビッドソンの販売店で購入したバイクだ。これは、03年3月20日のイラク侵攻以降、
イラクで米国の存在感がいかに大きくなったかを鮮明に表している。
なになに、ハーレーは商魂たくましくイラクですでにショップを開いているんか? 2,3ヶ月前に見たマット・デイモン主演の『グリーン・ゾーン』でもハーレーなんか登場していなかったと思うけど。翻訳がミスっているのかしら、と本家 The Wall Street Journal に当たってみました。というのも、WSJ日本語版の翻訳は抄訳が多いので、ときどき文脈がつかめないときなど原文に当たることがあります。今回は、記事は後半を省略していましたが、ハーレーのくだりはそのままでした。
Now, waiting for him back in Olympia, Wash., is the "Big Boy" Harley-Davidson 
he purchased from one of the motorcycle company's dealerships at U.S. bases 
in Iraq ― a vivid illustration of how embedded the American presence has 
become since the invasion of March 20, 2003.
"Last U.S. Combat Brigade Leaves Iraq" 2010年8月19日 10:49 A.M.ET  The Wall Street Journal
細かいこと言うと、"Big Boy" って"Fat Boy"のミスか、それともハーレーバイクを総称するニックネームなのか、私には分かりませんが、翻訳はそこを回避したみたいな。でもイラクで購入って、やはりちょっと変だな、と調べてみたら、同じように変だなと思ったハーレーと二輪専門のアメリカのジャーナリストが、すでにブログで反応していました。
I didn't know about the Harley dealers on bases in Iraq either, so I looked 
them up. Turns out, it's part of a program that's been around awhile for U.S. 
troops serving overseas.

<私もイラクの基地にハーレー販売店があるなんて知らなかったので、ちょっとしらべたら、
わかった。これは以前から実施されている海外駐留米軍の特典制度だという>
"Getting out of Iraq, soldier looks forward to his Harley ... that he bought in Iraq"
by Brent M. Burkey  2010年8月19日 12:34 PM  York Harley Watch
この制度とは Harley-Davidson Military Sales Program で、海外派遣の兵士にたいして、特別価格のオファーだけでなく、
海外で注文、US国内400の販売店のどこででも受け取れる
海外で注文、海外でも受け取れる
Harley-Davidson Military Program
というもの。第2次大戦で軍用車を提供していたハーレーがまだ陸軍と親密な関係をもっているのかな。去年ハーレー・ミュージアムを訪問したときに、大戦中BMWのボクサーツインのコピーまで製造していたことを知りました。(『ミルウォーキーの旅』2010年2月16日)

いずれにしろ、海外派遣にたいする特別報償金で「一台ハーレーを記念にいかが」との商魂がハーレーにないとも言えない。その意味ではハーレー自体はAPが言うところのアメリカの存在感の象徴ではないでしょうが、アメリカがなんのためにイラクへ侵攻したのか、その疑問は今でも大きな presence ではあります。


 ('10/8/20) 
モンキーが危ない

モンキー(ゴリラ)を狙った犯行が連続しています。軽量であるだけに、持ち去ることが大型車よりも楽であることと、人気車としてマニアも多いことが背景にあります。以下はNo.4'614 福岡市のMonkeyさんから。

cbx様
初めまして しょうと言います。
以前から モンキーに興味があり 近くのショップに40周年記念モデルを見つけまして
購入してまだ 2年でした。少しずつ お金をかけて 飾りつけていたところでした。
U字ロックだけで 場所から離れて 2時間で盗難でした。
ただ 今でも信じられなくて もどってこないかな?と思っています。
知り合いのところへ 遊びに行き 盗難でしたので 何か納得できなくて
WEBで盗難で調べていたら このサイトへ
是非 みんなで協力して探しあてたいと 思いました。
みなさん 諦めず 頑張りましよう。
以下はNo.4'615 三郷市のGorillaさんの被害状況です。明らかに下見と周到な準備のもとでの犯行に見えます。
12日夜7時半に帰宅した時は、自宅駐車場にあるのを確認。
キーロック、ハンドルロック、ワイヤーロック施錠の上、カバーをかけて止めていました。
駐車場奥にゴリラが置いてある前に自動車を駐車。
車と壁との間はゴリラがギリギリ通る位の間隔が空いていました。
当日夜1時過ぎまで起きていましたが、怪しい物音等は聞いていません。
翌朝6時半に起きて、駐車場を確認したらゴリラはありませんでした。
カバーごとなくなっていました。
車の側面に傷なども付いていませんでした。

すぐに警察に通報しましたが、盗難届けの受理のみで何もせず。
当日近所を捜索しましたが、発見できず。
新聞販売店等にも情報を聞きましたが、怪しい目撃情報等は得られませんでした。

特徴に似た車両の情報がありましたら、確認に行きますのでよろしくお願いいたします。


 ('10/8/8) 
盗難バイクリストの統計処理で見えてくるもの

4年前に大阪のKさんが当サイトの盗難バイクのデータベースを、被害状況により集計してくださった表を、このコラムで紹介しました。あれから4年経って、再度集計いただきました。その中から、今回は被害件数2584のうち上位20件の対策リストを添付します。

[K]と申します。お久しぶりです。

2006年頃に、統計データをお送りいたしました。 4年ほど経って、どれぐらい変化があるだろうかということと 私自身の住居形態が変わったので比較してみようと思い、再度統計を取ってみました。

今回は、場所別のデータを利用して統計してみました。 場所関わらず全体的に言えることは、やはりキーロックのみの防犯が 盗難される可能性が圧倒的に多いということでした。

有効データ約2600件の内、半分の約1300件がキーロックで盗難にあっています。

場所別では、Dの集合住宅敷地内(建物内ではないが敷地内駐車場、庭の中など) が約800件と多く、私自身がDなのでちょっと心配しておりますが、自己防衛の 意味で防犯状況を高めることができ、123456の状況になっております。

但し、全体で見ても防犯状況の高めであるはずの23456でも6件、Dでは4件もあるので 安心ばかりもしていられない状況でもあるようです。

防犯と盗難はイタチゴッコですが、現状に安心することなく防犯意識を持って 対応していきたいと考えております。

もし皆さんのお役に立てるようでしたら、ご利用ください。 よろしくお願いいたします。

今回上位20件を選んだ理由は、赤と青の色をつけた防犯対策にあります。リストの上位は、どのような防犯対策が被害に遭いやすいかを表して、下位は、どのような対策が効果があるかを示唆するものです。防犯ブザー(センサー)や監視カメラ(その他)は犯人が嫌がる防犯装置のトップ2ではないかと思います。しかし、防犯ブザーを設置したのに被害に遭った件数は167、監視カメラが94件。ところが、この仕掛けが両方同時にされていたケースは12件と、極めて少ないことがKさんの集計数字から見えてきます。

被害場所の分類でいうと、集合住宅の建物外Dが800件、同じく集合住宅の建物内Bが400件。集合住宅のバイクは窃盗団のお手軽ターゲットです。集合住宅でバイク盗難の被害に遭うのは、個人の問題ではなくて、そこで生活する住民全体の治安と安全の問題ですので、監視カメラの設置を提案されることを勧めます。今では監視カメラも個人で設置できるほど、ネット機器が安価になっています。監視カメラが鬼なら、防犯ブザーはいわば金棒。


 ('10/7/24) 
NHKの盗難車転売組織ドキュメンタリー

楽しみにしていた20時からのBS2『気ままに寄り道バイク旅〜鹿児島編』。清水国明と国井律子のコンビによる自然体の会話と、地元の人々との触れ合いがツーリングの楽しさを盛り上げます。年1回じゃなくて、春、夏、秋の3部編成にしてほしいな。

この『気ままバイク旅』を見て一息ついていたら、22時からのNHK地上波『追跡! A to Z 「日本発盗難車転売ルート」』を放送しているのに気づくのが遅れました。ここで「盗難車」とは四輪のことで、なんでいまごろ?と、途中から見ていました。内容は、日本で盗まれた高級車が今やドバイ経由でアフリカのケニアにまで転売ルートが伸びていること、車体をバラバラに分解して日本で船積みして、ドバイできれいに復元していること、などなど、すでに周知のことばかりでしたが、まあ、真新しいことは、イモビライザーを解除(ID書き換え)する簡単なデバイスがインターネットで簡単に入手できるほど出回っている、ということくらいでしょうか。

結局、窃盗に新たな手口が加わったことと、「多国籍窃盗団」が日本人の安心を脅かしていることを印象づける内容でした。なんのことはない、10年前からあまり代わり映えのしない取材と視点でした。

代わり映えしない取材、というのは、まず「車台番号」の扱いに出ています。分解された車は車台番号を見ないと盗難車かどうか分からない上に、1箇所にしかない車台番号をコンテナのパーツの中から捜し出して照合するのが困難だ、とのナレーションがありました。じゃあ、車のIDとしての番号の導入にまで突っ込んだらどうなの、とつい愚痴ってしまいそう。

盗難特集はいつもそうですが、犯行の手口はここまで来ている、と脅威を印象づけて、防犯対策を促す内容に終始しています。でも、問題は犯行と防犯だけではありません。繰り返しになりますが、当サイトでVINを重視するのは、VINがちょくせつ盗難防止に役立つわけではないが、盗難車を転売しにくくすると考えるからです。転売できる環境が揃っているから窃盗が流行るのであって、その逆ではない。

それともうひとつ視点というのは、「日本発」というタイトルにも表れていますが、取材の視点がどうみても日本に引きこもっているメディアによる日本被害者事件でしかない、ということ。番組では、海外で日本からの盗難車と分かって没収された車のオーナーの声が聞かれました。ではどうやって盗難車と分かったかというと、通常は、現地警察が盗難車と思しき車両の「車台番号」を日本のインターポル(国際刑事課)に照合を依頼して来ます。それをインターポルが各警察署に提出されている被害届のリストと照合して、盗難車であるかどうかを回答するしくみになっています。

ですから、犯罪がグローバル化している現在、せっかく番組を組むなら、まず警察庁の国際刑事課へ行って、どの国から何件の問い合わせがあり、そのうち何件が盗難車両だったのか、取材するくらいの国際センスがあってもよかったと思います。

ついでに、もひとつ気になったこと。日本のメディアが被害者意識の視点からばかり海外で取材しているせいか、犯人側からのこんな開き直り発言が引用されることがよくあります。「日本の車はは鍵をかけないで金庫を外に置いているようなもの。どうぞ持っていって下さいと言っているようなものだ」。すると、そうか、おれは防犯意識が低かったのか、と反省する視聴者が多いものでしょうか。

そう思うのは間違いではない。けれども正しくもない。問題は、被害者の自己責任ではなくて、簡単に転売されないような環境、法制度ができていないことにあります。車(四輪も二輪も)のIDとその運用が整備されていないために、盗難車の特定がむずかしいのが現状。車の車台番号ってどこ見ればいいのか、知っているドライバーは少ないでしょう。なかには車のIDはナンバープレートと勘違いしている人もいるでしょう。あれは登録番号であって、つまり税金を払っていることの証明。日本では車は徴税のための道具であって、盗難車の転売をいかに防止・摘発するかという発想は陸運局にも警察にもありません、残念ながら。こんなことだから、「多国籍窃盗団」の目からみると、日本なぞはメディアも警察も関連省庁も、みんな引きこもりの内弁慶でしかないでしょうな。ちょろいもんだ。


 ('10/7/15) 
「戻ってきたらどんなに嬉しいだろうと」

犯罪白書で見るとオートバイ盗難件数は大きく減少していますが、減っていようが増えていようが、被害者にとってはどうでもいいことで、「まだ被害ににあっていない」オーナーにとっても、予防対策に手を抜く理由にはなりません。登録者が添えてくださるメッセージは、ライダー仲間への貴重な伝言として、ときどきここに掲載させてもらっています。以下はNo.4,600 杉並区のZoomerさんから。

はじめまして。[H] と申します。
おととい原付を盗難されて、
藁にもすがる想いで検索していたところ、
こちらのサイトを知った者です。
ぜひ、盗難バイクリストに登録させていただきたいと思い、
メール致しました。

7月12日21時頃〜7月14日11時頃まで、
自宅マンションの敷地内に停車しておきましたが、
盗難されてしまいました。
エンジンキーは抜いてあり、ハンドルロックもしておりましたが、
お恥ずかしながらその他の防犯対策は特にしておりませんでした…。

7〜8年乗り回していたので使用感があり、
フェンダーやミラーに、
転倒したときについた傷がたくさん残っております。
また、傷がところどころ錆びています。

通勤のため毎日利用していた原付でしたが、
ご覧のとおり、ボロボロな状態だったので、
「誰も持って行かないだろう」と安心してしまっていました。
今思えば、ボロボロだったからこそ、
きちんと手入れをしていないと判断され、
狙われたのだろうと大変恥ずかしく思っております。

今回盗難されて初めて、自分の防犯意識の甘さや、
また、今まで想像もつかなかったような
防犯の手口などを知ることとなりました。
それらを知ることが出来ただけでも勉強になりましたが、
やはり、原付が戻ってきたらどんなに嬉しいだろうと思います。

cbxさんのようなサイトを見つけて、
心細い気持ちが少しだけ落ち着いたような気がします。
お忙しい中恐れ入りますが、情報の掲載をどうかお願い致します。


 ('10/6/15) 
もうひとつの最も感動的な地球の映像

宇宙から見た地球のいちばん感動的な映像は「地球の出」。アポロ宇宙船がとらえた、荒涼とした月の地平線から昇る、生命の星―地球。その画像を加工して当サイトのタイトルグラフィックに使っています。

もうひとつ感銘を与える地球の映像は、大気圏突入の直前にはやぶさが最後に送ってきた画像。

相次ぐ故障を乗り越えて帰ってきたはやぶさに、その「目」で、もう一度地球を見せたい――。はやぶさ計画を率いる宇宙航空研究開発機構の川口淳一郎教授らが撮影を思い立った。カプセル放出から大気圏突入までの約3時間、残るエンジンなどの力を振り絞ってカメラを地球に向ける。
「はやぶさ」大気圏突入前、地球撮影に挑戦 6月13日03時02分 読売新聞

日本時間13日午後10時2分に撮影した白黒写真を送信中の同28分、はやぶさが地球の裏側に入ったため、地上との交信が途絶。写真のデータも途切れたが、地球の姿が奇跡的に写っていた。
「はやぶさ」最後の力で撮った故郷 6月14日02時10分 読売新聞

途中で途切れている画像が、長い旅の終りに最後にはやぶさが一瞬目にした地球の姿そのものだったような印象さえ残します。

JAXA宇宙教育センターが制作した『はやぶさ物語』はイトカワを離れて地球に向かうまでのはやぶさをCGをうまく使ってドラマにした秀作。はやぶさが最後に見た地球映像は、その完結編の一部のようです。

【追記 '10/6/19】 この最後の写真がどう撮影されたか、じっさいに担当された技術者の方の報告が以下に掲載されています。

 『ラスト・チャンスの地球撮像』 JAXA トピックス 2010年6月18日


 ('10/6/14) 
はやぶさ帰還報道に見る内外差

いち早くテレビの特集番組を組み、動画つきの記事をアップしたのは、やはりBBCでした。

"Japanese Hayabusa asteroid mission comes home" 15:25 GMT, Sunday, 13 June 2010
GMTで日曜午後3時25分、ということは日本時間の14日午前0時25分。なんとはやぶさが火の玉となって最後の輝きを放ってからわずか1時間半ほど。番組と記事を周到に準備していたことがわかります。

NHKは現地で撮影していたのに、ライブ中継までは考えていなかったようです。深夜のニュースで放送はされたようで、午前4時35分にその動画がアップされています。さすがにいい機材を用意していたものか、画像も鮮明です。

『はやぶさ カプセル落下を確認』 NHKニュース 6月14日 4時35分
はやぶさにカメラを向けていた報道機関や研究班も多かったのでしょうが、なんとNASAが観測のためにDC-8を仕立てて、ハワイ経由でオーストラリアに飛んできていました。19台ものカメラを機体の窓に取り付けて撮影したかったものは、カプセルが耐熱材に守られて無事帰還するかどうかの研究目的もありました。その映像がYouTubeにアップされています。
NASA Team Captures Hayabusa Spacecraft Reentry
NASAのDC-8撮影班の記録はこちらにあります。
Hayabusa Re-Entry airbourne observing campaign
NHKが撮影班を送り込んでいながらライブ中継の番組を組まなかったことに、すでに批判と不満の声があがっているようです。民主党の「事業仕分け」ではやぶさの後継機の開発費が削られたことも合わせて、はやぶさの話題はまだまだこれから盛り上がることでしょう。

 ('10/6/13) 
はやぶさとHAYABUSA

今日は山梨のほったらかし温泉へひとっ走りして朝風呂につかっておりました。ふだんHAYABUSAを見かけることはほとんどないのですが、談合坂SAでも、ほったらかし温泉でも、そして一般道でも、何台か見かけました。めずらしい。さては「はやぶさ」が帰還するのが今日だから、記念走行していたオーナーもいたものか。

アポロ13の再現とも言われ、また「2010年:宇宙の旅」と呼ばれることに違和感のない、文字通り満身創痍の探査機「はやぶさ」が、もうすぐ大気圏に突入します。残念ながらテレビの実況は企画されなかったようですが、ネット上では10時半からライブ中継が始まります。Wカップよりも、こちらのほうが目が離せません。

【追記 23:10】 はやぶさが火の玉になって帰還と同時に燃え尽きた映像は感動ものでした。ライブ中継したのは和歌山大学宇宙教育研究所。その録画映像がすぐにUSTREAMにアップされています。

 "hayabusa re-entry"



 ('10/6/7) 
パーソナルコンピューティングの未来

iPodに続きiPhone、さらにiPadで快進撃を続けるアップルのスティーブ・ジョブズの公開インタビューの抄録が、The Wall Street Journalに掲載されています。『iPad:過去、現在、未来』と題したその記事に興味を惹かれる発言がありました。

まず、ジョブズが出版社を渡り歩いて、iPadが出版業界にとって救世主だ、と触れ回っているが、というインタビューアーに対して、

One of my beliefs very strongly is that any democracy depends on a free, healthy press, and so 
when I think of the most important journalistic endeavors in this country, I think of things 
like the Washington Post, the New York Times, The Wall Street Journal and publications like 
that, and we all know what's happened to the economics of those businesses. I don't want to 
see us descend into a nation of bloggers. Anything that we can do to help the news-gathering 
organizations find new ways of expression so that they can afford to keep their news-gathering 
and editorial operations intact, I'm all for.

<これは私の信念だが、デモクラシーとは自由で健全な新聞報道によって支えられてこそ成り立つものだ
と思っている。アメリカの優れたジャーナリズムについて考えるとき、まず思い浮かべるのは、たとえば
ワシントンポスト、ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナルといった出版社だ。ところが
現在この業界を見舞っている経済状況は誰もが知るところだ。そして私はアメリカがブロガーの国になり
下がってほしくないのだ。こうした新聞社が新たな表現の方法を見出して、その優れた取材と編集能力の
活動が生かされるよう、応援したいと思っている>
"The iPad: Past, Present, Future" Wall Street Journal  6月7日
私自身も出版・印刷に関わった仕事をしているので、デジタル革命のなかで印刷がどうなるのか、ずっと関心をもって見ています。いわゆる「新聞の危機」はPCの登場の前から議論されていたことですが、デジタル化が新聞やニュース報道のあり方を急速に変えているのは事実です。ジョブズはコンテンツ配信という観点から、次のように続けます。
The biggest lesson Apple's learned is: Price it aggressively and go for volume. I think people 
are willing to pay for content. I believed it in music, I believe it in media and I believe it 
in news content.

<アップルが学んだ最大の教訓は「思い切った価格で量を確保せよ」だ。人はコンテンツに対して対価を
払う気がある。音楽については私はそう信じていた。他のメディアについても、ニュース配信のコンテンツ
にしても、そうだと信ずる>
ニューヨークタイムズや他の新聞メディアは最近オンライン配信の有料化を進めていますが、こうしたことに言及しているのでしょう。ただ、これは有料配信にすれば済む問題ではなくて、デジタル化するなら、コンテンツそのものも紙メディアの制限から拡張されないとならないでしょう。動画や音声を画面に取り込むことはすでに始まっていますが、有料、つまり会員制になることで、もっとインタラクティブな志向を強めることもできるでしょう。記事につての投票はいうまでもなく、購読会員そのものを記者にすることもできなくはありません。現在の日本の全国紙でもっとも時代錯誤な紙面は「読者の声」欄というやつでしょう。

面白いのは、PCについてのコメント。それは自社OS中心のPC像から抜け出せないマイクロソフトのカリカチュアでもあります。

When we were an agrarian nation, all cars were trucks, because that's what you needed on the 
farm. But as vehicles started to be used in the urban centers, cars got more popular. Innovations 
like automatic transmission and power steering and things that you didn't care about in a truck 
as much started to become paramount in cars.
PCs are going to be like trucks. They're still going to be around, they're still going to have 
a lot of value, but they're going to be used by one out of X people.

<アメリカがまだ農業国だったとき、車はみなトラックだった。それが農作業で必要とされたからだ。ところが
乗用車が都市部で使われだすと、もっと広まった。オートマやパワステなど、トラックにはあまり重宝されない
ものが発明されて、車の主要な機能となった。
PCはトラックのようなものだ。まだ見かけるし、まだ利用価値がある。けれど、それは10人に1人が使うだけ
のものになるだろう>
OSに依存するPC、あるいはOSのメーカーに支配されていたPCの時代は、パーソナルコンピューティングの助走期間でしかなかった、ということになるでしょうか。

私自身は20年以上前からのマックユーザーですが、iPhoneもiPadも購入予定はありません。昨年末に買った20インチのiMacで満足していますし、PowerBook G4はまだまだ現役です。ただ、iPodにしろiTuneにしろ、これはSonyが先陣を切るべき事業と思っていました。そこに踏み切れず、アップルの後塵を拝することになったのは、旧来の機器の製造設備の維持が足かせになったものでしょうか。

かたやアップルは自社の製造設備は持たず、製造を外注委託しています。ということは日本語でいうところの「メーカー」とは違って、設計者であり統率者というべきか。その身軽さが強みではありますが、いつそれが弱みに転化するかもしれない危うさも見ないとなりません。

なにかと「ものづくり」にこだわる論説が目立つ日本のメディアの型にはまった報道ですが、たんに製造することではなく、なにを製造するか想像(Imagine)して設計(Design)することに価値の比重を移してもいいように思います。

なお、ささいなことですが、日本語で表現内容を表す「コンテンツ」とは英語で Content。Contents の意味する「内容」とは目次や成分表などを指します。でも、いまさら「コンテント」も、どうかしら。


 ('10/6/5) 
またも唖然 最近の手口

No.4'582 さいたま市 CB1300SFさんが添えてくださった犯行の手口、というより、下調べ。犯行の前には必ず下調べがありますが、「それっぽさ」がないのが特徴です。

産業道路の交差点のすぐ近くで交通量も多いのにやられました。
リアを持ち上げフロント転がしてワゴン車で複数人で運んだ模様。
なお同日事件前の夕方に階下の大家宅に5km以上はなれた場所の
食堂が開店したということで挨拶に来た不審な若い2人の男がいたそうです。
ちなみにその2人、チラシや名刺、店舗名すら名乗らなかったとか。


 ('10/6/3) 
鳩山首相辞任報道に見る内外差

予想していなかったわけではない鳩山首相の辞任ですが、日本のメディアの報道はどれをとってみても週刊誌の記事の域を出ないものばかり。しかし、海外メディア、その中でも、BBCはさすがに冷静な報道をしています。

『日本の鳩山首相 沖縄問題で辞任』の見出しのその記事は、辞任表明が「不評な米軍基地」を沖縄から移転させるという選挙公約を破ることになった直後のことだった、という書きだしで始まっています。

記事は、沖縄には日本に駐留する47,000人の米軍の半分以上が集中して、その沖縄市民から反発されていること、米兵による犯罪や事故に県民が怒っていることを1995年に起きた少女暴行事件まで引きあいに出して言及しています。

そんな背景のなか、鳩山首相が沖縄の米軍基地を県外へ、またはいっそのこと国外に移転しようと模索したが徒労に終わったと指摘、最後を以下のパラグラフで結んでいます。

Okinawa is the focal point of the security treaty between the US and Japan which has 
balanced military power in north-east Asia since World War II.

Under the pact, Japan - which is prevented from maintaining a war-ready army by its 
constitution - subsidises the US military presence while the US guarantees Japan's 
security. 

<沖縄は米日間の安全保障条約の要であり、それが第2次大戦以降の極東のパワーバランスを
保っていた。憲法によって臨戦兵力を保持できない日本はこの条約のもと、アメリカに基地
を提供することで安全を保証してもらっている>
"Japanese PM Yukio Hatoyama resigns amid Okinawa row" BBC News  11:14 GMT, Wednesday, 2 June 2010
このパラグラフは、とくべつ記者のコメントではなくて、一般に流布している日米安保の存在理由です。これがそのとおりかどうか、ではなくて、このような文脈で使われることで、鳩山辞任がじつは安保問題だったことを示唆するものとなっています。けっきょく、日本の米軍基地は日本の主権の及ばない問題であること、そして、日本メディアがこの問題に触れることを避けていることが分かります。 いったいこの世界で、他国の安全を守ってやろうなんて親切なおばかな国があるものか。国家は、外交と軍事については国益のみで動いているもの。たとえ他国の主権を踏みにじることになっても。いわんや首相のひとりやふたり。いや、これで何人目か。

 ('10/5/23) 
大英博物館

イギリスに仕事で出かけておりました。通りすがりのロンドンで1時間ほど時間があったので、大英博物館へ。10年前に訪れたときは改修工事中でしたが、すっかりきれいになっています。折しも、エジプトやギリシャ政府が、ロゼッタストーンや古代彫刻を返せ、などと返還要求を突きつけているのがニュースになっているので、これらがイギリスにあることを初めて知った人も多いのではないか、と想像します。心なしか、ロゼッタストーンの前はツアー客の人だかり。パルテノン彫刻の間は、10年前と同じたたずまいでした。

parthenon sculputre



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